ほんの一瞬、私の汗がぽたりと落ちたその一瞬でソードマスターの姿が消えた
気づくとフィルの横で剣をすでに振りかぶってる
「フィル!!」
「大丈夫です。見えてますから!」
フィルは拳につけたガントレットでその攻撃を防いで、槍を抜かずそのまま拳で思いっきりソードマスターを殴りつけた
「ぐぎぎ!!」
ソードマスターはなんとかその攻撃を剣で防いでる
あんな大きな剣であの速度の拳を防ぐなんて、やっぱりこのゴブリン、強い
「なるほど、それならやはりこちらですかね」
槍を抜いて構えるフィル
「ぐぎゃ!」
それを見て嬉しそうに笑うソードマスター
このゴブリン、戦うのが好きなのかも
「ニンゲン、ヨウヤク本気、ウレシイ」
「しゃ、しゃべったああああああああああああああああ!!」
私達は口をそろえて驚いた
なにせ人語を話すゴブリンなんて見たことも聞いたこともないんだもん
「オレ、ゴブリンソードマスターノ、ファンファン。タタカッテ、オレト戦って!」
「どうやら害意はなさそうですが、純粋に戦うのが好きなだけ、のように見えます。戦闘狂、と言ったところですね」
彼?は剣をまた構える
「スライドラッシュ!」
視界から消えたのはこれだったんだ
体勢を低くして一気にダッシュ、そこから死角に入って斬りつけるスキル
人型の魔物なら扱えるのもうなづけるけど、ゴブリンの筋力じゃ普通はできない
「槍術、風流し」
フィルはその斬りつけを槍でそっと受け流した
「ぐぎ、コレもダメ、でもマダヤレル。大剣術、大車輪!」
「え!?」
これは、ヒト族が使うスキルだ・・・
大剣に全ての力を乗せて、空中で回転しながら丸鋸のように斬り続けるスキル
それを、どう考えてもヒト族より筋力が低いゴブリン族が使うなんて
これは異常なことだと思う
「なるほど、その剣の重量ならば、私では受けきれませんね」
「だったら、私が受けるだけ!」
ソードマスターの大車輪を剣で受ける私
「ハァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
火花が散り、激しい剣と剣のぶつかり合いの音が響く
止まらない大車輪を私はただその筋力で受け続ける
足がズルズルと後ろの下がって行く
でも受け続ける
「ハアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
私は踏ん張ってる足を一歩、また一歩前へと踏み出した
「け、剣術、刃覇押し(はばおし)!」
これは本来剣の腹のところで思いっきり殴りつけるスキルだけど、押し返すのにちょうどよかったのよね
「ぐぎゃあああ!」
ソードマスターは吹っ飛ばされて地面に転がる
「んぎ、コ、コレで最後、コレダメダッタラ、お前たちの、勝ち」
ソードマスターがフラフラと立ち上がる
「大剣術奥義、
大剣が燃え盛って、それを思いっきり振り下ろすソードマスター
ものすごい熱量と、威力
「なっ!? まさか奥義まで使えるなんて! 一体何なんですかこのゴブリンは!」
「フィル危ない! 火の一閃!」
私はすでに火の一閃をいつでも出せるようになっている
だからそれで、ソードマスターの繰り出した奥義を真正面から受けた
「あ、ぐぐ」
凄い力、こんなのもう、ゴブリンじゃない
彼は一体何者なの?
でも、筋力は私の方が若干上みたい
彼の剣の炎は消えて、私の炎が彼を包み込んだ
「グギャアア!!!!」
「ウォーターボール!」
下位の魔法をさらに弱めたもの、それを彼に被せた
なんでそうしたのか分からないけど、なんだか彼は悪いゴブリンに見えなかったのよね
「ぐぎ、ナンデ? オレ負けた。死ヌノ当然。なぜ助けた?」
「あなた、悪い子に見えないんだもん。教えて、あなたはどうやってそこまでの力を持ったの?」
「・・・。敗者は勝者に従ウ」
そう言えば、彼の言葉が聞き取りやすくなってきてる。もしかして、私達の会話を聞きながらラーニングしてたって言うの?
だとすると、もうゴブリンの枠に収まっていい子じゃない
「オレ、名前ファンファン。元々ただのゴブリン、ダッタ。オレ、ゴブリンの群れの、一番弱いヤツだった。でも、ある日、あの方が来て、オレを強くしてクレタ。オレ、強くなったから、強いヤツと、戦って、もっと強くナリタクナッタ」
彼が言うには、数ヵ月前にゴブリンのコロニーにフードを被った小柄な、人型の魔物が来て、ゴブリンたちを強化してくれたらしい
その強化方法は、薬を投与すること
ただの飲み薬でここまで強化されるものなの?
彼に関しては、ソードマスターという特異個体に進化してるわけだし
それに、これで判明した
魔物に何等かの力を与えてるナニカがいる
オークの特異個体のオークヒーロー、ゴブリンたちが突然現れたわけ、あのゴブリンタイタンたちも多分そいつが原因なんだと思う
「仲間タチ、皆あいつの言いなりダッタけど、オレは意識、奪われなかった。だからオレ一人で逃げた。もう帰る場所もない。殺せ」
「・・・。ねえフィル、彼をカズマさんの元へ連れて行ってあげましょうよ! この子は多分大丈夫。人を傷つけたりしない」
「ぐぐぎ、オレを負かしたのお前だから、オレ言うこと聞く! 死ねと言われたなら今すぐ死ぬ」
「いいえ、あなたはこれからある人を守ってもらいたいの」
「守る? 任せろ!」
「まあ確かに、彼から悪意といったものが感じられません。そうですね、連れて行ってカズマさんに合わせてみるのもいいかもしれません。ファンファンと言いましたかね? なんだか愛くるしいようにも感じますし」
フィルも同意してくれたし、私達は彼を連れてカズマさんの元へ急いだ