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第18話

 なんだか森が騒がしい

 レナたち騎士団のこともあるし心配だが・・・

 俺は魔物の恐ろしさを思い出す

 ゴブリン相手にも苦戦し、一度ならず何度も魔物に殺されかけた記憶がよみがえって来た

 俺は震える足を抑える

「ニャァ」

 ルカが俺の膝の上に来て慰めるかのように鳴く

「ありがとうルカ」

「んにゃ」

 ルカのおかげで少し落ち着いたが、ハハハ、情けない話だ

 俺は未だ戦うのが怖い

 この歳にもなって誰かを守るためにこの命を使うことができない

 それは多分、前世で一度死んでしまったからって言うのもあるんだろうな

 ともかく、死にたくないが先に立ってしまう

 今はただ、彼らの無事を祈って待つ

 そうだ、美味しいご飯を作っておこう

 彼らがまた笑顔でこの家で、俺の料理を食べてくれるように


 ところが変わり、赤の山と呼ばれる、カズマが住む森の奥の奥、最奥にあるという魔の地帯

 ここに生ある者は入れないとされている

 かつての大規模戦争跡地にして、勇者ランスとダークドラゴン、竜の王や黒竜王と呼ばれるドラゴンが激しい戦闘を繰り広げたため、不毛の地となった

 戦いによってその命尽きようとしていた勇者ランスの、最後の強力な光ですら浄化できなかった土地

 その山の頂上付近に一つの禍々しい城が建っていた

 その城はかつてこの地に栄えた人間族の王が住んでいた場所だが、遥か昔に滅亡し、今はこの城を残すのみとなっていた

 幾人かの姿がそんな城の広場にある

「それで、実験は失敗だったんだ」

「うん、やっぱゴブリン程度じゃ、ダメ。オークは、なかなかいい線。でも安定しない」

「作ったのはオークヒーローだけじゃないのか?」

「あれは試作品。現にすぐやられた。この前完成した個体、は、強いけど、調整がいる。頭が悪すぎて、使い物に、ならない、けど、暴れさせるだけ、なら、街二つくらいなら、簡単」

 実験体を作成していると思われる小柄な影は、フードを脱ぐ

 見た目は青白い肌に長い耳に青色のショートヘア、眼鏡をかけた小生意気そうな少女

 少女は宝珠のようなものに研究結果を記録しているようで、その宝珠をしきりに見つめている

「ミンティ、研究もいいけどオレガ様への報告も怠らないのよ」

「分かってるよ、アロエラ」

 少女の名はミンティというようだ

 そして話しかけたのアロエラという美しい女性

 背はミンティの倍ほどあり、300センチを優に超えているだろう

 体つきは筋肉粒々だが、シルクのドレスを着ており、上品な印象だ

 髪はウェーブがかった長い金髪で、目は切れ長、頭に羊のような角が生えている

「ハッハッハ! オレガ様は優しいんだ。その程度じゃ怒らないさ」

 大笑いしているのは一つ目の女性で、腕が左右二本ずつ、四本ある

 アロエラと比べると上品さにかけ、髪はボサボサの茶髪で短く、風呂ギライなのかキツイ体臭を漂わせている

 背中には身の丈ほどある金棒を背負っていた

 三人は仲がいいのか、それからも話し続けた

 彼らが何者なのかはまだ分からない


 ふぅと息を吐いて、立ち上がる

 心を落ち着かせるために畑を確認しに行くんだ

 ルカは俺の横をずっとついて来てくれている

 本当によくできた猫だ

「ルカ、収穫出来たらお前も食うか?」

「にゃーん」

 そして俺は先日実っていた果物の畑を見て愕然とした

「喰われて、る・・・」

 がっくりと膝から崩れ落ちる俺を、ルカはポンと肩に前足を置いて慰めてくれた


 まったく、見ているこっちが嫌になるような雰囲気じゃな!

 ため息ばかりハァハァハァとつきおってからに!

 鬱陶しいったらないわい

 なんでわしが慰めとるんじゃい!

 じゃが、まあなんじゃ

 こやつの心の安寧はわしの力を取り戻すためには必要じゃからして、決してこやつが心配というわけじゃあない

 カズマ、お前は・・・

 誰を失おうとも、誰が去ろうとも、わしの横におればいいのじゃ

 そしてわしはカズマについて畑に行く

 しまった忘れておった

 ネズミ、放っておったんじゃった

 食い荒らされた畑を見て愕然としとる

 やばいわしやってしもうたわ

 余計に心えぐってしもうたわ

 ま、まあやられたのはあのヤバイ果物ばかりじゃし・・・

 お、ネズミがおった

「にゃっ!」

 わしはそのネズミを、犯人を見つけたかのようにカズマに促し、捕まえて喰った

「ありがとうルカ、俺、ちょっと横になってくるよ」

 ふぅ、犯人というか、原因はわしなんじゃが、ネズミのせいということで落ち着いたようじゃな

 とりあえず他に放っておいたネズミも食っておかねば

 他の作物までやられてしまっては、あやつがどうなるか分からんからな

 わしは畑を探し、実を咥えて走っていたネズミや、食休みをしていたネズミを食った

 ネズミが力を持つかもしれんと考えたが、どうやら杞憂じゃったようじゃな

 わしはあやつの作る作物と、古代にあった作物には違いがあると考えておる

 力は、任意の相手にしか作用しないのではなかろうか?

 この作物は、鑑定したところ名前も作用も古代のものと同じじゃ

 しかしじゃ、ここでは鳥などの野生動物も作物を啄みむさぼることがある

 それらには作物の力が作用しておらん

 じゃが、あやつが料理をふるまった相手にはしっかりとその効果が付与されている

 この事からわしはカズマの認めた相手にしかこの効果が及ばないのではないか?

 そう考えたのじゃ

 ネズミを放ったのはこの果物がヤバイ効果を持っていたということもあるが、いわば実験でもあった

 案の定、と言ったところか?

 ともかくじゃ。あやつが今後変な作物を作らないようしっかりと視張っておかねばならんな


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