ゴブリンタイタンを倒してからは何も出てこなかった
空を裂いて急に現れたゴブリンタイタン
明らかに何かの意志を感じたわ
騎士団の方でも突如現れたゴブリンの大群と、ゴブリンタイタンについて調査を進めると共に、街の復興に尽力した
「レナ、君はカズマ君にお礼を言いに行ってくれ。ミリアとフィルもな」
「でも団長、街の復興が」
「そうですわ! ここまで崩壊したのも、わたくしの責任も、ちょっとだけあったりなかったり」
「それもそうだ。ミリアは復興の手伝いと反省をしっかりしてくれ」
「は、はい・・・」
それでも行っていいと言われると思ったのか、ミリアはガクリと肩を落としてる
ふふふ、カズマさんのクッキーは私が独り占めね
いえ、そんなことよりもカズマさんにはしっかりとお礼を伝えないと
「ミリアの代わりに私達がしっかりお礼を言っておくね」
「よろしくお願いしますわ。団長、副団長はどこですの?」
「ああ、キールならギルドマスターと国王に報告に行ってるはずだ。もうすぐ戻ってくるだろうからギルドで待ってるといい」
「はい、行ってまいりますわね」
ギルドの方へ走って行くミリアを見送ってから、私とフィルはカズマさんの家へ向かった
森の中は不気味なほど静かで、最近よく見ていたオークの気配もないし、ゴブリンもいない
それどころかよく見ていた角兎や猪に至るまで気配がなかった
「おかしいですね。ここまで静かなはずないのですが・・・。レナ、周囲を探知してください。警戒しながら進みましょう」
「う、うん」
森がおかしい
フィルの言う通り何が起きてもいいよう警戒しなくちゃ
探知スキルを展開しながら奥へと進んでいく
いつも聞こえていた鳥のさえずりもない
そんな中、不気味な気配が探知に引っかかった
「フィル、何かいるよ」
「さすがの精度ですね。何が見えます?」
「まだ姿までは分かんない、けど、ゴブリンと似た気配」
「ゴブリン・・・。まだ残党がいるようですね。あれだけの数いたのです。逃げ出したものもいるでしょう」
逃げ出した・・・。そんな感じじゃない気がするのよね
だってこのゴブリン、多分だけどこっちに気づいて、見てるんだから
「フィル、逃げよう。このゴブリンなんかおかしいよ」
「ゴブリンタイタンではないのでしょう?」
「うん、大きくてもホブゴブリンくらい」
「なら問題はないのでは? 二人なら十分倒せる相手です」
「それはそうなんだけど・・・。ヤバイ、こっちに走って来てる!」
「戦闘態勢に移ります!」
カズマさんにもらった武器は三人とも壊れてしまった
今持ってるのは騎士団で配給される普通の鉄剣や鉄槍
本当にただのゴブリンやホブゴブリンなら問題なく倒せるけど、これがこの前のオークヒーローみたいな変異種だったら
ゴブリンヒーローなんて聞いたことないけど、この森ではもう何がいても不思議じゃない
「来た!」
茂みから飛び出したのは、私より背の高いフィルよりも大きなホブゴブリン
その体色は黒くて、立派な鎧と、手にはレアと思われる大剣を持っていた
「鑑定!」
フィルがそのゴブリンを鑑定してくれる
「ホブゴブリン、ソードマスター? そんなもの聞いたことありませんが、どうやら、私達はとんでもない相手に目を付けられていたようですね」
ソードマスターって、剣の達人ってこと? 私の剣術なんてまだ初級の域を出ないっていうのに、そんな魔物の相手なんてできるのかしら?
でも不思議と負ける気がしない
明らかにゴブリンタイタンより強い相手なのに、体の奥から力と勇気がもりもり湧いてくる
カズマさんからもらったポーションの効果が、私達を強化してくれてるんだ
「武器を構えてくださいレナ」
「うん、油断しないでね」
「当り前です」
私が剣を抜くと同時にフィルが槍を構える
「ぐぎゅぎゃ」
ソードマスターが何かを喋ってるように見えるけど、私達にゴブリンの言葉なんてわかんない
私達が戦闘態勢を取ったことでソードマスターも大剣を真っ直ぐに構えた
すきがない・・・
まさしく達人ってわけね
私はゴクリと生唾を飲み込んだ
フィルの方はフーッと息を吐いて精神を落ち着かせてる
ソードマスターと私達は互いに出方をうかがって、数分とも、数時間とも思える時間が流れた