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第16話

 ほとんどゴブリンを殲滅し終わったころのこと、あとは残党を狩るだけって感じだったのに、事態は一変した

 突然空が暗くなったかと思うと、街の外壁あたりの上空にひびが入って、パキーンと空間が割れて、大きなゴブリンが三体落ちて来た

「嘘、だろ・・・」

「キ、キール副団長、あれは一体なんですの?」

 キール副団長はごくりと生唾を飲み込んで話してくれた

「あれはゴブリンタイタン。本当にごくまれに生まれる巨大ゴブリンだ・・・」

 ゴブリンタイタンの大きさは外壁とほとんど同じで10メートルくらい

 こんなの普通に戦ったんじゃとてもじゃないけど勝てない

 外壁の方で弓部隊や魔法部隊が応戦を始めたけど、弓はともかく魔法なら効くはず

 それなのにゴブリンタイタンたちは平然と立って、手に持った大きなこん棒で外壁を破壊し始めた

「行きますわよレナ! わたくしたちが食い止めるのです!」

「うん!」

 今はそれしかないかも

 この武器があれば・・・。あれ? 魔石にひびが入ってる

「ミリア、これ」

「まぁ! わたくしの杖についてる魔石もヒビが入ってますわ!」

 多分魔石が性能に耐えきれなかったのね

「やるしかありませんわ。街を守るのが、わたくしたちの使命ですもの!」

「ミリア・・・。行こう!」

 こんなにすぐに壊しちゃったらカズマさんが怒っちゃうかも

 もう二度と家に上がらせてもらえないかも

 少しそういう考えが浮かんだけれど、人の命には代えられない


 外壁まで走ると、フィルがすでに戦ってた

「ミリアさんレナさん! こっちです!」

 フィルはこちらに気づいて走ってくる

 彼が防いでくれてたおかげで、外壁を守ってた人達は皆無事後ろに下がれたみたい

「それぞれカズマさんの武器は持っていますね? では、私は真ん中を、レナさんは左、ミリアさんは右をお願いします」

「おっけー!」

「分かりましたわ!」

 それぞれで武器を構えると、最大級のスキル、魔法を放った

「槍術、聖名突き(みなつき)!」

「剣術、火の一閃!」

「大魔法、グランサンダー!」

 本当に最大級の力が出た気がする

 フィルの突きは見事に真ん中のゴブリンタイタンの頭を捉えたし、私の火の一閃はちゃんと炎が出て、胴を薙いだし、ミリアの雷は直撃した

「やった!」

 喜んだのもつかの間、フィルは殴り飛ばされて地面に激突して血反吐を吐いて潰れ、ミリアは逆に雷を纏った体で突撃されて、壁との間に押しつぶされてズルズルと体が壁からずれ落ちて、地面に血だまりを作った

 私は、目の前に迫るこん棒の一撃をすんでのところで躱した

「そんな、二人共・・・」

 まだ辛うじて息がある

 フィルのほうは体中の骨が砕け、多分内臓も損傷してるし、ミリアの方は呼吸が上手くできないことから肺が損傷してる

 こん棒を避けれたはいいけど、そこからどうすればいいのか分からない

 二人の武器は攻撃された時に砕けてしまってもう使い物にはならない

 でも私の剣は、魔石は砕けたとはいえまだ健在だった

「やるしか、やるしかないんだ・・・」

 心臓がとんでもない速さで脈打つ

「そ、そういえば!」

 私は袋からカズマさんにもらったポーションを取り出し、ゆっくりと近づいてくるゴブリンタイタンを横目に、まず今にも死にそうなフィルに飲ませた

「お願い、なんとか飲んで」

 意識はあったのか、ごくりと飲んでくれた

 その瞬間彼の目はカッと開かれる

「おお、これは、痛みが引いてます。それに折れた箇所が元通りに」

「え、これ、ただの下位ポーションだってカズマさんが」

「彼の作る薬が普通であるわけないでしょう。フルポーション、もしくは、伝説に伝わるエリクサーかもしれません」

 フィルは傍に落ちていたただの槍を構える

「ここは私が抑えます! レナさんはミリアさんを救ってください!」

「うん!」

 すぐに走ってミリアの元へ

「あぐ、レ、ナ・・・」

「しゃべっちゃ駄目、ほらこれを」

 でもミリアは気を失って自分では飲めなさそう

 私は口にポーションを含んで彼女の口に流し込んだ

「ん、くぅ」

 何とか飲み込ませると唇を放す

「ミリア」

「あ、あれ? 呼吸ができますわ。それに体からなんだか力が湧いてきますわ」

 そのときズシーンと大きな音が響いた

「おお! 騎士団がやってくれたぞ!」

 逃げていた冒険者の一人の声が響く

 なんとフィルはただの槍の一撃で、一度は防がれた攻撃で、ゴブリンタイタンの一体を倒していた

 本人が一番驚いてる

 彼の持っていた槍はその威力に耐えきれなかったのか、砂のように粉々に砕けている

「さっきよりもさらに魔力が湧いていますわ! そこの方、杖をお貸しくださいまし!」

 近くでミリアに回復魔法をかけようとしてくれていた冒険者の魔法使いから杖を借りるミリア

「いい杖ですわね。あとで弁償しますわ!」

「えちょ、弁償って、壊さないで下さいい! それ高かったんですからぁ!」

「だから弁償しますと言いましてよ! ほら下がっていなさい!」

 ミリアが杖をゴブリンタイタンに向ける

「極大魔法、デッドフラワー」

 周りの魔力がミリアの持つ杖に集まると、杖にひびが入り始めた

「タァアアアアアアアア!!」

 真っ黒な光が一直線にゴブリンタイタンに向かい、黒い花のような炎が咲いて、ゴブリンタイタンが消し炭になった

 何このポーション・・・

 いったい二人は何を飲んだの?

 私も恐る恐るポーションを飲んでみた

「んぐんぐ、ゴクン」

 味は果実水みたいで美味しい

 途端にさっきまでの疲れが吹き飛んで、体に力がみなぎった

「これは・・・」

 ゴブリンタイタン最後の一匹を見据える

 仲間が二匹やられたっていうのに、そいつは一切のためらいもなくこっちへ向かってくる

「爆炎の一閃」

 私はただ空間を切っただけ

 それだけでまだ距離があったゴブリンタイタンの体が真っ二つに裂け、傷口が爆発して霧散した

 あまりの威力に、三人ともただ茫然と立ち尽くした

 周りの歓声なんて耳に入らない

 それほどに、このポーションから得た力はすごかったよ


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