もっと強くなりたい。みんなを守るために
そう思って団長に訓練を付けてもらっている私
その日、団長と訓練を初めて一時間後
「さてと、ウォーミングアップはこのくらいでいいか。今日は火の一閃というスキルを教える。まずは見ていてくれ」
「はい!」
団長が剣を構える
そして人型の的を目にも止まらぬ速さで切り裂いた
「これが火の一閃だ。こんな風にほら、傷口が燃えてるだろう?」
「すごい・・・。切り口も綺麗」
「次はゆっくりと斬り方をみせるから、模倣してみるんだ」
「はい、お願いします!」
今度の動きは私の目でも終えるくらいの速さで、その動きがよくわかった
昔見た侍って職の冒険者がやってた動きに似てるかも
居合抜きって言ってたっけ?
剣を腰に下げて鞘から抜き放つ
今度は火がついてない
「このスキルは速度が重要なんだ。空気の摩擦と魔力を合わせることで火を発生させて切り口を燃え上がらせるんだよ」
「分かりました。やってみます」
私は集中して団長と同じ構えで的に向き合う
集中、集中
腕の筋肉をグッと固めて、一気に振り抜く
的は綺麗に斬れたものの、切り口は燃えてはいなかった
「初めてにしてはなかなかいいぞ。もう少し速く斬ってみようか」
「でも、これたぶん私の最速です」
今の一撃で筋肉がすごく痛くなってる
手が震えてもう剣が握れないくらいの筋肉痛
「ふむ・・・。よし、腕の筋力を中心に鍛えようか。俺もこのスキルを継承したときはそれから始めたんだ」
うぅ、結局また筋力増強になるのね
でも今の私には技術が足りていない
きっかけはつかめたおかげか、火の一閃がレベル1で獲得できたみたい
レベル1だと実戦ではまだまだ使えないレベル
だからこそ鍛錬なのよ
「よし、一旦休んだら今日は腕の筋力を鍛えようか。あとで錘をもって来よう」
団長のくれたドリンクを飲みながら休んでいると、突然ミリアが走って来た
「大変ですわレナ! ゴブリンの群れがこの街に迫って来ていますの! 現在冒険者ギルドと協力して迎撃態勢を整えているところですわ! 騎士団は全員集合ですの! 団長にももう伝えてありますから、東門前へ来てくださいまし!」
「う、うん分かった! すぐ行くね」
飲み干したドリンクの瓶をゴミ箱に捨てて、私は東門まで走った
東門にはすでに冒険者たちと騎士団員たちが集まっていて、冒険者ギルドのマスターと団長が話をしていた
「ではこちらが引きつけたところを魔術師たちの魔法で迎え撃つということでいいかな?」
「ああ、危険な仕事だが、よろしく頼む」
どうやら騎士団がゴブリンたちをひきつけて、被害の少ないところまで誘導
誘導し終えたら即時離脱して、固まったゴブリンたちに魔法の集中砲火を浴びせる
単純だけど、ゴブリンたち相手なら効果的ね
全体に作戦が伝えられて、こちらに大挙して押し寄せて来るゴブリンたちの元へと向かう私達
オークほど強くなくて、初級冒険者たちの最初の難関って言われてるゴブリンだけど、その怖さは大群にある
一匹一匹は全然強くはないけど、武器を使う知恵や、待ち伏せ、スニークなどを使う上に、スキルも使用してくる厄介な敵
一匹を追っていたらいつの間にか囲まれて全滅、なんてこともしばしばあるのよね
だからこそ油断しちゃ駄目
作戦開始から数分後
たった数分のことなのにいつの間にかゴブリンたちに街が囲まれていた
その数はおよそ2000
対するこちらは騎士団と冒険者合わせて500ほど
まだ対処はできるはず
でも、なんだか、オークのときみたいな嫌な予感がする
気にしすぎとかならいいんだけど、もしそうじゃなかったらと考えると、怖い
「大丈夫ですかレナ? 顔色が悪いですけど」
「分からない。でもなんだか嫌な予感がして」
「無理もないですよ。戦いは怖いですからね。でも、私達は市民を守るために戦うのです。街の皆さんの笑顔を守りましょう。一緒に」
「うん!」
今は街を囲むゴブリンたちを倒すのが先決
それにしてもどこから急に湧いたんだろう?
この街の外壁にはいつでも見張りがいるのに、その目をかいくぐってこんな城壁側まで近づけるかしら?
何か、悪意ある意思が働いてるんじゃないか? そんな気がしてならない
ゴブリンたちは城壁を攻撃し始めてる
冒険者たちが応戦し始めたけど、何かがおかしい
「こいつら、強いぞ! まさか森から出て来たのか!?」
冒険者の一人がそう叫んでる
通常種よりも強いゴブリンのため、冒険者達も攻撃を受けて倒れる人が出始めた
「レナ! 俺たちも行くぞ!」
副団長に言われ、私もその戦闘に加わってゴブリンと剣を交える
ゴブリンの武器はお粗末なものだけど、そう簡単に折れることはない
「こ、の! 三連斬!」
素早く三回斬りつけるスキルで三体のゴブリンを切り伏せたけど、数が一向に減らない
むしろ増えてる!?
レナ達がゴブリンに苦戦しているときを同じくして、高台からゴブリンの進撃をじっと見つめる影があった
ローブを目深にかぶる小柄な人影
「この程度、か。実験は失敗。所詮ゴブリン。まあ街くらいは、やれるか。あとは、適当に、勝手に補充されるようにして、残り全部投入する、か。もう、いらないし」
声にノイズがかかっているため男性か女性かも分からないその影は残像を残しその場から消え、空間にゲートが開いてそこからさらにゴブリンの援軍が飛び出してきた