ここしばらくは平和な日々が過ぎている
騎士団は相変わらず入り浸っているし、フィルは俺の作業をずっと眺めているし、ミリアとレナは俺の作ったお菓子や料理をぱくついている・・・、滅茶苦茶食べてる
食材は有り余るほど持ってきてくれるから助かってる
彼女らが持ってきてくれるのはオーク肉などの魔物肉が多いが、今日はその他にも野菜類を持ってきてくれたみたいだ
「今日はお野菜を持ってきましたの。お父様の領地で取れましたのよ」
ミリアは公爵家のご息女と聞いたが、かなり優秀な兄上が後を継ぐらしく、ミリアは放任主義なんだとか
別に勘当されているとかではなく、ノブレスオブリージュ精神、貴族としての享受のために騎士団もいいだろうという方針らしい
ただ危ないことはしてほしくないのか、かなりうるさいとミリアは笑いながら語った
ミリアの父親は公爵で、かなり善政をしているため市民に慕われているようだ
「まあでも大丈夫ですわ。この騎士団は強い方ばかりですから。わたくしたちだって日々成長していますのよ。もはやオークヒーロー恐るるに足らずですわ!」
フンと鼻息を鳴らし、ミリアは再び俺が作ったクッキーに手を伸ばす
「あ! レナ、それはわたくしが狙っていたベリー入りのやつですわ!」
「へへへー、早いもの勝ちだよーパクッ」
「酷いですわ! わたくしのベリークッキーですのに!」
微笑ましい光景を眺めていると、俺も思わず笑みがこぼれた
俺はまだ食べるだろうとさらにクッキーを焼いておいたので、それをお替りとして提供した
「さすがカズマさんですわ。焼きたて美味しいですわ~」
この子、かなりの大食漢なのに太っていないな
もしかして栄養が胸に・・・
おっと、セクハラは駄目だセクハラは
レナもよく食べるが、ミリアはそれ以上かもしれない
くっくっく、わたくしどんどん魔力量が増えて行っていますわ!
それに魔法の威力も上がってきて、今では騎士団で一番の魔法使いなんて言われるほど
元々才能があって努力していたこともさることながら、カズマさんがふるまってくれる料理やお菓子でさらに強化されて行っていますわ
ただこの強化のスピードにわたくし自身の精神がついて行っていませんの
魔法を操るには精神を鍛えて、その魔法を制御する必要がありますのよ
わたくしは中位の魔法なら十分に扱えますが、今の強化された状態の上位魔法だと、威力が高すぎて危険・・・
だからこそ精神を鍛えて上位魔法を操れるようになりませんと
努力、努力、努力ですわ!
「それにしてもこのクッキー、カズマさんはどんどんお菓子作りが上手くなりますわね。うちの料理人にもあなたの料理を習わせたいですわ!」
「ははは、俺はたまたま料理好きの知り合いに教えてもらえただけだよ。あいつとは、もう会えないけど、色々教わったからな」
悲しいことを思い出させてしまったのかもしれませんわ・・・
わたくしとしたことが、とんだ無礼を
誰にでも土足で踏み入れてはいけない領域がありますのに
「も、申し訳ありません。わたくし知らなくて。でもそんなこと関係ありませんわね。心より謝罪させていただきますわ」
「あいや、別に死んではないから。ただかなり遠い場所にいて物理的に会いに行けないだけですから」
「それでも、あなたにとっては悲しいことなのでしょう? 顔を見ればわかりますもの」
「いや本当に気にしないで下さい」
この方は本当に優しいんですのね
だからこそ、彼に降りかかる火の子は払いたいですわ
ミリアちゃんが真剣な顔でカズマさんのことを見ている
もしかして、これは、惚れたねミリアちゃん
友達の恋路は全力で応援しなきゃ
だけどなんでだろう、もやもやする
こういう時は食べるに限る!
「やっぱりカズマさんのクッキーは最高ですね! 程よい甘さにこのサクサク感。こんなの王都でも売ってませんよ!」
「レナはよく食べるな。太るぞ」
「むぐっ」
私はクッキーをのどに詰まらせて、慌てて紅茶で飲み下した
「ほら慌てるから」
「ゲホゲホ、大丈夫です。あと私いくら食べても太らない体質なんです!」
「そうなのか?」
「そうです!」
本当は訓練でいっぱい動くから相対的に脂肪が落ちてるだけなんだけどね
筋肉の方がついて体重は減ってないけど・・・
ああやだやだ、ごつくなっちゃうと将来結婚できなくなっちゃうかもだし
でも強くなるには鍛えるしかないし
本当にそこが悩みどころなのよね
私の剣術は団長には遠く遠く及ばないし、他の団員と比べてもまだまだ拙い
それに伸び悩んでる
だからこそ体を鍛えてその分をカバーしてるけど
これ以上ゴツゴツ筋肉になるのは嫌
そしてやけ食い、からのエネルギー消費のための訓練、からの筋肉増強
悪循環だよこれ
彼を観察し始めて数日が経ちますが、確かになにか特別なスキルなどを使った形跡はなく、ただ普通に道具をつくっているだけ
にもかかわらず出来たものは様々な効果だついている上、レア度も高くなっている
「カズマさんは鑑定スキルは使えないのですか?」
「ああ、一応使えるけど、仕事にできるほどじゃないかな? レベルも1どまりで、それ以上上がらないし」
「そうですか、失礼しました」
レベル1だと名前やレア度がレア以上かどうかが分かるくらいですか・・・
鑑定は確かに持っている人が多いスキルですが、持っていたとしてもレベルが上がるかどうかは素質次第
私は幸い素質があり、まだまだ上がる余地はありますが、彼はレベル1で打ち止めだったのでしょう
鑑定スキル持ちではレベル1でも珍しくありませんしね
それよりも異常なのは彼の生活スキルの量です
ほぼすべての生活スキルを取っている上に、それがレベル上限の10にまで達して・・・
ん? レベル表示の横に何か知らない文字が書かれていますね
鑑定スキルがおかしくなったのでしょうか?
体の調子が悪いとあることですし、まああまり気にするところではありませんが、少し彼の力の一端を見た気がしますね
あの仕込みの速さも、料理のおいしさも、彼の努力の結果なのでしょうね
まったく、感服しますよ
今日も三人ともここで晩飯を食べて帰るのだろう
遊んでいるように見えてちゃんと周囲を見張ってくれてる
この食事は俺からの感謝でもあるんだ
彼らのおかげで俺は無事ここで暮らせてるんだからな
たまにオーク肉も取って来てくれるし
しかしこの辺り、なんでこんなにオークが増えてきたんだ?
騎士団は何か掴んでるのかと思ったが、現在調査中で手掛かりは掴めていないらしい
俺が食事の用意をしていると、突然レナが立ち上がった
「ミリア、フィル」
「敵ですわね?」
「ええ、距離はこの家から東に500メートル。反応からオークだと思う」
「数は?」
「三体です」
「行きますわよ!」
「うん!」
どうやらオークがまた出たらしい
レナの探知は結構広範囲で、常に展開しているらしい
いやなんだよそれ、チートじゃないか
あの子、本当に才能あふれるんだろうなぁ
三人は家を飛び出してオーク討伐に向かってくれた
さて俺もさっさと調理を済ませて三人の帰りを待つか
それから20分ほどが経ち、彼女たちは無事オークを狩ってその肉を持ち帰ってくれた
夕飯にはオーク肉を使ったステーキや野菜炒め等を提供し、大好評だった