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第2話

 安眠を妨害されて若干いらだちながらも、服を着て扉を開ける

 するとそこにはみすぼらしい恰好の、いや、これは戦闘でやられた痕か?ボロボロの恰好の少女だな

 少女はとても疲れているようだ

「すみません、何か飲み物をいただけませんか?」

「あ、ああ、水で良ければ」

 俺は水を用意し、デザートとして作っていたクッキーをふるまった

 疲れた体には甘いものだからな

「あ、ありがとうございます。私はレナ。こう見えて騎士です。見習いですが・・・」

 ボロボロだが確かに騎士風の鎧を着ている

「そうかレナ、俺は・・・」

 言いかけて少し考える

 今まではこの世界での名前を名乗っていたが、ここに自分を知る者はいない

 ここは一応前世での名前を名乗っておくかな

「俺はカズマ、カズマアサノだ」

 トラブルになるとは思えないけど、もし俺を知ってる人がここに来たら気まずいし

 それにしてもこの子、この辺りに人が分け入ることなどないため、恐らく魔物にでも襲われたのだろう

 クッキーをおいしそうに食べる少女を見て、人と話すのも久しぶりだと少し嬉しくなった


 まさかこんなところに人が住んでるなんて思いもしなかった

 森の奥地、この辺りの魔物はかなり危険で、調査もあまりされていないはず

 その辺りにいる角兎ですら騎士団一人が全力でかかるレベル

 そんなところになんで人が?

 見ず知らずの私にお水をくれて、クッキーまで用意してくれて、多分悪い人じゃない

 私はコクリと水を飲んだ後、クッキーを食べてみた

 おいしい・・・

 思わず思考停止するほどおいしい

 もう一つサクッと食べると、襲われて傷ついた体の痛みが引いた気がした

 というか傷が消えてる!?

 それどころか体に力がどんどん湧いてくる感じ

 通常のポーションでもここまでの回復力はないはず

 ステータスを確認してみると、体力は全快し、それどころか体力や攻撃力、その他のステータースにかなりの上昇補正がかかってる

 これ、一体どういうことなの?

 下手すると上級ポーションなんか目じゃない

 回復魔法も時間をかければこの腕に深くついた傷は治せる。傷は残るかもしれないけど

 なのにこのクッキーの効果はそれ以上で、傷すら綺麗に消えてる・・・

 大魔法フルヒールなみの回復力、伝説の秘薬エリクサー並みかそれ以上の効果

 何者なの?この人は


 クッキーを食べてからレナが固まっている

 もしかして口に合わなかったのだろうか?

「ごめん、クッキーは作り慣れているつもりだったんだけど、もしかして口に合わなかったか?」

「あいえ、すごく、美味しいです! 今までこんなおいしいクッキー、食べたことありません。おかげで元気が出ました! こんど必ずお礼に来ます!」

 レナは慌てた様子で出て行こうとするが、俺は彼女の剣が半ばから折れていることに気づいた

「待ってくれ、剣がそれじゃあ戦えないだろう。これを使ってくれ」

 俺は予備にと鍛えておいた剣を彼女に渡した

 大したことない普通の剣だが、もっていないよりはましだろうし、彼女は騎士らしいから自衛手段くらいは持っているはずだ

「ありがとうございます! この御恩はかならず!」

 こうして突然出会った少女レナは来た時と同じように突然帰って行ってしまった

 ん? そういえばルカの姿が見えないな。まああいつのことだから散歩にでも行ったんだろう


 何の変哲もない鉄製の剣

 今持ってる剣は一応魔法で強化されていて、それなりの値段はしたけど、この剣も切れ味は良さそうね

 確かにないよりはましかも

 戻る途中になんとなくその剣を少し振るってみた

 すると、目の前にあった大木と、その後ろに転がってた岩が一緒に斜めに斬れて、ずるっと崩れ落ちた

 切り口が鏡のように滑らか・・・

「あ、あうぅう」

 うそでしょ!? おかしい絶対に! 何なのよこの力! 斬撃が飛んだ!?

 彼がくれたこの剣、もしかして聖剣?

 ただの鉄の剣にここまでの威力があるはずがない

 うう、鑑定スキルはまだあまり強化されてないから、詳しい内容は分からないけど、何か効果があるみたい

 こんなの街で買おうとすれば家一軒買う位の値段じゃ足りないじゃない!

 なんでそんなものポンと、ただの見習い騎士に与えるのよ!

 それにさっき食べさせてくれたクッキー

 まるで伝説の秘薬、エリクサー

 あとあの畑・・・。少し鑑定した程度だけど、どれもこれも伝説に名を連ねる食材ばかりじゃない

 神造レタス、古代トマトにフレイア米、もはや実在などしていなかったとされてるあまの小麦まであったわ

 鑑定で分かったのは名前だけだったけど、どの食材も物語に出るようなもので、食べれば身体を強化してくれるものばかり

 本当に一体何者なの?

「きっと何か事情を抱えて、ここで隠匿してる大魔法使いに違いないわ・・・。事情があるならあまり詮索すべきじゃないかも・・・。はっ、こんなことしてる場合じゃない! 早く騎士団たちに合流しなきゃ!」

 私はこの森から街街道にあふれ出しているオークたちを討伐するために派遣された騎士団【誓いの剣】の見習い騎士

 オークたちは森から来ただけあってかなり強かった

 それでも順調だった

 一匹を数人で囲んで確実に倒す

 それでもう少しで勝てるってところで、オークたちを指揮していたオークキングが現れた

 あっという間に騎士団は瓦解して、私は逃げた

 もし捕まれば・・・

 これまでオークに掴まった女性たちを思い出して身震いする

 それでも戻らなきゃ

 今なら、この力なら、私は戦える。オークキングにすら勝てる

 そう思って現場に来ると、オークたちは全滅し、騎士団たちは被害者の遺体以外いなくなっていた

「んなーん」

「え、猫ちゃん? 大丈夫、このオークたちに襲われなかった?」

「にゃっ!」

 警戒心の強い猫がここにいるってことは多分もうオークはいないんだと思う

 辺りを見回すと、オークキングの死体が転がっているのが見えた

 何かに切り裂かれたような大きな傷跡がある

 もしかしたら他の魔物と争ったのかも

「よくわからないけど、他の団員たちは無事なのかな? 取りあえず街に帰ろう」

 猫ちゃんに気を付けて帰るよう言って、私は街を目指した走った


 ふむ、行ったか

 全くなぜわしが人間のために・・・

 まあこのまま奴らが暴れれば十中八九主の元へ行っていただろう

 娘が来て、オーク共の襲撃にあったと聞いた時、わしはまっさきにあやつの居城が襲われることを考えてしまった

 別にあやつを案じてはおらんが、あのように面白い人間見たことがない

 だから元の姿にわざわざ戻り、あやつに気取られないよう注意を払いながらオーク共を薙ぎ払った

 どいつもこいつも少し小突いただけでバラバラに弾けとんだわ

 オークキングのやつは多少頭が回ったようじゃが、かなわないと見て、魔法を必死で唱えておるオークメイジを投げて来たのには笑ったな

 当然逃げようとしたオークキングも引き裂いてやった

 かつてわしは最強の竜ダークドラゴンの王として君臨していた

 世界を荒らしまわり、わしに敵などいなかった

 だが500年前

 当時の勇者ランスによって魔力の元である心臓を貫かれ力を失った

 何とか詩は免れたが、大幅に力を失った

 あれからわしは猫として正体を隠し、力を蓄えるためにひっそりと生きて来たわけだが

 まさかわしの力をここまで回復させる食い物を作れる人間がいるとはな

 あの人間は使える

 わしはニタリと笑い、主の元へ戻った

 べ、別に主と本気で思っているわけではない

 今はペットとして警戒されないように力を取り戻そうとしているだけだ!

 それにしても、あやつは自分の力に一切気づいていないのが面白い

 これからどうなるのか楽しみだ

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