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第26話

エレナとジェーンと共に森の中を進む。先ほどからジェーンはしきりに周りを気にしていて、挙動不審なほどだ。理由を聞くべきだろうか?そう考えていたらエレナも同じことを考えていたらしく、エレナが口を開いた。


「ジェーン、なにか気になることがあるの?」


そう聞かれた彼女はビクッとしてこちらを向くと慌てた様子で首を横に振った。


「いえ!別に何もありませんけど……」


明らかに何かあるような反応だがこれ以上追及しても答えてくれそうになかったので諦めることにしたのである。それからしばらく歩き続けたのだが、一向に魔物の気配はなかった。それどころか生き物の気配を感じないのだ。まるでこの森自体が死んでしまったかのような静寂に包まれている。そんな時だった。突然目の前に現れた人影があったのだ。一瞬魔物かと思ったが違うようだ。何故ならその姿は人間のものだったからである。しかし何故こんなところにいるのだろうか?不思議に思っているうちに人影はふらりと森の奥へ消えていってしまった。


「今の人って……」


エレナが呟くように言った。確かにあの人影はどこかおかしかった気がするのだ。まるで生気を感じないというか、とにかく普通ではなかったように思うのだ。


「追いかけよう!」


俺は思わず叫んでいた。このまま放っておくわけにはいかないと思ったのだ。しかしエレナは俺の腕を掴むと首を横に振った。


「駄目よ、危険すぎるわ」


確かに彼女の言う通りかもしれないと思ったがどうしても納得できなかったのである。そこで俺はある提案をする事にしたのだった。


「なら俺一人で行ってくるから二人はここで待っていてくれないか?」


俺がそう言うと彼女はハァとため息をついた。


「仕方ないわね…着いていくわ。ジェーンはどうする?」


「あっ…私も着いていきます」


「分かったわ、じゃあ行きましょう」


こうして俺たち3人は謎の人影を追いかける事になったのである。しばらく歩くと開けた場所に出たためそこで休憩することにしたのだった。ジェーンはというと辺りを見回しており落ち着かない様子である。何かを探しているのだろうか?不思議に思って声をかけようとしたその時だった、突然背後からガサガサという音が聞こえてきたのである。驚いて振り向くとそこには巨大な猿のような魔物の姿があった。突然のことに驚いているうちに襲いかかってきたため咄嵯に回避したがバランスを崩してしまうことになってしまった。戦闘が始まり、まずは俺が前に出る…が、猿はどうも何かを気にしている様子で、追撃をしてこない。何かに怯えている様子だ。ふいにざわと風が吹き、それを契機に猿が何かを叫んで逃げ出す。


「待ってくれ!」


俺は思わず追いかけてしまった。エレナたちの静止の声が聞こえた気がするがそれでも足を止める事はできなかった。しばらく追いかけているうちにどんどん森の奥へ入っていき、やがて開けた場所に出たためそこで止まったのだが……そこには信じられない光景があったのだ。


そこに現れたのは、神聖な雰囲気の漂う神殿だった。いや、神殿というよりかは遺跡といった方が良いのだろうか?苔むしており、蔦が巻き付いているような見た目をしている。とても人が住んでいるようには見えないのだが一体誰が建てたものなのだろうか?不思議に思いながらも近づいてみることにする。中へ入ると薄暗く埃っぽい空気が漂っているのを感じた。しばらく進むと大きな扉があった。どうやら行き止まりのようだ。しかし気になることがあるとすればこの扉の先から何かを感じるということだろうか……意を決して扉を開けることにしたのだった。ギィという音を立てて扉が開くとそこには驚くべき光景があったのである!なんとそこには巨大な水晶と、一本の剣が突き刺さっていた。


「これは一体……?」


思わず呟くと突然頭の中に声が響いた気がした。


『選ばれし勇者よ……よくぞ参った』


その声はどこか懐かしく感じるものだったが同時に畏怖の念を抱かせた。まるで神のような存在からの言葉であるかのように感じられたからだ。


「あんたは誰だ?」


俺が問いかけると再び声が響く。


『我はこの世界を創り出した者なり』


その答えを聞いて俺は絶句した。まさか本当に神様がいるとは思わなかったからである。確かにエレナは女神を自称しているが、言っては何だが親しみやすい感じで畏れを抱いたことはなかった。しかし、この神は違う。それにしても何故俺を選んだのだろうか?疑問に思っていると、それを察したかのように答えが返ってきた。


『それは貴殿が“選ばれた”からである』


つまり俺は偶然選ばれてしまったということか?それとも必然だったのだろうか?どちらにせよこの剣を引き抜けば何かが変わるような気がするのだ。意を決して手を伸ばすとその刀身に触れた瞬間眩い光に包まれたのだった。そして気が付くと目の前に一人の老人が立っていたのである。年齢は80歳くらいだろうか?かなり高齢に見えるのだが、その目は鋭く力強い意志を感じさせた。


「お前を待っていたぞ」


老人はそう言うとニヤリと笑うのであった。


-------


老人の話を聞く限り、どうやらこの剣は選ばれし勇者にしか引き抜けないという代物らしいのだ。そして引き抜くことができた者だけが真の勇者として認められるというのである。しかし問題なのはその条件である「真なる勇者」とは一体何なのかということだ。それについて尋ねると老人は答えた。


「それはお前自身が決めることだ」


つまり俺がどうなりたいかによって決まるということだろうか?それならば話は簡単だと思った俺は自分の意志を伝えることにしたのだった。


「俺は……この世界を救いたい!」


すると老人は満足そうに頷きそして言ったのである。


「よかろう、ならばその剣を抜いてみせい!」


俺は言われるままに剣を掴むと一気に引き抜いた。その瞬間眩い光が放たれ視界が真っ白になったかと思うと次の瞬間には目の前に巨大な水晶が浮かんでいたのだった。


「これは一体……?」


俺が困惑していると老人は笑いながら言ったのである。


「それがお前の力だ」


そう言って指差した先には先ほど見たものと同じ水晶があったのだ。つまりこの水晶が俺の力の源ということなのだろうか?疑問に思っていると老人が再び口を開いた。どうやら説明してくれるつもりらしい。


「その水晶にはこの世界の全てが記されているのだ。お前にはそれを知る権利がある」


そう言って老人は水晶に触れた瞬間、光が放たれたかと思うとそこに映像が映し出されたのだった。


「これがこの世界の姿だ……」


老人の言葉と共に映し出されたのはまさに地獄絵図のような光景だった。魔物によって蹂躙され人々が苦しんでいる姿や、魔法による災害など様々であったのだ。そして最後に映し出されたものは巨大な黒い結晶体だったのだがそれは今にも爆発寸前といった様子だったのである。これは一体何なのかと尋ねると老人は答えた。


「これは魔王の心臓だ。この世界に悪が蔓延り続けると蘇り、世界を滅ぼす」


それを聞いて俺は驚愕すると同時に納得がいった気がしたのだ。悪が蔓延り続ける…つまり“ペルディダ”が勢力を拡大し続けると魔王の復活が近付くということか。この世界を救うためにはこの結晶体を破壊すればいいということだろうか?そう尋ねると老人は頷いたのである。


「そうだ、だがそれには力が必要だ」


そう言って老人は俺を見るのだった。

老人の話によるとこの剣は選ばれし勇者にしか扱えない代物であり、その力を解放することで真の力を発揮することができるのだという。そしてこの剣の名前は「サグラーダ」というらしいのだが、その能力は凄まじいものだった。この剣は世界を滅ぼすほどの力を持つと言われている伝説の聖剣で、様々な属性の魔法を使うことができるらしいのだ。

しかもその効果は絶大で、並大抵の攻撃では傷一つつけることができないのだという。まさに無敵の剣と言えるだろう!そしてさらに驚くべきことに、この剣には自我のようなものがあるらしく、使用者の意志によって自在に形を変えることができるというのだから驚きだ!つまり俺が望めばどんな武器にでも姿を変えることができて、さらには魔法すらも使えるようになるということだろうか?そんな夢のような話があるなんて…本当にこの剣に選ばれたことに感謝したいと思う。

そして老人は続けて言ったのである。


「その剣にはもう一つの力がある。それは…」


そこで一旦言葉を切ると、ニヤリと笑みを浮かべて言ったのだった。


「それはお前が真なる勇者となった時にわかるだろう」


その言葉を聞いた時俺は胸が高鳴るのを感じたのだ。一体どんな秘密が隠されているのだろうか?期待に胸を膨らませていると老人はさらに続けたのである。


「さて、これで説明は全て済んだな?」


そう言って立ち去ろうとしたので慌てて引き止めることにする。まだ聞きたいことは山ほどあるというのにこのまま帰すわけにはいかないからだ。しかし老人は


「儂はもう疲れたわい、あとは自分でなんとかするんだな」


と言って煙のように消えてしまったのだった。

結局老人からは具体的な情報は得られなかったのだがそれでも十分過ぎるほどの情報を手に入れることができたと思う。後は自分自身で行動してこの世界を救うための方法を探すだけだ!そう決意を新たにした。

神殿を出ると、慌てふためいた様子のエレナがいた。どうも、神殿から光が放たれたと同時にジェーンの姿が見えなくなったらしい。俺は直感的に、ジェーンは俺をここまで連れてくるための使者だったのではないかと考え、神殿であったことも含めてエレナに伝えた。エレナもその意見に同意してくれたようだった。


「あなたそれ…“サグラーダ”?」


「そうだけど…知ってるのか?」


「まぁ一応。女神だもの」


そんな会話をしつつ俺たちは街へ戻ることとなった。神殿での出来事についてはまだ謎が多いが、それでも少しずつこの世界を救うための手がかりが掴めてきたような気がする。この旅はまだ始まったばかりだ、これからどんな困難が待ち受けているか想像もつかないけれど、俺は絶対に諦めないと心に誓ったのだった。


「さて、これからどうするか……」


神殿を後にした後、エレナと共に街を歩きながら次の行動について考えていた。あの老人が言っていた「選ばれし勇者」とは一体どういう意味なのだろうか?そして俺自身が真なる勇者となるためには何が必要なのか……まだまだ分からないことだらけだがとにかく今は情報収集が必要だと思った俺はエレナに提案した。


「この街には図書館があるようだから行ってみないか?」


その言葉に彼女は頷いてくれたため早速向かうことにしたのだった。


「ここが図書館か……」


街の中心部に位置する大きな建物の前で立ち止まると、俺は感嘆の声を上げた。外観はとても荘厳な雰囲気を醸し出しており、まるで城のような見た目をしているのである。一体どんな書物が保管されているのだろうか?期待に胸を膨らませながら中に入ることにしたのだった……

中に入るとそこは吹き抜けの構造になっており、天井が高いため開放感のある空間になっていた。壁には本棚がいくつも並んでおり、その中にはびっしりと本が詰まっている様子が見える。さらに奥に進むと受付カウンターがあり、そこに司書らしき女性がおり、


「いらっしゃいませ、どのような本をお探しでしょうか?」


と声をかけられた。俺は少し考えてから答えた。


「この世界の真実について知りたいんだけど何か参考になりそうな本はあるかな?」


俺が尋ねると司書さんは訝しげな顔をし、しばらく考え込んだ後、一冊の分厚い本を差し出してきた。表紙には『この世界の歴史』と書かれている。どうやらこれが一番詳しい内容らしい。早速手に取って開いてみるとそこには古代文字で書かれた文章がびっしりと並んでおり、読むだけでも一苦労しそうだったがそれでもなんとか頑張って読み進めていくことにしたのだった。と言っても、俺はこの世界の言葉が分からないのでエレナが読むのを待っているだけなのだが。そんな中、ふと疑問が浮かんだ。


「なあ、エレナって女神なんだよな」


「ええそうよ。それがどうかした?」


「じゃあなんであの神殿のことを知らなかったんだ?宗派の違いとか?」


「…他の神のことはあまり知らないわ」


「そんなもんか」


「そんなもんよ」


「じゃあなんであの剣のこと知ってたんだよ」


「それは……秘密よ」


「えぇー教えてくれてもいいじゃないか」


俺は不満そうな声を上げたが、彼女はそれ以上何も語ろうとしなかったため仕方なく諦めることにしたのだった。まあいずれ教えてくれるだろうと思っているのだが。

その後、俺たちはいくつかの本を手にとって読んでみたのだがどれも難解な文章ばかりで理解することができなかった。そこで司書さんに質問してみることにすると彼女は丁寧に教えてくれた上におすすめの本を紹介してくれたりもしたのである。おかげでこの世界のことについてかなり詳しく知ることができたと思う。というか、エレナは女神なのだから昔のことを知っていて当たり前なのではないだろうか?仲間に疑心を抱くのは良くないと思いつつも、最近のエレナは女神“っぽく”ない。


「この世界は遥か昔、一人の英雄によって救われたのです」


司書さんはそう言うと一冊の本を開いて見せてくれた。そこには一人の青年の姿が描かれていたのである。彼は黄金の鎧に身を包み剣を構えている姿はとても凛々しく見えたが同時にどこか悲しさを感じさせるような気もしたのだった。


「これは?」


俺が尋ねると彼女は静かに語り始めたのである。


「このお方こそが初代勇者様です」


そう言ってページをめくると今度は別の絵が現れたのだった。それは先ほどの青年と同じような格好をした女性の姿があった。



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