俺たちは早速調査を開始することにしたのだった。しかしなかなか有力な情報は得られずにいる。そんな中、俺はある噂を耳にしたのだった。それはなんでも、最近王都の周辺で怪しい人影を見たという目撃情報が相次いでいるらしいのだそうだ。しかもその人影というのは決まって夜に活動しているようで、人目を避けるように移動しているらしいということらしい。更に付け加えるとその人影は全身黒ずくめで顔もフードを被っているためによく見えないということだそうだが、もしかしてこれはリリアナさんの言っていた魔物と関係があるのだろうか?そう思った俺は彼女に確認を取ってみたのだが、どうやら違うようだ。彼女はただ単に魔物が増えている原因を探るために調査を依頼しただけだったようである。となるとますます謎が深まってきたなと思いつつも俺はひとまず情報を集めることに専念することにしたのだった。
結局その日は何の成果も得られなかったので一旦宿に戻ることにした俺だったが、翌日になり再びギルドに足を運んでみると何やら騒がしい様子に気付いたのである。何かあったのだろうかと思いながら近づいていくとそこにはリリアナの姿があったのだった。どうやら彼女はなにかに動き回っているようで忙しない様子が窺えた。その様子を遠目に見ていると不意に声をかけられたので振り返るとそこにいたのはエレナだった。どうやら彼女も気になって様子を見に来たようだ。
とりあえず俺たちは近くの席に座って話を聞くことにしたのだった。リリアナの話によるとここ最近王都周辺の治安が悪化しているらしく、その影響なのか街のあちこちで問題が起こっているようなのだそうだ。特に被害が大きいのが窃盗事件が多発していることらしいのだが、その数は日に日に増えているらしく、このままではいずれ深刻な事態になりかねないとのことだった。そこでリリアナさんは王国騎士団に協力を要請したのだが断られてしまい、途方に暮れていたのだという。そこで彼女は俺たちに助けを求めてきたというわけだ。
「お願い!こっちの件でも力を貸してもらえないかしら?」
そう言って頭を下げる彼女に俺たちは顔を見合わせていたが最終的には承諾することにしたのだった。まぁ困っている人がいるなら助けるのは当然のことだし、それに報酬も出るということだったので断る理由もなかった。そんなわけでこちらも早速調査を始めることになったのだが、まずは目撃情報のあった場所を回ってみることにしたのである。するといくつか共通点が見つかったのだ。それは夜になると人通りが少なくなり、街灯も少ない場所に集中しているということだ。このことから察するに犯人は人目を避けるように行動しているのではないかと考えた俺たちは次に狙われそうな場所を絞り込むことにした。その結果、一つの建物に辿り着いたのだ。そこはどうやら空き家らしく長い間放置されていた場所らしいがここ最近になって誰かが出入りしている形跡があるというのだ。つまり犯人はここに潜伏しているとみて間違いないだろう。俺たちは早速乗り込むことにしたのだった。中に入ると薄暗い空間が広がっているだけだった。人の気配は感じられないので慎重に探索することにしたのだが、しばらく歩いているうちに奥の方から物音が聞こえてきたのでそちらに向かうことにする。そしてついに突き当たりの部屋の前にたどり着いたところで中から声が聞こえてきたのである。それは男の声のようだったが一体誰の声なのだろうか?疑問を抱きつつもゆっくりと扉を開けてみる。部屋の中にいたのは黒ずくめの人物だった。よく見るとそれは先日ギルドで見かけた人物だったことに気付き、思わず声を上げてしまった。
「お前はギルドにいた!?」
そう叫ぶと同時に相手はこちらを振り向いたのだがその顔はやはり見覚えのあるものだったのだ。間違いない、ギルドで見かけた男である。しかし何故こんなところにいるのだろうか?疑問は尽きなかったが今はそんなことを気にしている場合ではなかったためすぐに戦闘態勢に入ったのである。すると相手の方も同じように構え始めた。しばらく睨み合っている状態が続いたものの一向に攻撃を仕掛けてくる気配がないため疑問を感じ始めたその時だった。不意に相手が口を開いたのである。
「お前たちの目的はなんだ?」
そう問いかけてきた相手の言葉を聞いて一瞬戸惑ってしまったがすぐに気を取り直して答えることにしたのだ。すると相手はさらに質問を投げかけてきたので俺たちは素直に答えたところ、どうやら納得してくれたようだった。しかしまだ完全に信用したわけではないようで警戒を解いてはいなかったようだ。まあ無理もないことだが。その後、俺たちは改めて自己紹介をすることにしたのだった。そしてお互いの目的や事情についても話し合うことになったのである。
「なるほど、そういうことだったんだな」
話を聞いた俺は納得がいったとばかりに頷いていた。どうやら彼らは王国騎士団に所属していた元団員らしいのだが、とある事件がきっかけで退団せざるを得なくなってしまったのだという。そして今はこうして盗賊紛いのことをして生計を立てているのだとか。なんとも世知辛い世の中である。しかし彼も好きでやっているわけではないらしく、仕方なくやっているという感じのようだ。まあ気持ちは分からなくもないが…。
それからしばらく話をした後、俺たちはその場を後にしたのだった。そして宿に戻ったところでふとあることを思い出したのである。そういえばあの時にリリアナさんに話した怪しい人影とは彼のことだったのではないだろうか……?だとしたらもしかすると今回の件にも関わっているのかもしれないと思った俺は明日もう一度ギルドに行くことを決めたのだった。
翌日になり早速ギルドへと向かった俺たちだったが受付嬢に用件を伝えるとすぐに奥の部屋へと案内されたのである。そこには既にリリアナさんが待っていたようで俺たちの姿を見つけるなり笑顔で出迎えてくれたのだった。そんな彼女に案内される形で部屋の中へと入るとそこには一人の男が立っていたのだが、よく見るとその人物の顔には見覚えがあったのだ。そう、それは昨日空き家で見たあの男だったのだ。まさかこんなところで再会することになるとは思わなかったので驚いていると向こうも俺たちに気付いたようで驚いたように目を見開いている様子だった。どうやら向こうにとっても予想外の出来事だったようだがすぐに平静を取り戻したようで話しかけてきたのである。
「お前たちは何者だ?一体何をしにここへ来た?」
その問いかけに俺は正直に答えることにしたのだった。実は俺たちは冒険者で依頼を受けて調査をしていて、怪しい人影を目撃したためそのことについて聞き込みを行っていたことを説明したところ、納得した様子を見せていたようだった。しかしまだ完全に信用したわけではないようで警戒を解く様子はなかったのだがここでリリアナさんが助け舟を出してくれたのである。
「まぁまぁ落ち着いてください」
と言いながら割って入ってきた彼女は俺たちに対して謝罪の言葉を口にしてきた後、改めて自己紹介をしてくれたのだった。
「私はこのギルドで副ギルドマスターを務めているリリアナといいます。以後お見知りおきを……」
そう言って優雅なお辞儀をする彼女につられてこちらも頭を下げつつ挨拶を交わすことになったのだ。そうしてお互いに挨拶を済ませた後は本題に入ることにしたのだが、そこでふと疑問が浮かんだため聞いてみることにした。それは何故リリアナさんがこの場に同席しているのだろうかということだったのだが、その理由を聞いて納得したのだった。それはどうやら彼女は今回の件に関して色々と協力してくれたらしく、そのお礼も兼ねて同席しているらしい。そのためこの場は彼女の指示に従うことに決めて話を聞くことにした俺たちだったのだがそこで衝撃的な事実を知ることになることになったのである。
「実は最近王都周辺で起きている連続窃盗事件の犯人の正体についてですが……」
そう前置きをしてから話し始めたリリアナさんの言葉を聞いて俺たちは思わず息を呑んでしまった。なぜなら彼女が口にした内容というのがあまりにも衝撃的だったからだ。というのも元騎士団員の男は確かに盗賊紛いのことをしているが、今回の連続窃盗事件とは無関係だというのだ。どういうことかと尋ねると彼は静かに語り始めたのだった。
「俺はある日を境に全てを失ってしまったんだ……」
そう語る彼の目には深い悲しみの色が浮かんでおり、その表情を見ているだけで胸が締め付けられるような思いになった俺たちは黙って話を聞くことにしたのだった。
「あの日のことは今でも鮮明に覚えているよ。あれは俺がまだ騎士団に所属していた頃の話なんだがな…」
そう言って語り始める彼の表情はどこか懐かしむような様子だったがその目はどこか悲しげな雰囲気を醸し出していたように思う。そんな彼の様子を見て俺たちはただ黙って耳を傾けることしか出来なかったのだが、それでも彼は気にする様子もなく話を続けていったのである。
「ある日のことだったんだが、俺はいつも通り見回りをしていたんだ。そしたら偶然にも空き家を見つけたんで中に入ったらそこで一人の女が倒れているのを見つけたんだよ。慌てて駆け寄って声をかけたんだが反応がなかったんで仕方なく介抱することにしたんだ。するとしばらくして目を覚ましたんで事情を聞いてみたところどうやら道に迷ってしまったらしくて途方に暮れていたところを襲われたみたいでな…」
そう言ってため息をつく彼だったがその表情からは後悔の念のようなものを感じ取ることができた気がした。おそらくその女性を見捨てられなかったのだろうということが窺えたので俺は何とも言えない気持ちになってしまったものの黙って話を聞くことにしたのだった。
「それからしばらくの間一緒に行動していたんだがある日のこと、俺たちはとある廃墟に辿り着いたんだ。そこでしばらく休んでいた時に突然背後から声をかけられたんだよ……驚いて振り返るとそこには黒ずくめの集団がいてな、そいつらは俺たちに向かってこう言ったんだよ……『お前たちを捕まえに来た』ってな」
そこまで言うと彼は黙り込んでしまったため俺たちは続きを促すように頷いて見せたところ再び話し始める気になったようで続きを話し始めたのだった。
「俺たちは必死に抵抗したんだが数が多すぎたうえに相手は訓練を受けたプロ集団だったからな…全く歯が立たなかったんだ。結局捕まって牢屋に入れられてしまったんだがそこでの生活はとても酷いものだったよ。毎日拷問のような仕打ちを受けたり食事もろくに与えられなかったりしてな。正直言って生きているのが辛かったぐらいだ。そんなある日のことだったんだ、いつものように牢に入れられてた俺たちのところに一人の女がやって来たんだよ。そいつはどこからどう見ても一般人にしか見えなかったんだが何故か俺たちのことを気にかけてくれてな、色々と世話を焼いてくれたんだ。最初は警戒していたんだが次第に打ち解けていくうちに俺たちは彼女に心を許していったんだよ。そしてある日のこと、彼女は俺たちにある提案を持ちかけてきたんだ」
そこまで話すと彼は大きく深呼吸をしてから続きを口にしたのだった。
「それは『私があなたたちを助けてあげる代わりに一つだけ条件がある』というものだったんだ……その内容を聞いて俺たちは戸惑ったが他に選択肢はなかったし藁にもすがるような思いだったから了承することにしたんだ。すると彼女は微笑みながら頷いてくれてな、それから数日後に俺たちは無事に釈放されることになったんだよ……」
「それからというもの俺たちは彼女に感謝の気持ちを込めて恩返しをすることに決めたんだ。そしてそのためにもまずは金を稼ごうと思って盗賊になったんだが…。まさかこんなことになるとは思いもしなかったぜ…」
そう言って自嘲気味な笑みを浮かべる彼の表情はどこか悲しげな雰囲気を漂わせていた。そんな彼の様子を見た俺たちは何も言えずただ黙って聞いている
ことしか出来なかったのだった。
「…それで結局その女性はどうなったんですか?」
しばらく沈黙が続いた後、俺は思い切って尋ねてみることにした。すると彼は静かに首を横に振って見せた後で答えてくれたのである。
「実はその女の正体は未だに分かっていないんだ…。ただ一つだけ言えることは彼女は俺たちの命の恩人だってことだ。それだけは絶対に忘れちゃいけねえと思ってる…」
そう言って拳を握りしめる彼の表情は真剣そのもので、その瞳には強い意志のようなものを感じさせたのだった。