男はにこりと笑うとパチンと指を鳴らした。
すると部屋のあちこちから黒ずくめの連中が出てきたのだ。どうやら組織の構成員のようだ。
「さて、ダレンよ。お前が選択する道は2つだ」
男は不気味な笑みを浮かべながら続ける。
「ひとつ目はこいつらに殺されること、もうひとつは俺たちと一緒に来ることだ…まあ、どっちを選ぶかなんて分かりきってはいるがな」
男の口元がニヤリと歪んだ瞬間、黒ずくめの連中は一斉に飛びかかってきた。ダレンは恐怖に顔を歪めると一目散に逃げ出した。しかし、黒ずくめの連中はそれを許さない。次々と攻撃を仕掛けてくる。
俺は咄嗟にダレンを庇うと剣を抜いた。そして襲いかかってくる連中を次々と切り伏せて行く。エレナも魔法で応戦しているようだが多勢に無勢で、このままではまずいかもしれない。
その時だった。突然部屋の天井を突き破って何者かが降りてきたのだ。その衝撃で砂埃が舞い上がり視界が遮られる中、そいつは俺たちを守るように立ち塞がると襲いかかってきた黒ずくめの連中を次々となぎ倒していく。そしてしばらくすると視界が晴れてきた。そこにいたのは…
「あら、ダレンじゃない!奇遇ね」
その女性はそう言うとこちらに向かってウインクをしたのだった。
突然現れた彼女は身軽な動きで次々と敵を薙ぎ倒していった。まるで舞を踊るかのように華麗な動きに思わず見とれてしまうほどだった。しかしそれも束の間のこと、すぐに我に返った俺は彼女に声をかけることにしたのだ。
「あの、あなたは一体……?」
すると彼女はくるりと振り返ると、にっこりと笑って言ったのである。
「私の名前はリリアナよ!よろしくね」
そう言って右手を差し出してくる。俺は一瞬戸惑ったが、すぐに握り返すことにしたのだった。
リリアナと名乗った女性は俺たちに向き直った。そして彼女は妖艶な笑みを浮かべる。その笑顔はとても美しく見えたのだが同時にどこか不気味さも感じられたような気がした。
「さて、ダレンはどうしてここにいるのかしら?もしかしてあなたも組織を抜けるつもりなの?」
「えっと…あなたは…?」
「あら、あなた知らないの?この組織はね、私の支配下にあるのよ」
リリアナはあっさりとそう言い放った。ダレンも驚いた表情をしていることから本当のことなのだろう…俺は改めて目の前にいる女性を見ることにした。年齢は20代前半くらいだろうか。長い銀髪に整った顔立ちをしている…しかしその瞳はどこか冷たい印象を受けたのだった。
(なんだか怖い人だね)
真が呟くように言う。確かにその通りだと思った。しかし同時にどこか惹かれるものを感じてしまったのも事実である。そんなことを考えているうちに話はどんどん進んでいた。
「それで、ダレンはどうするの?組織を抜けるの?」
リリアナの言葉にダレンは小さくうなずくと口を開いた。
「ああ……俺はもうこんなことしたくないんだ」
「……そう、わかったわ」
そう言うとリリアナは懐から何かを取り出すとそれをダレンに向かって放り投げたのだった。それは小さな袋だった。中には金貨が入っているようだ。
「餞別よ、持って行きなさい」
「いいのか……?」
「もちろんよ!その代わり二度と顔を見せないことね」
そう言って微笑むとリリアナは踵を返した。
「あ、そうそう」
彼女は立ち止まると肩越しに振り返りながら言ったのである。
「あなたたちも早くここから出ていった方がいいわよ?」
それだけ言うと部屋を出て行ってしまったのだった。
俺たちは呆然と立ち尽くしていたが、すぐに我に返ると慌てて後を追いかけたのだった。
外へ出ると既にリリアナの姿は無かった。どうやら本当に行ってしまったらしい。俺たちは顔を見合わせるとため息をついたのだった。
こうしてダレンは無事に助かったわけだが、問題は山積みである。まずは家族の安全確保だ。組織からの連絡が途絶えたことでそろそろ不審に思っていることだろう。早急に対応しなければならないと思うのだ。そしてもう一つ、ダレンのことだが彼は今後どうするのだろうか?彼はもう組織の構成員としては生きていけない。かといってこのまま放っておくわけにもいかないし…どうしたものかと考え込んでいるうちにエレナが口を開いたのである。
「ねえ、ダレン。あなたはこれからどうするつもりなの?」
「……わからない」
ダレンは力なく首を振るだけだった。無理もないだろう、今までずっと組織のために働いてきたのだから急に自由を与えられても困るというものだ。しかしこのまま放っておくわけにもいかないし…どうしたものかと考え込んでいるうちにエレナが再び口を開いたのである。
[18:03]
「それなら私たちと一緒に来ない?きっと悪いようにはしないわ」
その言葉にダレンは少し考え込んだ後小さくうなずいたのだった。こうして俺たちは新たな仲間としてダレンを迎えることになったのである。
それから少し後のこと。俺たちはダレンの案内で彼の家族が待つ場所へと向かっていた。そこは王都から少し離れた場所にある小さな村だった。どうやらここでひっそりと暮らしていたらしい。
やがて一軒の家が見えてきた。あれがダレンの家なのだろう。扉の前には女性が立っているのが見えた。おそらく母親だろう。俺たちが近づいていくと向こうもこちらに気付いたようだ。女性は俺たちの顔を見るなり安堵したような表情を見せたのだった。
「ダレン!」
「母さん!」
ダレンは駆け寄るとその胸に飛び込んだのである。俺も少しホッとしていた。無事に再会できてよかったと思う。
「あなたが助けてくださったのですね、なんとお礼を言ったらいいか……」
女性は涙を浮かべて感謝の言葉を述べてきた。俺たちはそれに対して笑顔で応えることにしたのだった。
それからしばらくしてようやく落ち着いた頃を見計らってダレンと話し合った結果だが、やはり彼とはこのまま俺たちと一緒に旅をすることになったのである。もちろん危険なことは百も承知だ。でも彼には新しい人生を歩んで欲しいと思っているのだ。
次の日、俺たちは王都へと戻ってきた。そして例の組織のアジトへと向かったのだが、そこは既にもぬけの殻になっていたのである。どうやら俺たちがいなくなった隙を見計らって逃げ出したようだ。証拠隠滅のためか、建物の破壊も行われていたようで見る影もない状態になっていた……
「無駄足だったみたいね」
エレナがため息をつく。ダレンは申し訳なさそうに俯いていたがやがて顔を上げた。その顔は決意に満ち溢れていたように思う。
「俺は組織を抜けることができた…だからもういいんだ」
そう言って笑みを浮かべるダレンの表情はどこか吹っ切れたように感じた。きっと彼はこれから新しい人生を歩んでいけることだろう。俺としても彼のことは応援したいと思っているし、何か力になれることがあれば協力したいと考えているところだ。
こうして俺たちは新たな仲間を迎え入れて旅を続けることになったのだった。
その後俺たちはしばらく王都に滞在していたのだが、そろそろ出発しようと考えていた矢先のことだ。突然エレナがこんなことを言い出したのである。
「ねえ、せっかくだからもう少しここで遊んでいかない?」
確かにここ数日間は色々と忙しくてあまり観光などできていなかったこともあるし、たまにはゆっくりするのも悪くないだろうと思い承諾することにしたのだった。それから俺たちはしばらく王都の様々な場所を巡り歩いたり、露店を見て回ったりしながらのんびりと過ごしたのである。そして夕方頃になって宿に戻ってきた俺たちだったが、そこで待っていた人物を見て驚いたのだった。なんとそこにいたのはリリアナだったのである!彼女は妖艶な笑みを浮かべながらこちらを見つめていたのだった。
(なんだか嫌な予感がするなあ)
[18:04]
真が呟くように言った。確かにその通りかもしれない。しかし、ここで逃げ出すわけにもいかなかった。仕方なく部屋に招き入れることにしたのである。
部屋に入ると彼女はゆっくりとした動作で椅子に腰掛けた。そして俺たちにも座るように促してきたので素直に従うことにしたのだ。全員が座ったところで彼女が口を開いた。
まず最初に出てきたのは謝罪の言葉であった。どうやら先日の一件について改めて謝りたかったということらしいのだが、まあ特に気にしてもいなかったので適当に流しておいたのだった。それから今度は俺たちのことについて色々と聞いてきたりしてきたのだが、こちらも特に隠すようなことでもなかったので正直に答えたりしていた。一通り話し終えたところで今度は俺の方から質問してみることにしたのだ。
「リリアナさんはどうしてここへ来たのですか?」
その問いかけに彼女は少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと語り始めたのだった。
リリアナは実は以前から俺たちのことに目をつけていたらしい。というのも俺たちが冒険者として活動している姿を何度か目撃したことがあるようで、その時に感じた違和感のようなものをずっと感じていたというのだ。そして今回こうして接触してきたのはそれが確信に変わったからだそうだ。つまり俺たちに興味があるということなのだろう。
「単刀直入に聞くけど、あなたたちは一体何者なのかしら?」
その問いかけに俺は少し迷ったものの正直に話すことにしたのだった。俺が異世界から召喚されたことや真の正体などを全て包み隠さずに話したのだがそれでも彼女は驚いた様子を見せなかったのである。それどころかむしろ納得したような表情を見せていたくらいだ。どうやら最初から薄々勘づいていたようだ。ただ確証が無かっただけということなのだろう……そして話を聞き終えた後、今度は逆に質問をしてきたのである。それは俺たちというよりも主にエレナに対しての質問だったようだがその内容というのがかなり踏み込んだものだったため思わずドキッとしてしまったほどだ。具体的にどんな質問だったのかと言うと、
「あなたは本当に人間なのかしら?」
というものだったからだ。それを聞いた瞬間、俺は背筋が凍るような思いだった……まさか気付かれていたとは思わなかったからだ。しかしエレナは特に動揺した様子もなく平然と答えたのである。
「確かに私は普通の人間ではないわ。あなたたちからすれば異質に見えるかもしれないけれどね」
それを聞いてリリアナはしばらく黙り込んでいたもののやがて納得したような表情を見せた後に小さくため息をついたのだった……どうやらこれ以上追及するつもりは無いらしいと判断した俺たちはホッと胸を撫でおろした。そして話題を変えるために今後のことについて話し合うことにしたのだった。
翌日、俺たちは再び冒険者ギルドへと向かっていた。というのもリリアナに勧められたからだ。なんでも俺たちを勧誘したいということらしい……まあ悪い話ではないと思ったのでとりあえず行ってみることにしたのである。そんなわけでやってきたわけだが受付嬢に案内されたのは個室のような場所だった。中に入ると既にリリアナが待っていたようで手招きされたので近づいていくことにする。
「ようこそいらっしゃい」
そう言って頭を下げる彼女につられてこちらも頭を下げつつ席についたところで早速本題に入ることになったようだ。
「さて、まずは改めて自己紹介をしておきましょうかね。私はリリアナ。一応このギルドの副ギルドマスターをしているわ…組織のことは内密にお願いね」
そう言って微笑む彼女につられてこちらも緊張してしまうほどだったが何とか平静を装って挨拶を返すことができたのだった。そんな俺の様子を見て取ってか彼女はクスリと笑った後で本題に入ったのである。
「実はあなたたちにお願いしたいことがあるのよ」
そう言うと一枚の紙を差し出してきたのである。それを受け取り目を通すとそこにはこう書かれていたのだ……『王都周辺に出没する魔物の調査』と書かれているのを見て思わず首を傾げてしまう。一体どういうことなのだろうと思っているとそれを察したかのように説明してくれたのである。なんでもここ最近王都の周辺では魔物の数が増えているらしく、その原因を探るために俺たちに協力を頼みたいとのことだった。なるほどそういうことだったのかと思いつつ俺は了承することにしたのだった。
そうして俺たちは早速調査を開始することにしたのだった。