ジェイドがカイルと剣を交えている。カイルの杖を扱う技量は、ジェイドと互角だ。杖のリーチの長さと、カイルが使う風の魔法が、カイルの技量をジェイドと互角に押し上げているかのようだった。
「ああ……」
ふたりの争うさまを見ながら、ルウルウは胸が痛むのを感じた。無力だ。仲間たちが争うのを、止める力も勇気もない。ルウルウの淡青色の瞳に、涙がたまる。
「ルウルウ!」
ぱしっと軽い音がして、ルウルウは両頬に誰かの手が当たるのを感じる。ランダだ。ランダがルウルウの両頬を手で挟んで、上を向かせていた。
「泣いてる場合じゃないよ、考えるんだ! 得意だろ、魔法使いなんだから!」
「ランダさん……」
「魔王を倒して、師匠を救うんだろ!? ルウルウ!」
ランダの言葉に、ルウルウは自身の頭の中が冷静になっていくのを感じた。
出口もわからない地底の空間――その中心にそびえ立つ、岩の城。周囲は湖に囲まれ、いまはカイルの風によって起こった荒波が押し寄せている。荒波の中の舞台で、カイルとジェイドたちが戦っているかのようだ。
「水……」
ルウルウには水を使う魔法がある。回復魔法もある。作戦が固まる。作戦は自分の中にあるだけだが、きっとジェイドにも意図は伝わるだろう。あとは覚悟を決めるだけだ。
「は、ぁ……!」
ひとつ息を整えて、ルウルウは覚悟する。これからなにが起こっても――それは自分の責となる。自分がそれを願うのだ。その覚悟を決める。
「ランダさん」
ルウルウはランダに何事かを耳打ちした。ルウルウの言葉を聞き取ったランダが、視線をルウルウにやる。
「……それだけでいいのかい?」
「お願いします。伝わるはずです、私たちなら」
「わかった」
ルウルウの願いに、ランダはうなずいた。
ルウルウは戦うジェイドたちに背を向けた。湖のほうへと、ルウルウは向き直る。杖を構える。タージュが自分のために残した杖には、御守りがついている。羽と真珠をあしらった御守りだ。いまだタージュのぬくもりを感じ取れる御守りである。
「お師匠様、どうか……皆を守って」
そうつぶやいて、ルウルウは詠唱を開始する。
「水よ、この世にあまねく満ちる大海となるものよ」
湖に語りかけるように、ルウルウは呪文を唱える。
同時に、ランダがジェイドたちに向かって叫んだ。
「ジェイド! ハラズーン! 避けろ!!」
ランダの言葉に、カイルを攻撃していたジェイドとハラズーンが素早く武器を引いて下がる。ジェイドが素早く視線をルウルウのほうへと巡らせる。カイルも同様にルウルウを見た。
「我が願いに応え、
ルウルウはそう叫び、杖を湖にかざした。彼女の魔力が、押し寄せる淡水へと注がれる。膨大な魔力が、ルウルウの全身から湖の中へと落ちていく。ルウルウは肩に痛みを感じたが、構わず魔力を湖へと注いだ。
「――ッ!?」
大波が砕けた。大量の水が、城の前庭へとぶちまけられる。ジェイドとハラズーンは直撃を避けた。カイルもまた大量の水を浴びる。しかし彼はしっかりと立っている。水はルウルウとランダの足元にも押し寄せ、足を濡らす。
「ルウルウ、なにを……」
「水よ、この世の冬に凍てつく氷花となるものよ――我が願いに応え、凍結の奇跡を示せ!」
ルウルウは素早く詠唱した。杖の
「は……っ!?」
カイルの足元が、凍った。凍結は彼の濡れた足へと伝わり、カイルの下半身を凍らせていく。カイルの動きが封じられる。
次の瞬間、ジェイドが動いた。あたりが凍る直前、まるで大地を縮めたかのようなスピードで、ジェイドが踏み込む。電光石火、剣が突き出される。
「が……っ」
カイルの腹を、ジェイドの剣が貫いた。
それを見た瞬間――ルウルウの瞳から涙があふれた。
第8章へつづく