「……ルウルウ! ねぇ、ルウルウ!!」
カイルがルウルウに呼びかけている。ランダとハラズーンもそばにいて、呼びかける。ジェイドは踵を返し、ルウルウのそばに来て大声を上げる。
「宮廷魔術師の中に、回復魔法を使う者はおられぬか!?」
「お、おお……おるぞ! なにをしておる、急げ!」
国王がまず応じた。さすがに状況を理解する力が高い。
「勇士を死なせてはならぬ! はよう治療せぬか!!」
「おお、そうだ、そうだ! 医師も呼べ!」
「私が応急処置いたしましょう!」
ルウルウのそばに、多くの魔術師たちが走り寄ってくる。侍従たちが医者を呼ぶために走り出す。やがて――ルウルウの肩から剣が抜かれ、止血と回復魔法が施される。そして謁見の間から運び出され、客間のベッドに寝かされる。
「うう……」
「ルウルウ」
ジェイドが心配そうに声をかける。
ルウルウはうつぶせに寝かされている。うっすらと、淡青色の目を開けた。すこし視界がぼやつくが、傷の痛みはなくなっている。命の危険は去っていた。
「よくやった、ルウルウ。ありがとう」
「ジェイド……カイル……みんな……」
ルウルウが傷を負いながらも必死で伝えた、魔物の弱点――カイルが理解して伝え、ジェイドと剣を交えていたアッシュにも届いていた。ゆえに魔物は打倒された。
「よかった……みんな、無事で」
「ああ」
ジェイドがほほ笑んでうなずく。ルウルウもすこしだけ笑った。
「うわ~ん、よかった~~!!」
「うんうん、本当にねぇ」
カイルの泣く声がして、ランダが慰めている。ハラズーンが腕を組んだ。
「魔王の居所はシュヴァヴ山、といったな。それはどこだ?」
「王都の西北にある、高山です」
ハラズーンに答えたのは、アッシュだった。アッシュはいつのまにか部屋の入口に立っていた。そのまま中まで歩みを進めてくる。
「アッシュ殿、もう大丈夫か?」
「悲しんでばかりもいられません。それが父のためにもなります」
魔族を倒してまだ数時間しか経っていない。肉親の死から立ち直るには、十分な時間とはいえない。だがアッシュはルウルウたちを助けるために来たのだ、と理解できた。
「月と星の揃うときまでに、と言っていましたね」
「ああ」
アッシュはため息をつきつつ、語る。
「この時期……シュヴァヴ山のちょうど真上に、聖なる星の並びが現れます」
「聖なる星の並び……」
アッシュが説明を始める。
レークフィア王国の西北にあるシュヴァヴ山は、古くから聖なる山として崇拝の対象になっている。春の時期になると、「聖なる星の並び」と呼ばれる現象があらわれる。ひときわ明るい二つの星が、直線上に並ぶ。星々とシュヴァヴ山の山頂とを結ぶ三角形を、人々は聖なるものとして尊んだ。
「しかもその並びが、月夜に重なるといえば、かなり
「宮廷魔術師たちに調べさせました。次の、聖なる星の並びと月夜が重なるのは、七日後。ここからシュヴァヴ山の麓までは、片道四日ほどかかります」
「四日か……山に入ることを考えると、かなりギリギリだな」
峻険な聖山に入るとなれば、登るだけで何日もかかるものだ。すぐさま準備を整えて出立しなければ、間に合わないだろう。
「行きましょう……」
「ルウルウ!?」
「ルウルウ、その体で……傷は塞がったかもしれないけど、出血がひどかったんだ。旅なんて無理だよぉ」
ランダとカイルが、ルウルウに考え直すように告げる。ルウルウは首を横に降った。
「魔王が呼んでいるんです。この機会を逃すわけには、いきません」
「ルウルウ……」
「わたし、行きます」
ルウルウはきっぱりと決意を口にした。
「ジェイド、どうする?」
ハラズーンがジェイドに尋ねる。これはルウルウのための旅だが、パーティのリーダーはジェイドだ。彼が判断を下すべきである。
「行こう」
ジェイドの判断は早かった。
第7章につづく