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第3-4話 混乱(4)

「……ルウルウ! ねぇ、ルウルウ!!」


 カイルがルウルウに呼びかけている。ランダとハラズーンもそばにいて、呼びかける。ジェイドは踵を返し、ルウルウのそばに来て大声を上げる。


「宮廷魔術師の中に、回復魔法を使う者はおられぬか!?」

「お、おお……おるぞ! なにをしておる、急げ!」


 国王がまず応じた。さすがに状況を理解する力が高い。


「勇士を死なせてはならぬ! はよう治療せぬか!!」

「おお、そうだ、そうだ! 医師も呼べ!」

「私が応急処置いたしましょう!」


 ルウルウのそばに、多くの魔術師たちが走り寄ってくる。侍従たちが医者を呼ぶために走り出す。やがて――ルウルウの肩から剣が抜かれ、止血と回復魔法が施される。そして謁見の間から運び出され、客間のベッドに寝かされる。


「うう……」

「ルウルウ」


 ジェイドが心配そうに声をかける。

 ルウルウはうつぶせに寝かされている。うっすらと、淡青色の目を開けた。すこし視界がぼやつくが、傷の痛みはなくなっている。命の危険は去っていた。


「よくやった、ルウルウ。ありがとう」

「ジェイド……カイル……みんな……」


 ルウルウが傷を負いながらも必死で伝えた、魔物の弱点――カイルが理解して伝え、ジェイドと剣を交えていたアッシュにも届いていた。ゆえに魔物は打倒された。


「よかった……みんな、無事で」

「ああ」


 ジェイドがほほ笑んでうなずく。ルウルウもすこしだけ笑った。


「うわ~ん、よかった~~!!」

「うんうん、本当にねぇ」


 カイルの泣く声がして、ランダが慰めている。ハラズーンが腕を組んだ。


「魔王の居所はシュヴァヴ山、といったな。それはどこだ?」

「王都の西北にある、高山です」


 ハラズーンに答えたのは、アッシュだった。アッシュはいつのまにか部屋の入口に立っていた。そのまま中まで歩みを進めてくる。


「アッシュ殿、もう大丈夫か?」

「悲しんでばかりもいられません。それが父のためにもなります」


 魔族を倒してまだ数時間しか経っていない。肉親の死から立ち直るには、十分な時間とはいえない。だがアッシュはルウルウたちを助けるために来たのだ、と理解できた。


「月と星の揃うときまでに、と言っていましたね」

「ああ」


 アッシュはため息をつきつつ、語る。


「この時期……シュヴァヴ山のちょうど真上に、聖なる星の並びが現れます」

「聖なる星の並び……」


 アッシュが説明を始める。


 レークフィア王国の西北にあるシュヴァヴ山は、古くから聖なる山として崇拝の対象になっている。春の時期になると、「聖なる星の並び」と呼ばれる現象があらわれる。ひときわ明るい二つの星が、直線上に並ぶ。星々とシュヴァヴ山の山頂とを結ぶ三角形を、人々は聖なるものとして尊んだ。


「しかもその並びが、月夜に重なるといえば、かなりまれなことのようです」


 天穹そらを照らす春の月と、聖なる星の並びが同時に起こる日。それはめったに起こらないことらしい。


「宮廷魔術師たちに調べさせました。次の、聖なる星の並びと月夜が重なるのは、七日後。ここからシュヴァヴ山の麓までは、片道四日ほどかかります」

「四日か……山に入ることを考えると、かなりギリギリだな」


 峻険な聖山に入るとなれば、登るだけで何日もかかるものだ。すぐさま準備を整えて出立しなければ、間に合わないだろう。


「行きましょう……」

「ルウルウ!?」

「ルウルウ、その体で……傷は塞がったかもしれないけど、出血がひどかったんだ。旅なんて無理だよぉ」


 ランダとカイルが、ルウルウに考え直すように告げる。ルウルウは首を横に降った。


「魔王が呼んでいるんです。この機会を逃すわけには、いきません」

「ルウルウ……」

「わたし、行きます」


 ルウルウはきっぱりと決意を口にした。


「ジェイド、どうする?」


 ハラズーンがジェイドに尋ねる。これはルウルウのための旅だが、パーティのリーダーはジェイドだ。彼が判断を下すべきである。


「行こう」


 ジェイドの判断は早かった。


 第7章につづく

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