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第1-3話 大都に渦巻く(3)

 飾り立てられたルウルウ一行は、レークフィア国王キドワに謁見した。キドワは壮年の男性だった。その顔は気力に満ち溢れている。

 多くの貴族や騎士たちが見守る中、国王はルウルウたちの勇気と功績を称えた。


「魔王の脅威は高まっておる! 貴殿らの勇気に、第一の神の祝福あれ!」


 国王は、魔王の影響を受けたと思われる魔族や魔獣が暗躍していることを、力強く語る。ルウルウたちに協力は惜しまない、と約束もしてくれた。


 公式な拝謁が終わったのち、ルウルウたちはアッシュに連れられて王宮内を回った。行く先々で、王族や大臣といった貴き方々と会見した。アッシュからは礼儀は気にしなくてよい、と言われた。しかしそうもいかず、一行は緊張感が解けないまま夕方まで歩き回った。


 夕暮れが王宮を包み、明かりが灯る。今度は国王らと夕食だ。レークフィアの名産品が豪華に調理されたテーブルを囲み、ルウルウたちは食事をする。


 落ち着かない食事ののち、アッシュが言った。


「本日、最後に会っていただきたい人がおります」

「え~……もう疲れちゃった~」


 カイルが疲れた表情を隠さず、疲労を訴える。ルウルウたちも口には出さないが、似たようなものだ。アッシュが苦笑する。


「そこをどうか。会っていただきたいのは、私の父です」

「お父様……?」

「はい、畏れ多くも陛下から宰相の地位を賜っております」


 宰相――つまり、政治において国王の右腕となる者だ。どの大臣よりも偉いということだろう。

 王宮の廊下を歩きながら、アッシュが語る。


「大臣や一部の騎士は、王宮に私室を持つことが許されます。今から、宰相(ちち)の私室にご案内いたします」


 ほどなくして、ルウルウたちは豪華な扉の前に案内される。アッシュは扉を開け、ルウルウたちを招き入れる。


「宰相閣下、いえ……父上、ジェイド殿らをお連れしました」

「おお……」


 広大な部屋の奥から、弱々しい声がする。アッシュに促されてルウルウたちは進む。部屋の奥にはベッドがあり、老人が横になっている。いかにも賢人といった風貌の、白髪と長い白ひげの男性だ。


「勇士殿がた、このような姿勢で失礼いたす……私がレークフィア王国宰相、ディセンと申す」


 宰相ディセンは起き上がろうとしたが、すぐに咳き込んでしまう。アッシュが支えて、ディセンの姿勢を横にする。


「申し訳ない、体が言うことを聞かんのだ……」

「いえ、ご無理なさらず。宰相閣下」


 ディセンの詫びに、ジェイドが進み出て答えた。ディセンはひとつため息をつく。


「口惜しいばかりだ。宰相の役目も果たせず、陛下のお慈悲にすがって寝てばかりとは」

「父上……」

「アッシュ、頼む」


 ディセンが息子アッシュに視線をやると、アッシュはディセンの体を慎重に起こした。アッシュはそのまま、ディセンの寝間着をわずかにくつろげる。老いたディセンの肉体が見える。


「これは……!?」


 ジェイドを始めとして、ルウルウたちは驚きに目を見張った。

 宰相ディセンの老いた肉体には、赤黒い文様が浮き出ていた。単なる刺青などではない。魔力を帯びて、わずかに蠢いている。


「魔王の、呪いじゃ……」


 ディセンが苦しげに言う。


「宮廷魔術師たちが言うには、じわじわとわしを蝕み、命を取るという……」

「ルウルウ殿」


 アッシュがルウルウの前に進み出る。彼はいきなり、ルウルウの両手を取った。


「どうか、お願いいたします。父の命を、永らえさせることはできませんか?」

「え……っと……」


 ルウルウは困り果てた。ルウルウ自身は呪いを解く魔法を持たない。考えた末に、頼りなく言葉をつなぐ。


「魔王を……倒せば、きっと呪いも……解けると思います」


 ルウルウの返答に、アッシュの表情がわずかに曇った。期待していた返答ではなかったのかもしれない。


「あ、でも! 解呪の方法がほかにもあるかもしれません! だから、その……」

「ルウルウ殿、わかりました。では、解呪の方法を探るためにも、しばらくご滞在ください」


 アッシュの言葉に、ジェイドたちは顔を見合わせる。


「しばらく滞在……とは?」

「言葉のとおりです。国王陛下もそれをお望みです」


 ジェイドの眉がわずかに寄る。「しまった」という表情だ。


 呪いを解く方法を探るにしても、かなりの時間がかかるに違いない。それまでルウルウ一行は、レークフィア王国の王宮に留まらねばならないだろう。魔王の脅威が迫る中、王宮という場所は冒険者にとっては不自由すぎる場所だ。


 だが国王と宰相とが、ルウルウたちの滞在を望んでいる。口実もある。断れはしないだろう。無理に断れば、不利益が飛んでくるのは予想できた。


「わかりました。ですが少しのあいだだけです」

「そうですね。先を急ぐ旅だというのは、理解しています」


 ジェイドの答えに、アッシュがにっこりと笑う。


「ご心配なく。あなたがたは優秀な冒険者だと思っています」


 アッシュの指示で、侍従のひとりがジェイドたちのもとへやってくる。そのまま一行を案内して、宿泊するための部屋へと先導していく。


 宰相ディセンの部屋に、ディセンとアッシュがふたりきりになった。


「父上。本当にこれでようございましたか?」

「よい。わしは老いすぎた……今さら、呪いで死のうとかまわぬ」


 ディセンはベッドに横になっている。だがその瞳は、いまだ野心の光を失っていない。


「聖杯の魔女タージュの手がかりじゃ。がすでないぞ、アッシュ」

「はい」


 アッシュが答えると、ディセンは満足げにうなずき、目を閉じた。

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