飾り立てられたルウルウ一行は、レークフィア国王キドワに謁見した。キドワは壮年の男性だった。その顔は気力に満ち溢れている。
多くの貴族や騎士たちが見守る中、国王はルウルウたちの勇気と功績を称えた。
「魔王の脅威は高まっておる! 貴殿らの勇気に、第一の神の祝福あれ!」
国王は、魔王の影響を受けたと思われる魔族や魔獣が暗躍していることを、力強く語る。ルウルウたちに協力は惜しまない、と約束もしてくれた。
公式な拝謁が終わったのち、ルウルウたちはアッシュに連れられて王宮内を回った。行く先々で、王族や大臣といった貴き方々と会見した。アッシュからは礼儀は気にしなくてよい、と言われた。しかしそうもいかず、一行は緊張感が解けないまま夕方まで歩き回った。
夕暮れが王宮を包み、明かりが灯る。今度は国王らと夕食だ。レークフィアの名産品が豪華に調理されたテーブルを囲み、ルウルウたちは食事をする。
落ち着かない食事ののち、アッシュが言った。
「本日、最後に会っていただきたい人がおります」
「え~……もう疲れちゃった~」
カイルが疲れた表情を隠さず、疲労を訴える。ルウルウたちも口には出さないが、似たようなものだ。アッシュが苦笑する。
「そこをどうか。会っていただきたいのは、私の父です」
「お父様……?」
「はい、畏れ多くも陛下から宰相の地位を賜っております」
宰相――つまり、政治において国王の右腕となる者だ。どの大臣よりも偉いということだろう。
王宮の廊下を歩きながら、アッシュが語る。
「大臣や一部の騎士は、王宮に私室を持つことが許されます。今から、宰相(ちち)の私室にご案内いたします」
ほどなくして、ルウルウたちは豪華な扉の前に案内される。アッシュは扉を開け、ルウルウたちを招き入れる。
「宰相閣下、いえ……父上、ジェイド殿らをお連れしました」
「おお……」
広大な部屋の奥から、弱々しい声がする。アッシュに促されてルウルウたちは進む。部屋の奥にはベッドがあり、老人が横になっている。いかにも賢人といった風貌の、白髪と長い白ひげの男性だ。
「勇士殿がた、このような姿勢で失礼いたす……私がレークフィア王国宰相、ディセンと申す」
宰相ディセンは起き上がろうとしたが、すぐに咳き込んでしまう。アッシュが支えて、ディセンの姿勢を横にする。
「申し訳ない、体が言うことを聞かんのだ……」
「いえ、ご無理なさらず。宰相閣下」
ディセンの詫びに、ジェイドが進み出て答えた。ディセンはひとつため息をつく。
「口惜しいばかりだ。宰相の役目も果たせず、陛下のお慈悲にすがって寝てばかりとは」
「父上……」
「アッシュ、頼む」
ディセンが
「これは……!?」
ジェイドを始めとして、ルウルウたちは驚きに目を見張った。
宰相ディセンの老いた肉体には、赤黒い文様が浮き出ていた。単なる刺青などではない。魔力を帯びて、わずかに蠢いている。
「魔王の、呪いじゃ……」
ディセンが苦しげに言う。
「宮廷魔術師たちが言うには、じわじわとわしを蝕み、命を取るという……」
「ルウルウ殿」
アッシュがルウルウの前に進み出る。彼はいきなり、ルウルウの両手を取った。
「どうか、お願いいたします。父の命を、永らえさせることはできませんか?」
「え……っと……」
ルウルウは困り果てた。ルウルウ自身は呪いを解く魔法を持たない。考えた末に、頼りなく言葉をつなぐ。
「魔王を……倒せば、きっと呪いも……解けると思います」
ルウルウの返答に、アッシュの表情がわずかに曇った。期待していた返答ではなかったのかもしれない。
「あ、でも! 解呪の方法がほかにもあるかもしれません! だから、その……」
「ルウルウ殿、わかりました。では、解呪の方法を探るためにも、しばらくご滞在ください」
アッシュの言葉に、ジェイドたちは顔を見合わせる。
「しばらく滞在……とは?」
「言葉のとおりです。国王陛下もそれをお望みです」
ジェイドの眉がわずかに寄る。「しまった」という表情だ。
呪いを解く方法を探るにしても、かなりの時間がかかるに違いない。それまでルウルウ一行は、レークフィア王国の王宮に留まらねばならないだろう。魔王の脅威が迫る中、王宮という場所は冒険者にとっては不自由すぎる場所だ。
だが国王と宰相とが、ルウルウたちの滞在を望んでいる。口実もある。断れはしないだろう。無理に断れば、不利益が飛んでくるのは予想できた。
「わかりました。ですが少しのあいだだけです」
「そうですね。先を急ぐ旅だというのは、理解しています」
ジェイドの答えに、アッシュがにっこりと笑う。
「ご心配なく。あなたがたは優秀な冒険者だと思っています」
アッシュの指示で、侍従のひとりがジェイドたちのもとへやってくる。そのまま一行を案内して、宿泊するための部屋へと先導していく。
宰相ディセンの部屋に、ディセンとアッシュがふたりきりになった。
「父上。本当にこれでようございましたか?」
「よい。わしは老いすぎた……今さら、呪いで死のうとかまわぬ」
ディセンはベッドに横になっている。だがその瞳は、いまだ野心の光を失っていない。
「聖杯の魔女タージュの手がかりじゃ。
「はい」
アッシュが答えると、ディセンは満足げにうなずき、目を閉じた。