「すまなかった、ハラズーン」
竜王の寝室。ベッドに横たわった本物の竜王が、ハラズーンに詫びた。
ハラズーンのそばには、ルウルウたちもいる。偽物の竜王を暴き、本物の竜王にかけられた呪いを解いたゆえだ。
竜王は衰弱しているが、命に別状はないらしい。しばらく休めば公務にも復帰できる――というのが、医師の見立てだった。
加えて、アルファハの呪いを受けていた衛兵たちも、無事だ。みな、宝蔵から持ってきた解呪薬を施され、ほどなく元の姿に戻った。
「そして礼を言うぞ」
「なんの、竜王よ。我の功績ではありませぬ。この者らがいてくれたからこそ」
ハラズーンはカラカラと快活に笑った。年老いた竜王も笑う。
「冒険者たちよ、感謝する。そなたらが気づかねば、余は死んでいたであろう」
竜王は遠い目をした。彼は魔族から呪いをかけられ、ゴーレムの核になっていたのだ。
「あのときは強い酒に浸され、地獄のような苦しみの中……ひたすら、唱えろと言われた言葉を唱えておった……」
フウ、と竜王はため息をついた。
「まさかそれが、余をゴーレムにする呪文であったとは」
呪いの中にある者は、強い苦しみを覚えるという。竜王は呪文を唱えながら、正気を保とうとしていたのだろう。それが魔族のささやいた、ゴーレム化の呪文とも知らずに。
「魔法使いが呪いに気づいたからこそ、竜王をお助けできました」
「そうか……魔法使い、ルウルウといったな。礼を言うぞ」
「い、いえ……」
竜王に礼を言われ、ルウルウははにかんだ。カイルやランダもほほえむ。
「冒険者たちよ、否、勇士たちよ。魔王を追うのか?」
「はい、そのつもりです」
竜王の問いかけに、ジェイドが答えた。
「強大な相手ですが、俺たちは魔王を退けるため――旅を続けます」
「そうか、そうか……できる限りの支援をしようではないか」
竜王は疲れたようにうなずき、しかし頼りがいのある申し出をした。そしてハラズーンをそばに呼び寄せる。
「ハラズーン。余は、そなたに王位を譲りたい……」
「は?」
竜王の言葉に、ハラズーンが目を丸くする。ルウルウたちも同じだ。
「なにをおっしゃる、急に……」
「急ではない、ずっと考えておった。ハラズーン、そなたもまた竜王の眷属であるゆえに」
竜王の眷属――それが意味するところを悟り、カイルが驚いて叫んだ。
「ハラズーン、王族だったの!?」
「ああ、ま、そうであるな」
ハラズーンはなんでもないように、頭を掻く。
「すっかり忘れておったわ」
「わ、忘れるって……」
カイルが呆れると、ジェイドがため息をつく。
「妙に竜王の館に詳しかったり、宝蔵のことを知っていたりしたのも、王族だったからか」
「はっはっは、そうであるな!」
ハラズーンはカラカラと笑ったのち、竜王に向き直る。
「竜王よ、お気持ちは大変ありがたいことだが……我はまだ王位は継げぬ」
「まだ?」
「我も魔王を退ける旅に出るゆえ!」
ハラズーンはそう言うと、ルウルウたちに向き直った。ルウルウたちは驚きっぱなしだ。
「竜人ハラズーン、貴殿らの旅に同道させてもらいたい!」
「ハラズーンさん……!」
ルウルウは嬉しさを感じた。仲間が増えるなら、こんなに心強いことはない。魔王の強さにも敵う気がした。
「カイル、ランダさん、ジェイド……」
ルウルウが三人を見る。ハラズーンを仲間にしたい、と思うことを伝える。三人もうなずいて、ランダが前に出る。ハラズーンの肩を叩く。
「よろしくな! 竜人の勇士ハラズーン!」
「弓手ランダよ、次は魔王の頭を射抜いてくれ!」
「言ったな、こいつめ!」
ランダとハラズーンが陽気に笑い合う。ジェイドがルウルウの肩をぽんと叩いた。
「仲間が増えたな、ルウルウ」
「うん!」
「魔王、強そうだったもんね!」
「そうだね、カイル」
ルウルウは胸元を押さえる。心臓が高鳴っている。旅はどんどん大変になるが、この仲間ならきっと乗り越えられる――そう思った。思考がクリアになる。
「みんな、よろしくお願いします!」
五人での旅が、始まろうとしていた。
第6章へつづく