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第3-5話 王の身(5)

「すまなかった、ハラズーン」


 竜王の寝室。ベッドに横たわった本物の竜王が、ハラズーンに詫びた。

 ハラズーンのそばには、ルウルウたちもいる。偽物の竜王を暴き、本物の竜王にかけられた呪いを解いたゆえだ。


 竜王は衰弱しているが、命に別状はないらしい。しばらく休めば公務にも復帰できる――というのが、医師の見立てだった。

 加えて、アルファハの呪いを受けていた衛兵たちも、無事だ。みな、宝蔵から持ってきた解呪薬を施され、ほどなく元の姿に戻った。


「そして礼を言うぞ」

「なんの、竜王よ。我の功績ではありませぬ。この者らがいてくれたからこそ」


 ハラズーンはカラカラと快活に笑った。年老いた竜王も笑う。


「冒険者たちよ、感謝する。そなたらが気づかねば、余は死んでいたであろう」


 竜王は遠い目をした。彼は魔族から呪いをかけられ、ゴーレムの核になっていたのだ。


「あのときは強い酒に浸され、地獄のような苦しみの中……ひたすら、唱えろと言われた言葉を唱えておった……」


 フウ、と竜王はため息をついた。


「まさかそれが、余をゴーレムにする呪文であったとは」


 呪いの中にある者は、強い苦しみを覚えるという。竜王は呪文を唱えながら、正気を保とうとしていたのだろう。それが魔族のささやいた、ゴーレム化の呪文とも知らずに。


「魔法使いが呪いに気づいたからこそ、竜王をお助けできました」

「そうか……魔法使い、ルウルウといったな。礼を言うぞ」

「い、いえ……」


 竜王に礼を言われ、ルウルウははにかんだ。カイルやランダもほほえむ。


「冒険者たちよ、否、勇士たちよ。魔王を追うのか?」

「はい、そのつもりです」


 竜王の問いかけに、ジェイドが答えた。


「強大な相手ですが、俺たちは魔王を退けるため――旅を続けます」

「そうか、そうか……できる限りの支援をしようではないか」


 竜王は疲れたようにうなずき、しかし頼りがいのある申し出をした。そしてハラズーンをそばに呼び寄せる。


「ハラズーン。余は、そなたに王位を譲りたい……」

「は?」


 竜王の言葉に、ハラズーンが目を丸くする。ルウルウたちも同じだ。


「なにをおっしゃる、急に……」

「急ではない、ずっと考えておった。ハラズーン、そなたもまた竜王の眷属であるゆえに」


 竜王の眷属――それが意味するところを悟り、カイルが驚いて叫んだ。


「ハラズーン、王族だったの!?」

「ああ、ま、そうであるな」


 ハラズーンはなんでもないように、頭を掻く。


「すっかり忘れておったわ」

「わ、忘れるって……」


 カイルが呆れると、ジェイドがため息をつく。


「妙に竜王の館に詳しかったり、宝蔵のことを知っていたりしたのも、王族だったからか」

「はっはっは、そうであるな!」


 ハラズーンはカラカラと笑ったのち、竜王に向き直る。


「竜王よ、お気持ちは大変ありがたいことだが……我はまだ王位は継げぬ」

「まだ?」

「我も魔王を退ける旅に出るゆえ!」


 ハラズーンはそう言うと、ルウルウたちに向き直った。ルウルウたちは驚きっぱなしだ。


「竜人ハラズーン、貴殿らの旅に同道させてもらいたい!」

「ハラズーンさん……!」


 ルウルウは嬉しさを感じた。仲間が増えるなら、こんなに心強いことはない。魔王の強さにも敵う気がした。


「カイル、ランダさん、ジェイド……」


 ルウルウが三人を見る。ハラズーンを仲間にしたい、と思うことを伝える。三人もうなずいて、ランダが前に出る。ハラズーンの肩を叩く。


「よろしくな! 竜人の勇士ハラズーン!」

「弓手ランダよ、次は魔王の頭を射抜いてくれ!」

「言ったな、こいつめ!」


 ランダとハラズーンが陽気に笑い合う。ジェイドがルウルウの肩をぽんと叩いた。


「仲間が増えたな、ルウルウ」

「うん!」

「魔王、強そうだったもんね!」

「そうだね、カイル」


 ルウルウは胸元を押さえる。心臓が高鳴っている。旅はどんどん大変になるが、この仲間ならきっと乗り越えられる――そう思った。思考がクリアになる。


「みんな、よろしくお願いします!」


 五人での旅が、始まろうとしていた。


 第6章へつづく

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