ルウルウ一行は、ハラズーンと名乗る竜人冒険者と出会った。ハラズーンは魔獣が
しかしハラズーンは捕らえられてしまい、ルウルウ一行も巻き添えを食った。
数日の投獄ののち、ハラズーンとルウルウ一行は、竜王の館へと引っ立てられた。腕を縛られ、竜王の前へと連れ出される。
「竜王よ、まずはこの人間とエルフたちを解放していただきたい」
いきなりハラズーンは頭を上げ、まっすぐ竜王に申し立てた。
「彼らは我とは偶然に同道したまで。我の思いとは同調しておりませぬ」
ハラズーンとルウルウたちとの出会いは偶然である。そこに悪しき企みや協力関係はない、とハラズーンは言っている。
「黙れ、ハラズーン!」
竜王もいきなり、ハラズーンを怒鳴りつけた。竜王の体に生えた白い毛が逆立つ。ひどく
「貴様の魂胆はわかっておる。さればこそ、ルーガノンへ戻ってきたのであろう!」
「魂胆。たしかに我は……竜王よ、貴殿に物申すつもりでおる!」
ハラズーンはどっかりとあぐらを組んだ。
「あの魔獣の数はどうしたことだ! 以前の貴殿であれば、あのように魔獣が闊歩することなぞ許さなかったであろう!」
「ハラズーン、貴様! 無礼であるぞ!」
「無能な王に払う礼儀なぞないわ!!」
ハラズーンと竜王の口論がヒートアップする。ハラズーンも竜王も腰を浮かせ、唾を飛ばしてたがいを怒鳴り合う。
一方、ルウルウ一行は――ルウルウは当惑した表情だ。カイルは青ざめている。ランダは呆れたように肩をすくめている。ジェイドも頭をがっくり下げたあと、居ずまいを正して状況を見守っている。そして口論がいったん止んだタイミングで、ジェイドが口を挟む。
「ハラズーン、そこまでにしておけ」
「ああ!? ……む、そうかもしれぬな」
ジェイドがハラズーンを諌めると、ハラズーンも正気に戻ったようだ。ブフゥ、と大きく鼻息を吐いて、浮かせていた腰を沈めて座り直す。
「ともかく、我のことは我だけの問題だ。こちらの人間たちは関係ない!」
「おのれ、ハラズーン。言うに事欠き、暗殺者どもを関係ないと申すか!」
竜王がルウルウたちを見て、叫んだ。
「暗殺者……って」
「とぼけおるか、人間ども。噂は聞いておるぞ!」
竜王が怒鳴る。周囲の衛兵たちも殺気立つ。
「貴様らは人間の国で……辺境トーリアの領主を暗殺したというではないか!」
「な……っ!?」
ランダが目を見開き、ジェイドも厳しい表情になる。
「アタシらがトーリア領主を暗殺しただって!? それは間違いだよ!」
「黙れぃ! 魔獣を操り、無惨にもトーリア領主グレッグを殺したのだろう!」
辺境の地トーリアで起こったことが、どこか曲解されている。しかもルウルウ一行にとって、かなり不利な噂が流れているようだ。
ルウルウも青ざめて、異議を申し立てる。
「ご、誤解です! あれは魔族が……!」
「竜王様、我らはたしかにグレッグと対立しました。しかし魔獣や魔族に魅入られていたのは、グレッグの方です」
ジェイドがルウルウをさえぎり、冷静に真実を告げる。その通りだ。魔族ミーザーンに魅入られ、悪行に手を染めていたのはグレッグの方だ。グレッグはランダが斬ったが、暗殺などという罪ではない。それはトーリアが属している国の王も認めていることだ。
「我らは正義のもとに、トーリア領主代理グレッグを斬りました。そこに罪はないと、国王にも認められてもいます」
「はン、その場におらぬ人間の王なぞ、どうとでも言いくるめられるわ!」
竜王は鼻で笑い、ジェイドの申し立てを一蹴した。ジェイドは構わずさらに問いかける。
「では、竜王様は我らが暗殺者たるという真実をお持ちだと?」
「ああぁ、もはや話すまでもない。衛兵ども! こやつらを処刑場に連れて行け!」
竜王は沙汰の場を打ち切るように言った。棒を持った衛兵たちが近づいてくる。
「い、いやだーっ!! こんなところで死ぬなんてぇーっ!!」
カイルが悲鳴を上げる。ジェイドが鋭い視線をハラズーンに投げかける。
「……もはやこれまで」
ハラズーンが小さくつぶやいた。衛兵が、彼の腕を拘束している縄に手をかける。その瞬間――。
「ガァァァァァッ!」
「うおおおっ!?」
ハラズーンは素早く立ち上がり、衛兵のひとりを蹴飛ばす。油断していた衛兵は、
「ぬん!」
ハラズーンが腕に力を入れる。彼を拘束していた縄がブツン! とちぎれ飛ぶ。
「ハラズーン、貴様!」
衛兵たちがハラズーンに殴りかかる。しかし素手のハラズーンの方が強い。衛兵が振り下ろす棒を受け止め、衛兵を投げ飛ばして棒を奪う。
「剣士よ、使え!」
ハラズーンがなにかをジェイドに投げた。ジェイドが受け取ったのは、短剣だ。衛兵を投げたときに奪い去ったらしい。
「ジェイド……!」
「全員、腹をくくれ!」
ジェイドが素早く叫び、横にいたランダの縄を短剣で斬った。ランダに短剣を渡し、今度はランダがジェイドの縄を斬る。ハラズーンがジェイドにもう一本、棒を投げる。襲いかかる衛兵たちをジェイドが抑える。
「ランダさん!」
「いま斬ってやる。手を動かすなよ」
ランダは短剣でルウルウとカイルの拘束を斬った。全員が自由になる。
「ついてまいれ!」
ハラズーンが叫び、走り出す。竜王の館へ入っていく。ジェイドが全員をうながし、ランダ、ルウルウ、カイルが続く。ジェイドは最後尾(しんがり)をつとめる。
「どこへ行くってのさ!?」
「話はあとだ、こっちだ!」
ハラズーンが広大な館の中を縦横無尽に曲がり、ひときわ立派な扉の前へと全員を連れて来る。ルウルウとカイルの息が上がるほどの距離を、全力疾走した気がする。
「ここだ、開けるぞ」
重厚な木の扉を開けると、中は広々とした寝室だった。部屋の中央にはベッドがあり、壁には棚が広がっている。棚には財宝が並んでいる。
ハラズーンは扉を閉めると、鍵をかけ、近くの重そうな
「衛兵たちもいずれ来る。それまでに……」
ハラズーンが部屋のもっとも奥に位置する棚に近づく。床から天井まで、壁のように棚が据え付けられている。ハラズーンはその棚を、まるではしごのように登り始めた。
「なにするつもりなのさー!?」
「エルフの道化師よ、案ずるな」
――バン! バンバン!
扉が激しく叩かれる。衛兵たちが追いついてきたようだ。
「暗殺者ども! 開けろ!」
扉が揺れ、バリケードが徐々にずれていく。数分経つと、バガン! と大きな音がして、衛兵たちが武器を手になだれ込んでくる。
「覚悟しろ――って……」
「い、いない?」
竜人の衛兵たちは寝室を見回した。
そこには、誰もいなかった。