ジェイドと竜人冒険者ハラズーンは、ルウルウたちと合流した。
「ジェイド! 無事だった!?」
「ああ、こっちの……ハラズーンがやってくれた」
ジェイドの紹介に、ハラズーンは丁寧に礼をする。
「我が名はハラズーン。竜人の冒険者だ。旅の冒険者たちよ、その困難に敬意を払おう」
「ハラズーンさん……よろしくお願いします。わたしはルウルウ。魔法使いです」
「僕はカイル。いまは冒険者だけど、もともとは道化師さ」
「ランダだ。得物はさっき見たよね? 弓手の冒険者さ」
ひとりひとりと握手をして、ハラズーンは鱗で覆われた指で頬をかいた。
「うむ、ジェイド、ルウルウ、カイル、ランダ。一応色で見分けられるが、間違ったら許してくれ」
「……色で見分ける?」
「他種族の顔は、なかなか覚えて見分けるのが大変でな。許せ」
ハラズーンの言葉に、ルウルウはぽかんとし、カイルがプッと笑う。ランダは肩をすくめた。
「まぁたしかに。アタシたちも竜人の顔を見分けられるかは微妙だしね」
「なんと! これほどまでに個性があるというのに!?」
今度はハラズーンが驚いた。ハラズーンの体は、エメラルドグリーンの鱗で覆われている。頭には二本の大きな角があり、背中までゴツゴツとしたトゲが生えている。大きな目は金色で、縦長の瞳孔は黒い。服は心臓部を守る胸当てと
「まぁまぁ、おたがいさまってことで!」
カイルが強引に話をまとめ、一行はまた斜面を登り始めた。先頭をハラズーンが歩く。彼はこのあたりの道に詳しいようだ。
「ハラズーン、さっきの魔獣はなんだ?」
「うむ。近頃、ルーガノン周辺は魔獣が大量に闊歩しておるのだ」
「魔獣が……」
ジェイドの問いに、ハラズーンがあっさりと答える。だが内容の深刻さに、ルウルウたちは息を呑む。
「ああ、嘆かわしい! 竜王はなにをしているのだ!」
ハラズーンは歩きながら憤慨した。息が荒くなり、鼻の穴が大きく開く。
「我がルーガノンに行く目的は、竜王に文句を言ってやるためだ!」
「……王様に文句を? そんなことできるの?」
カイルが表情を曇らせて首をかしげる。ハラズーンが首をぐるりと回して答える。
「エルフの道化師よ、それができるのが我ら竜人だ」
どういうことだろうか、ルウルウも話に加わる。
「えっと、竜王っていうのは竜人の王様ってことですよね?」
「うむ、魔法使いよ。そのとおりだ」
「人間の王様に会えるのは、偉い人だけのことが多いのですが……竜人は違うのですか?」
ハラズーンは目を細めた。笑っているらしい。
「そのとおりだ、魔法使いよ。竜人はいかに尊き身分に生まれようと、卑しき身分に生まれようと、第二の神の被造物という点においては平等だ」
ハラズーンは魔神を「第二の神」と呼んだ。「魔神」とは俗称であり、「第二の神」が正しい呼び名である。第二の神は、第一の神の真似をして亜人を造ったと伝えられている。ハラズーンはそのことを言っている。
「ゆえに竜人の王――竜王は、謁見を望む者を拒んではならない、という不文律がある」
「なるほど……でも、文句を言っても大丈夫なのですか?」
「そのための謁見制度だ! 畏れることはない。堂々と意見を述べてやる!」
ハラズーンはカラカラと笑った。ルウルウたちは顔を見合わせる。
「そら、竜人谷ルーガノンが見えてくるぞ!」
ハラズーンが叫ぶ。山の上り斜面が切れて、視界が開ける。広大な渓谷が、眼前に広がっていた。
「ここが……ルーガノン」
「どうだ、緑と水豊かなよき谷であろう?」
ハラズーンの言うとおりだ。広大な渓谷には、多くの木々と水がある。谷の斜面には街が築かれ、竜人たちが歩いている。谷間が狭くなっている場所には吊り橋がかけられ、竜人の子供が走って遊んでいる。
「この先はルーガノンに入るための関所だ。おのおの、身分証と通行手形を出されよ」
ハラズーンがそう言って、全員がうなずいた。
またしばらく歩いて、竜人谷ルーガノンの関所に到着する。がっしりとした竜人の関守が、通ろうとする者たちの手形を
「待て! 手形を出してもらおう」
関守たちがルウルウ一行を呼び止める。ルウルウたちは首からかけた身分証と通行手形を見せる。ハラズーンも首にかかるプレートを見せる。
「……貴様、ハラズーン!?」
ハラズーンの身分証を見て、関守たちがどよめく。すると高所で見張っていた関守のひとりが、警鐘を叩いた。けたたましい音が鳴る。
「ハラズーン! 貴様を捕縛する!!」
関所の中から、複数の関守たちが武器を手に出てくる。ハラズーンやルウルウたちを取り囲む。ジェイドがハラズーンに問いかける。
「どういうことだ、ハラズーン! アンタ、お尋ね者か!?」
「待て待て、身に覚えがない! まっこと身に覚えがない!」
「ねー! やっぱ王様に文句言うとかがよくないんじゃない!?」
「そんなはずが……!」
カイルが悲鳴まじりに言う。ハラズーンも状況が理解できずあわてているようだ。身に覚えがないのは本当なのだろう。
「みな、避けろ!」
関守のうしろから声がかかり、ハラズーンやルウルウたちの前になにかが転がってくる。白い玉から導火線が伸びており、火がついている――理解すると同時に、玉が破裂して煙が上がる。
「ぷわっ!?」
「きゃあっ!!」
ルウルウたちは驚いて、煙を吸い込んでしまう。ややって、ルウルウたちもハラズーンも、地面に倒れ伏した。