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第1-2話 竜人の谷(2)

 ジェイドと竜人冒険者ハラズーンは、ルウルウたちと合流した。


「ジェイド! 無事だった!?」

「ああ、こっちの……ハラズーンがやってくれた」


 ジェイドの紹介に、ハラズーンは丁寧に礼をする。


「我が名はハラズーン。竜人の冒険者だ。旅の冒険者たちよ、その困難に敬意を払おう」

「ハラズーンさん……よろしくお願いします。わたしはルウルウ。魔法使いです」

「僕はカイル。いまは冒険者だけど、もともとは道化師さ」

「ランダだ。得物はさっき見たよね? 弓手の冒険者さ」


 ひとりひとりと握手をして、ハラズーンは鱗で覆われた指で頬をかいた。


「うむ、ジェイド、ルウルウ、カイル、ランダ。一応色で見分けられるが、間違ったら許してくれ」

「……色で見分ける?」

「他種族の顔は、なかなか覚えて見分けるのが大変でな。許せ」


 ハラズーンの言葉に、ルウルウはぽかんとし、カイルがプッと笑う。ランダは肩をすくめた。


「まぁたしかに。アタシたちも竜人の顔を見分けられるかは微妙だしね」

「なんと! これほどまでに個性があるというのに!?」


 今度はハラズーンが驚いた。ハラズーンの体は、エメラルドグリーンの鱗で覆われている。頭には二本の大きな角があり、背中までゴツゴツとしたトゲが生えている。大きな目は金色で、縦長の瞳孔は黒い。服は心臓部を守る胸当てと下履きズボン以外はほとんど身につけていない。首元や手首に、赤いビーズを通した飾りが輝いている。


「まぁまぁ、おたがいさまってことで!」


 カイルが強引に話をまとめ、一行はまた斜面を登り始めた。先頭をハラズーンが歩く。彼はこのあたりの道に詳しいようだ。


「ハラズーン、さっきの魔獣はなんだ?」

「うむ。近頃、ルーガノン周辺は魔獣が大量に闊歩しておるのだ」

「魔獣が……」


 ジェイドの問いに、ハラズーンがあっさりと答える。だが内容の深刻さに、ルウルウたちは息を呑む。


「ああ、嘆かわしい! 竜王はなにをしているのだ!」


 ハラズーンは歩きながら憤慨した。息が荒くなり、鼻の穴が大きく開く。


「我がルーガノンに行く目的は、竜王に文句を言ってやるためだ!」

「……王様に文句を? そんなことできるの?」


 カイルが表情を曇らせて首をかしげる。ハラズーンが首をぐるりと回して答える。


「エルフの道化師よ、それができるのが我ら竜人だ」


 どういうことだろうか、ルウルウも話に加わる。


「えっと、竜王っていうのは竜人の王様ってことですよね?」

「うむ、魔法使いよ。そのとおりだ」

「人間の王様に会えるのは、偉い人だけのことが多いのですが……竜人は違うのですか?」


 ハラズーンは目を細めた。笑っているらしい。


「そのとおりだ、魔法使いよ。竜人はいかに尊き身分に生まれようと、卑しき身分に生まれようと、第二の神の被造物という点においては平等だ」


 ハラズーンは魔神を「第二の神」と呼んだ。「魔神」とは俗称であり、「第二の神」が正しい呼び名である。第二の神は、第一の神の真似をして亜人を造ったと伝えられている。ハラズーンはそのことを言っている。


「ゆえに竜人の王――竜王は、謁見を望む者を拒んではならない、という不文律がある」

「なるほど……でも、文句を言っても大丈夫なのですか?」

「そのための謁見制度だ! 畏れることはない。堂々と意見を述べてやる!」


 ハラズーンはカラカラと笑った。ルウルウたちは顔を見合わせる。


「そら、竜人谷ルーガノンが見えてくるぞ!」


 ハラズーンが叫ぶ。山の上り斜面が切れて、視界が開ける。広大な渓谷が、眼前に広がっていた。


「ここが……ルーガノン」

「どうだ、緑と水豊かなよき谷であろう?」


 ハラズーンの言うとおりだ。広大な渓谷には、多くの木々と水がある。谷の斜面には街が築かれ、竜人たちが歩いている。谷間が狭くなっている場所には吊り橋がかけられ、竜人の子供が走って遊んでいる。


「この先はルーガノンに入るための関所だ。おのおの、身分証と通行手形を出されよ」


 ハラズーンがそう言って、全員がうなずいた。

 またしばらく歩いて、竜人谷ルーガノンの関所に到着する。がっしりとした竜人の関守が、通ろうとする者たちの手形をあらためている。


「待て! 手形を出してもらおう」


 関守たちがルウルウ一行を呼び止める。ルウルウたちは首からかけた身分証と通行手形を見せる。ハラズーンも首にかかるプレートを見せる。


「……貴様、ハラズーン!?」


 ハラズーンの身分証を見て、関守たちがどよめく。すると高所で見張っていた関守のひとりが、警鐘を叩いた。けたたましい音が鳴る。


「ハラズーン! 貴様を捕縛する!!」


 関所の中から、複数の関守たちが武器を手に出てくる。ハラズーンやルウルウたちを取り囲む。ジェイドがハラズーンに問いかける。


「どういうことだ、ハラズーン! アンタ、お尋ね者か!?」

「待て待て、身に覚えがない! まっこと身に覚えがない!」

「ねー! やっぱ王様に文句言うとかがよくないんじゃない!?」

「そんなはずが……!」


 カイルが悲鳴まじりに言う。ハラズーンも状況が理解できずあわてているようだ。身に覚えがないのは本当なのだろう。


「みな、避けろ!」


 関守のうしろから声がかかり、ハラズーンやルウルウたちの前になにかが転がってくる。白い玉から導火線が伸びており、火がついている――理解すると同時に、玉が破裂して煙が上がる。


「ぷわっ!?」

「きゃあっ!!」


 ルウルウたちは驚いて、煙を吸い込んでしまう。ややって、ルウルウたちもハラズーンも、地面に倒れ伏した。

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