数日後――国王の
ルウルウたちもいまだトーリアの地に留まっていた。事態の後始末と、旅の準備をするためだ。今日、国王の手紙によって、後始末が決着するだろう。
「ようこそ、おいでくださいました」
クリスティアが緊張した面持ちで、勅使を迎える。トーリア城には、ルウルウたち、ランダやその配下に加え、グレッグに追放されていた旧臣たちも戻ってきている。全員で勅使を迎えた。
使いの騎士は重々しく国王からの手紙を取り出し、クリスティアたちの前で読み上げる。
「グレッグ・ドーンの罪はその死をもって償われたとみなす。またクリスティア・ドーン。その方をトーリアの正統な領主と認め、変わらずトーリアを統治すべし」
「は……! 寛大なるご裁決、感謝の念にたえません……!」
騎士の読み上げた文面を、クリスティアは受け入れた。
勅使の騎士を歓待するため、ひとまず別室へと案内させる。騎士とドーン家の家令が去ると、クリスティアは床にへたりこんだ。
「クリスティア!」
「ランダ様……わたくし……」
「大丈夫。クリスティアならやれるさ」
ランダはクリスティアを立たせ、じっと見つめる。
「クナルたちも、アタシたちが保護してた民たちも、アンタの家臣たちも、またトーリアのために働いてくれると約束してる。アンタがいい領主であるうちは……ね」
クリスティアの目に、うるうると涙が溜まってくる。
「ランダ様……どうしても、行かれるのですか?」
「ああ。でも、必ず戻ってくる。心配すんなって! な?」
泣き出すクリスティアを、ランダは明るい口調で励ます。
「ほら、泣かない泣かない! これからはトーリアを楽しい土地に変えておくれよ!」
「はい……はい……!」
クリスティアは何度も涙をぬぐった。顔を上げて、ランダを見つめる。そして、旅立つ者たち――ルウルウたちの方も見る。
「ランダ様、ジェイド様、ルウルウ様、カイル様。どうか……ご無事で」
「ああ」
「はい!」
「うん!」
クリスティアの視線の先には、すっかり旅支度を終えたルウルウたちがいる。ランダも荷物とともに弓を背負い、旅立つ姿となる。
「よし! 行こうか!」
「だってさ、リーダー!」
カイルに言われ、ジェイドがうなずいた。ジェイドはルウルウを見る。ルウルウもうなずく。全員が気持ちをひとつにして、トーリア城を出ていく。
「ありがとう、元気でな!」
「ランダの姐御、病気すんなよ!」
「魔王を必ず、ぶっ飛ばしてくれよ!!」
ルウルウ一行を見送る者たちが、口々に声をかける。手を大きく振って、別れを惜しむ。魔王を退けるための旅――その勇気を讃えるように、人々は手を振った。
今日のトーリアは晴れている。明るい昼の光が、山に囲まれたトーリアの地を照らしている。新たな旅立ちを、温かい空気で迎えてくれている。
「ありがとう! 皆さん! わたしたち、頑張ります!」
ルウルウは大声でそう言って、手を振り返した。
ランダも陽気に手を振って、何度も大声で見送りに応えた。カイルもピョコピョコ跳ねながら、見送りに感謝した。
「さぁ、行こう。もっと西へ」
ジェイドが三人を促し、街道を歩いていく。四人は連れ立って、西の方角へと向かう。次はどんな出会いがあり、どんな戦いがあるのか。ワクワクするような、不安なような、不思議な気持ちになる。
「あ、あの! ランダさん!」
「なんだい、ルウルウ?」
歩きながら、ルウルウはランダに声をかけた。ランダは焦茶色の髪を風にまかせ、ルウルウに返事をする。
「ランダさん、本当によかったんですか?」
「なにがさ?」
「だって……その、クリスティア様は……」
クリスティアは、たしかにランダに信頼を寄せていた。全幅の信頼よりも、もっと強い親愛の情を持っていた。――ルウルウにはそう思える。
「いいんだ、今は。おたがい離れておいた方が」
「そういう……ものなのですか?」
「ああ」
ランダはそこまで言って、照れくさそうに髪をいじる。短く切った焦茶色の髪だ。
「帰ったらパートナーでもなんでもなってやるよ」
そう言って、ランダは笑う。青色の目が笑っている。
――ああ、その覚悟もあるんだ。ルウルウは感嘆していた。おのれとは大違いだ、とも思う。ルウルウは、ジェイドから伝えられた想いに答えられてもいない。ジェイドはルウルウの返事を待ってくれている。ルウルウはそのことに甘えるしかない。
「ランダさんは……すごいですね」
「ん? そうかい。ありがとう」
ルウルウの胸中に気づいているのかいないのか。ランダは素直に礼を言ってくれる。彼女はきっと、頼りになる。ルウルウはそうも思った。
「ねー! ふたりとも、なに話してるの? もしかしてコイバナ~?」
「うるさいね、カイル! 女子の会話を詮索しない!」
前方から、振り返ったカイルが尋ねる。ランダが言い返す。ルウルウは思わず笑った。ジェイドも苦笑しているのが見える。
四人の旅が始まる。これからもっともっと、多くの出会いがあるに違いない。
第5章につづく