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第3-4話 藪に秘めし想い(4)

 数日後――国王の沙汰てがみを携えて、勅使がやってきた。

 ルウルウたちもいまだトーリアの地に留まっていた。事態の後始末と、旅の準備をするためだ。今日、国王の手紙によって、後始末が決着するだろう。


「ようこそ、おいでくださいました」


 クリスティアが緊張した面持ちで、勅使を迎える。トーリア城には、ルウルウたち、ランダやその配下に加え、グレッグに追放されていた旧臣たちも戻ってきている。全員で勅使を迎えた。


 使いの騎士は重々しく国王からの手紙を取り出し、クリスティアたちの前で読み上げる。


「グレッグ・ドーンの罪はその死をもって償われたとみなす。またクリスティア・ドーン。その方をトーリアの正統な領主と認め、変わらずトーリアを統治すべし」

「は……! 寛大なるご裁決、感謝の念にたえません……!」


 騎士の読み上げた文面を、クリスティアは受け入れた。

 勅使の騎士を歓待するため、ひとまず別室へと案内させる。騎士とドーン家の家令が去ると、クリスティアは床にへたりこんだ。


「クリスティア!」

「ランダ様……わたくし……」

「大丈夫。クリスティアならやれるさ」


 ランダはクリスティアを立たせ、じっと見つめる。


「クナルたちも、アタシたちが保護してた民たちも、アンタの家臣たちも、またトーリアのために働いてくれると約束してる。アンタがいい領主であるうちは……ね」


 クリスティアの目に、うるうると涙が溜まってくる。


「ランダ様……どうしても、行かれるのですか?」

「ああ。でも、必ず戻ってくる。心配すんなって! な?」


 泣き出すクリスティアを、ランダは明るい口調で励ます。


「ほら、泣かない泣かない! これからはトーリアを楽しい土地に変えておくれよ!」

「はい……はい……!」


 クリスティアは何度も涙をぬぐった。顔を上げて、ランダを見つめる。そして、旅立つ者たち――ルウルウたちの方も見る。


「ランダ様、ジェイド様、ルウルウ様、カイル様。どうか……ご無事で」

「ああ」

「はい!」

「うん!」


 クリスティアの視線の先には、すっかり旅支度を終えたルウルウたちがいる。ランダも荷物とともに弓を背負い、旅立つ姿となる。


「よし! 行こうか!」

「だってさ、リーダー!」


 カイルに言われ、ジェイドがうなずいた。ジェイドはルウルウを見る。ルウルウもうなずく。全員が気持ちをひとつにして、トーリア城を出ていく。


「ありがとう、元気でな!」

「ランダの姐御、病気すんなよ!」

「魔王を必ず、ぶっ飛ばしてくれよ!!」


 ルウルウ一行を見送る者たちが、口々に声をかける。手を大きく振って、別れを惜しむ。魔王を退けるための旅――その勇気を讃えるように、人々は手を振った。


 今日のトーリアは晴れている。明るい昼の光が、山に囲まれたトーリアの地を照らしている。新たな旅立ちを、温かい空気で迎えてくれている。


「ありがとう! 皆さん! わたしたち、頑張ります!」


 ルウルウは大声でそう言って、手を振り返した。

 ランダも陽気に手を振って、何度も大声で見送りに応えた。カイルもピョコピョコ跳ねながら、見送りに感謝した。


「さぁ、行こう。もっと西へ」


 ジェイドが三人を促し、街道を歩いていく。四人は連れ立って、西の方角へと向かう。次はどんな出会いがあり、どんな戦いがあるのか。ワクワクするような、不安なような、不思議な気持ちになる。


「あ、あの! ランダさん!」

「なんだい、ルウルウ?」


 歩きながら、ルウルウはランダに声をかけた。ランダは焦茶色の髪を風にまかせ、ルウルウに返事をする。


「ランダさん、本当によかったんですか?」

「なにがさ?」

「だって……その、クリスティア様は……」


 クリスティアは、たしかにランダに信頼を寄せていた。全幅の信頼よりも、もっと強い親愛の情を持っていた。――ルウルウにはそう思える。


「いいんだ、今は。おたがい離れておいた方が」

「そういう……ものなのですか?」

「ああ」


 ランダはそこまで言って、照れくさそうに髪をいじる。短く切った焦茶色の髪だ。


「帰ったらパートナーでもなんでもなってやるよ」


 そう言って、ランダは笑う。青色の目が笑っている。


 ――ああ、その覚悟もあるんだ。ルウルウは感嘆していた。おのれとは大違いだ、とも思う。ルウルウは、ジェイドから伝えられた想いに答えられてもいない。ジェイドはルウルウの返事を待ってくれている。ルウルウはそのことに甘えるしかない。


「ランダさんは……すごいですね」

「ん? そうかい。ありがとう」


 ルウルウの胸中に気づいているのかいないのか。ランダは素直に礼を言ってくれる。彼女はきっと、頼りになる。ルウルウはそうも思った。


「ねー! ふたりとも、なに話してるの? もしかしてコイバナ~?」

「うるさいね、カイル! 女子の会話を詮索しない!」


 前方から、振り返ったカイルが尋ねる。ランダが言い返す。ルウルウは思わず笑った。ジェイドも苦笑しているのが見える。


 四人の旅が始まる。これからもっともっと、多くの出会いがあるに違いない。



 第5章につづく

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