「俺たちは魔王の手先を見逃すわけにはいかない」
「わたしたち、戦います!」
ジェイドとルウルウの宣言に、今度はクリスティアやランダたちが目を見張っている。
「へへっ、やっぱそうなるよなぁ」
カイルが楽しそうに笑う。
「んじゃ、僕たちの事情を話すね。立ち話もなんだし、お茶でも出してよ」
「わかった、聞こうじゃないか」
カイルがそう言うと、ランダはテントのひとつに三人を案内した。そこが、ランダたちの集落では司令塔の役目を果たす場所らしい。
ルウルウたちは、今まで起こったことや知ったことを話す。
聖杯の魔女タージュがいまや魔王の虜囚となり、ルウルウたちはそれを追って西へ旅している。魔王の手がかりを得るために、魔王の信奉者たるミーザーンたちは見逃せない。
そういうことを語ると、ランダも納得した顔になる。
「聖杯の魔女のことは噂で聞いたことがある。回復魔法や薬に優れた魔女がいるってね。本当にいたんだねぇ……」
「はい! お師匠様は、すごい人なんです」
ルウルウは目を輝かせて言った。
カイルが頭のうしろで手を組む。
「んで、どうやってグレッグとミーザーンの悪行をあばくのさ?」
「まず、クリスティア姫からの告発が必要だな」
「アタシもそう思ってね。国王への手紙を書いてもらった」
ジェイドが答え、ランダが説明する。トーリアの地は領主たるドーン家が治めているが、ドーン家の上には国王がいる。その王に、グレッグの悪行を告発するのだ。
「しかし、危険な告発だ。最悪、ドーン家は取り潰されるぞ」
「それは……覚悟の上です」
クリスティアが答える。本来領主になるべき者として、責任を感じている表情だ。
「わたくしは義父のおそろしい行為を知っても、なにもできなくて……」
クリスティアはグレッグにおびえていた。彼女はランダにさらわれたのではなく、ランダに頼み込んで、グレッグの
ランダが自分たちの作戦を語る。
「隠し谷の場所は、クリスティアが教えてくれた。谷の中に囚われた連中と連帯する手はずも整いつつある」
「蜂起の準備ができそうということか」
ジェイドは、ランダたちの作戦を理解した顔になる。パチン、と指先を鳴らす。
「その手はず、早められるか?」
「え?」
「俺に策がある。乗るか?」
ランダたちにジェイドが策を語っていると――。
「姐さん! 大変だ!!」
テントの中に、ランダの配下が走り込んできた。ひどくあわてている。
「ま、魔獣が! 何匹もここに向かってる!!」
ランダは素早く椅子から立ち上がる。鋭い視線をジェイドに投げかける。ジェイドが舌打ちする。
「チッ、思ったより速かったな」
「お前たち! 慌てずに山へ皆を連れて行きな!!」
ランダが指示すると同時に、空から小型の
しばし怒号と悲鳴が響いた。
「ミーザーン殿、待て!」
司令塔のテントから、大声が上がる。その声を聞き、魔獣たちがいっせいに攻撃をやめる。魔獣たちの中から、進み出た者がいる。そう、メイド長のミーザーンだ。
「お呼びでしょうか、ジェイド様?」
ミーザーンが問いかける。そこに司令塔のテントから、ジェイドが出てくる。ジェイドはランダを拘束しており、そばにはカイルに拘束されたクリスティアもいる。
「ランダを捕らえた。クリスティア姫も無事だ」
「ほう」
ミーザーンの糸目が、すうっと開かれる。虹彩の大きな眼だった。そして満足げににやぁっと笑う。目が糸目に戻る。クリスティアの前に来て、うやうやしく礼をする。
「姫様、ご無事でようございました」
「…………」
クリスティアは答えない。青ざめている。
ミーザーンはため息をついた。
「ご様子からすると、ひどいわがままをおっしゃったようですね」
「そうそう。だからちょっと、ね」
カイルが軽口を叩くが、表情はどこか引きつっている。無理もない。ミーザーンの背後には、大量の魔獣が控えているのだ。
「ランダをお引渡し願いましょう」
「いや、グレッグ様に俺から引き渡す。報酬と引き換えだ」
ジェイドが答えると、ミーザーンは肩をすくめた。
「たしかに。報酬は我が主人がお持ちですものね。かしこまりました」
ミーザーンがきびすを返す。魔獣たちもそれにならい、撤収していく。ついてこい、という意味だ。ジェイドとカイルは、そのままトーリア城に引き揚げていく。ランダとクリスティアを拘束したまま、引っ立てる。
「クソ冒険者め!!」
ジェイドとカイルの背に、そんな言葉が投げつけられる。ランダの配下たちの声だ。
「どういたします? お望みならば、殲滅もいたしますが……」
ミーザーンが怖ろしい言葉をなんでもないように言う。ジェイドが首を横に振る。
「襲ってこられない、弱者のたわごとだ。捨て置けばいい」
「左様でございますか」
そのまま、ジェイドたちは山を下っていった。
「……ジェイド、カイル……」
無事だったテントの影で、つぶやいた者がいる。ルウルウだ。彼女はギュッと杖を握りしめた。