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第2-1話 魔を暴け(1)

「俺たちは魔王の手先を見逃すわけにはいかない」

「わたしたち、戦います!」


 ジェイドとルウルウの宣言に、今度はクリスティアやランダたちが目を見張っている。


「へへっ、やっぱそうなるよなぁ」


 カイルが楽しそうに笑う。


「んじゃ、僕たちの事情を話すね。立ち話もなんだし、お茶でも出してよ」

「わかった、聞こうじゃないか」


 カイルがそう言うと、ランダはテントのひとつに三人を案内した。そこが、ランダたちの集落では司令塔の役目を果たす場所らしい。


 ルウルウたちは、今まで起こったことや知ったことを話す。

 聖杯の魔女タージュがいまや魔王の虜囚となり、ルウルウたちはそれを追って西へ旅している。魔王の手がかりを得るために、魔王の信奉者たるミーザーンたちは見逃せない。

 そういうことを語ると、ランダも納得した顔になる。


「聖杯の魔女のことは噂で聞いたことがある。回復魔法や薬に優れた魔女がいるってね。本当にいたんだねぇ……」

「はい! お師匠様は、すごい人なんです」


 ルウルウは目を輝かせて言った。

 カイルが頭のうしろで手を組む。


「んで、どうやってグレッグとミーザーンの悪行をあばくのさ?」

「まず、クリスティア姫からの告発が必要だな」

「アタシもそう思ってね。国王への手紙を書いてもらった」


 ジェイドが答え、ランダが説明する。トーリアの地は領主たるドーン家が治めているが、ドーン家の上には国王がいる。その王に、グレッグの悪行を告発するのだ。


「しかし、危険な告発だ。最悪、ドーン家は取り潰されるぞ」

「それは……覚悟の上です」


 クリスティアが答える。本来領主になるべき者として、責任を感じている表情だ。


「わたくしは義父のおそろしい行為を知っても、なにもできなくて……」


 クリスティアはグレッグにおびえていた。彼女はランダにさらわれたのではなく、ランダに頼み込んで、グレッグのもとを脱出したのだ。そしてクリスティアはランダに協力し、今日まで来た。それがクリスティアなりの贖罪らしい。


 ランダが自分たちの作戦を語る。


「隠し谷の場所は、クリスティアが教えてくれた。谷の中に囚われた連中と連帯する手はずも整いつつある」

「蜂起の準備ができそうということか」


 ジェイドは、ランダたちの作戦を理解した顔になる。パチン、と指先を鳴らす。


「その手はず、早められるか?」

「え?」

「俺に策がある。乗るか?」


 ランダたちにジェイドが策を語っていると――。


「姐さん! 大変だ!!」


 テントの中に、ランダの配下が走り込んできた。ひどくあわてている。


「ま、魔獣が! 何匹もここに向かってる!!」


 ランダは素早く椅子から立ち上がる。鋭い視線をジェイドに投げかける。ジェイドが舌打ちする。


「チッ、思ったより速かったな」

「お前たち! 慌てずに山へ皆を連れて行きな!!」


 ランダが指示すると同時に、空から小型の飛竜ワイバーンが襲いかかってくる。大きさは雄鶏ほどだが、数が多い。やがて地上からも、軟体動物の姿をした魔獣がやってくる。人間ほどの背丈があるナメクジ型の魔獣だ。キャンプの住民らは逃げ惑い、ランダの配下が魔獣と交戦する。

 しばし怒号と悲鳴が響いた。


「ミーザーン殿、待て!」


 司令塔のテントから、大声が上がる。その声を聞き、魔獣たちがいっせいに攻撃をやめる。魔獣たちの中から、進み出た者がいる。そう、メイド長のミーザーンだ。


「お呼びでしょうか、ジェイド様?」


 ミーザーンが問いかける。そこに司令塔のテントから、ジェイドが出てくる。ジェイドはランダを拘束しており、そばにはカイルに拘束されたクリスティアもいる。


「ランダを捕らえた。クリスティア姫も無事だ」

「ほう」


 ミーザーンの糸目が、すうっと開かれる。虹彩の大きな眼だった。そして満足げににやぁっと笑う。目が糸目に戻る。クリスティアの前に来て、うやうやしく礼をする。


「姫様、ご無事でようございました」

「…………」


 クリスティアは答えない。青ざめている。

 ミーザーンはため息をついた。


「ご様子からすると、ひどいわがままをおっしゃったようですね」

「そうそう。だからちょっと、ね」


 カイルが軽口を叩くが、表情はどこか引きつっている。無理もない。ミーザーンの背後には、大量の魔獣が控えているのだ。


「ランダをお引渡し願いましょう」

「いや、グレッグ様に俺から引き渡す。報酬と引き換えだ」


 ジェイドが答えると、ミーザーンは肩をすくめた。


「たしかに。報酬は我が主人がお持ちですものね。かしこまりました」


 ミーザーンがきびすを返す。魔獣たちもそれにならい、撤収していく。ついてこい、という意味だ。ジェイドとカイルは、そのままトーリア城に引き揚げていく。ランダとクリスティアを拘束したまま、引っ立てる。


「クソ冒険者め!!」


 ジェイドとカイルの背に、そんな言葉が投げつけられる。ランダの配下たちの声だ。


「どういたします? お望みならば、殲滅もいたしますが……」


 ミーザーンが怖ろしい言葉をなんでもないように言う。ジェイドが首を横に振る。


「襲ってこられない、弱者のたわごとだ。捨て置けばいい」

「左様でございますか」


 そのまま、ジェイドたちは山を下っていった。


「……ジェイド、カイル……」


 無事だったテントの影で、つぶやいた者がいる。ルウルウだ。彼女はギュッと杖を握りしめた。

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