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第1-4話 噂の女盗賊(4)

 義賊ランダのアジト――隠れた集落へとやってきたルウルウ一行。そこで彼女らは、クリスティア姫と出会った。クリスティアはランダを心から慕っている様子だった。


「……ランダ様、こちらの方々は?」

「ああ、グレッグが雇った冒険者さ」

「え……!?」


 義父グレッグに雇われた冒険者――と聞いて、クリスティアが青ざめる。彼女は素早くランダのうしろに隠れる。


「わ、わたくしは戻りません! お義父様の悪行に、これ以上、加担するわけには……!」

「落ち着きな、姫。こいつら、なかなか話せるようだから連れてきたんだ」


 パニックになるクリスティアを、ランダがなだめる。クリスティアはホッとしたような様子になる。

 姫君と義賊――まるで物語そのものだ。と、ルウルウは思った。


「ルウルウ、と申します。クリスティア様、わたしたちは詳しい話を聞きに来たのです」

「詳しい、話?」

「はい。ドーン家の隠し谷で、魔獣の軍をつくっているという……」


 ルウルウの言葉を聞いて、クリスティアはランダのうしろから出る。悲しげな表情で、うつむいた。


「……それは、本当のことです」


 クリスティアが続ける。


「お義父様は、魔王に魅了されてしまわれたのです……」

「魔王……!」


 ルウルウたちは厳しい表情で、顔を見合わせた。

 魔獣の軍――つまりは、魔族の一種を使った軍隊を作る。人間の身で行うにはあまりに危険であり、また禁忌でもある。だが魔王とつながってしまえば、できうるかもしれない。


「最初は、盗賊に屋敷を襲われた折、助けてくれた方がいました。彼女が魔獣を使って、盗賊を撃退したのです」


 クリスティアが語る。時折、おぞましさを思い出したのか、手が震えている。


「彼女は魔獣を完璧に使いこなしていました。そしてお義父様にも魔獣を使役する方法を教えてくれたのです」


 グレッグは魔獣を操るすべを手に入れた。どんな武器よりも強く、魅惑的な力だった。


「緊急のときだけ、使えばいい……お義父様は、最初はそうおっしゃっていました。でも領地の治安が悪くなるにつれて、魔獣の軍を作ろうとおっしゃって」

「治安が悪くなった?」

「はい。国境近くの村が何者かに襲われたり、人がさらわれたり……そういうことが起こりました。それで、お義父様は魔獣を使役することにのめりこんでしまわれて……」


 ジェイドはランダの方を見た。治安の悪化はランダの活動のせいではないか、と言いたげだ。


「言っておくけど、それはアタシじゃないからね」


 ランダが肩をすくめて否定する。


「アタシはもともと冒険者でね。グレッグの圧政に我慢できなくなって、義賊になったのさ」

「なるほど、グレッグ様がおかしくなったのが先で、ランダの方があとか」


 時系列を整理して、ジェイドたちは納得する。


「それで、グレッグ様はどうして魔王とつながったんだ?」

「お義父様に魔獣を使役するすべを教えた人は、魔王の信奉者だったのです」


 魔王を崇拝する者――人間や亜人のなかにいる、禁忌を犯す者たち。彼らは魔王から力を得て、魔王のためならば悪行を重ねることも厭わない。


「その者は、いまもグレッグ様のそばに?」

「はい……彼女の名はミーザーン、メイド長のミーザーンです」


 金髪で糸目が印象的な、メイド長ミーザーン。彼女こそ、グレッグを堕落の道へと導いた者らしい。


「ミーザーンさんが……」

「はい。我が家にも何人か心あるひとがいて……お義父様をいさめてくれたのですが」


 旧来の家臣たちが、グレッグをいさめようとした。しかし彼らはいずれも急にいなくなった。行方はようとして知れず、ドーン家でグレッグに意見できる者はいなくなった。


「おそらく、お義父様とミーザーンがなにかしたのだと思います……怖ろしい……!」


 クリスティアはフルフルと震え、涙をこらえている。ここで語った以上の、怖ろしい経験をしたのかもしれない。


「お願いです、冒険者の皆様! お義父様の依頼なんか放りだしてください! そしてこの地から逃げてください!」

「いいや、それには及ばない」


 ジェイドが答える。


「俺たちは魔王の手先を見逃すわけにはいかない」

「え……?」


 クリスティアが涙のたまった目で、ジェイドたちを見る。ジェイドはルウルウとカイルに視線をやる。ルウルウもカイルもうなずいた。


「わたしたち……戦います!」


 ルウルウは力強く宣言した。


 つづく

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