義賊ランダのアジト――隠れた集落へとやってきたルウルウ一行。そこで彼女らは、クリスティア姫と出会った。クリスティアはランダを心から慕っている様子だった。
「……ランダ様、こちらの方々は?」
「ああ、グレッグが雇った冒険者さ」
「え……!?」
「わ、わたくしは戻りません! お義父様の悪行に、これ以上、加担するわけには……!」
「落ち着きな、姫。こいつら、なかなか話せるようだから連れてきたんだ」
パニックになるクリスティアを、ランダがなだめる。クリスティアはホッとしたような様子になる。
姫君と義賊――まるで物語そのものだ。と、ルウルウは思った。
「ルウルウ、と申します。クリスティア様、わたしたちは詳しい話を聞きに来たのです」
「詳しい、話?」
「はい。ドーン家の隠し谷で、魔獣の軍をつくっているという……」
ルウルウの言葉を聞いて、クリスティアはランダのうしろから出る。悲しげな表情で、うつむいた。
「……それは、本当のことです」
クリスティアが続ける。
「お義父様は、魔王に魅了されてしまわれたのです……」
「魔王……!」
ルウルウたちは厳しい表情で、顔を見合わせた。
魔獣の軍――つまりは、魔族の一種を使った軍隊を作る。人間の身で行うにはあまりに危険であり、また禁忌でもある。だが魔王とつながってしまえば、できうるかもしれない。
「最初は、盗賊に屋敷を襲われた折、助けてくれた方がいました。彼女が魔獣を使って、盗賊を撃退したのです」
クリスティアが語る。時折、おぞましさを思い出したのか、手が震えている。
「彼女は魔獣を完璧に使いこなしていました。そしてお義父様にも魔獣を使役する方法を教えてくれたのです」
グレッグは魔獣を操るすべを手に入れた。どんな武器よりも強く、魅惑的な力だった。
「緊急のときだけ、使えばいい……お義父様は、最初はそうおっしゃっていました。でも領地の治安が悪くなるにつれて、魔獣の軍を作ろうとおっしゃって」
「治安が悪くなった?」
「はい。国境近くの村が何者かに襲われたり、人がさらわれたり……そういうことが起こりました。それで、お義父様は魔獣を使役することにのめりこんでしまわれて……」
ジェイドはランダの方を見た。治安の悪化はランダの活動のせいではないか、と言いたげだ。
「言っておくけど、それはアタシじゃないからね」
ランダが肩をすくめて否定する。
「アタシはもともと冒険者でね。グレッグの圧政に我慢できなくなって、義賊になったのさ」
「なるほど、グレッグ様がおかしくなったのが先で、ランダの方があとか」
時系列を整理して、ジェイドたちは納得する。
「それで、グレッグ様はどうして魔王とつながったんだ?」
「お義父様に魔獣を使役するすべを教えた人は、魔王の信奉者だったのです」
魔王を崇拝する者――人間や亜人のなかにいる、禁忌を犯す者たち。彼らは魔王から力を得て、魔王のためならば悪行を重ねることも厭わない。
「その者は、いまもグレッグ様のそばに?」
「はい……彼女の名はミーザーン、メイド長のミーザーンです」
金髪で糸目が印象的な、メイド長ミーザーン。彼女こそ、グレッグを堕落の道へと導いた者らしい。
「ミーザーンさんが……」
「はい。我が家にも何人か心あるひとがいて……お義父様をいさめてくれたのですが」
旧来の家臣たちが、グレッグをいさめようとした。しかし彼らはいずれも急にいなくなった。行方はようとして知れず、ドーン家でグレッグに意見できる者はいなくなった。
「おそらく、お義父様とミーザーンがなにかしたのだと思います……怖ろしい……!」
クリスティアはフルフルと震え、涙をこらえている。ここで語った以上の、怖ろしい経験をしたのかもしれない。
「お願いです、冒険者の皆様! お義父様の依頼なんか放りだしてください! そしてこの地から逃げてください!」
「いいや、それには及ばない」
ジェイドが答える。
「俺たちは魔王の手先を見逃すわけにはいかない」
「え……?」
クリスティアが涙のたまった目で、ジェイドたちを見る。ジェイドはルウルウとカイルに視線をやる。ルウルウもカイルもうなずいた。
「わたしたち……戦います!」
ルウルウは力強く宣言した。
つづく