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第1-3話 噂の女盗賊(3)

 ジェイドが組み伏せた襲撃者は、女盗賊ランダのようだ。焦茶色の髪は、まるで男のように短く切ってある。深い青色の瞳が、あきらめたような色を宿している。


「貴様がランダか?」

「ああ、そうさ。殺すか? アタシを殺しても、ほかの連中が貴様らを殺す」

「ほう。試してみるか?」


 ジェイドは油断なくショートソードをランダに突きつけた。周囲の襲撃者がざわつき、殺気立つ。一触即発だ。


「ま、待って! 待って、ジェイド!!」


 ルウルウが声を上げた。


「あ、あの! ランダさん、ランダさんのところにクリスティア姫がいるんですよね?」

「あ?」

「わたしたち、クリスティア様がお帰りになれば大丈夫なんです。だから……」

「くく、くくく……」


 ランダがおかしそうに含み笑いをした。


「降参、降参! こう組み伏せられちゃ、マトモに話もできやしない」

あねさん!」


 ランダを「姐さん」と呼んだ襲撃者たちが、武器を構えそうになる。


「おやめ! こいつら、お前たちなんかよりずっと強いよ」


 組み伏せられたランダが、そう叫ぶ。襲撃者たちはたがいに顔を見合わせている。ランダがジェイドに尋ねる。


「グレッグの手先にしちゃ、話せるんじゃないかと思ってるんだが……どうだい?」

「クリスティア姫の身柄は?」

「そのことも話してやるよ。だから……」


 ランダの提案に、ジェイドはランダの腕を強くひねり上げて答えた。ランダの顔が苦痛に歪む。ジェイドは冷淡な口調で告げる。


「ダメだ。まわりの連中から武器を手放させろ」

「ああ、いたたた……わかったって! お前たち!」


 ランダが叫ぶと、襲撃者たちはいずれも手から弓を投げ捨てる。矢筒を外し、地面に転がす。さらに短剣を鞘ごと地面に置く。

 襲撃者全員がそうしたのを見て、ジェイドもゆっくりショートソードを鞘に戻す。ランダの短剣を抜いて捨て、彼女をめていた腕の力をゆるめていく。


「ふう……やれやれ。お前たち! その場に座りな!」


 ランダはゆっくり起き上がり、腕をぷるぷると振った。地面にあぐらを組んで、座り直す。襲撃者たちに声をかけ、その場にしゃがませた。襲う意志がないことを示す。ランダは地面に両手を拳にしてつき、頭を下げた。


「交渉に乗ってくれて感謝する。アタシがランダ、義賊ランダだ」

「義賊……?」


 ルウルウは首をかしげ、その単語の意味を思い出そうとする。タージュの持っていた本の中に、そんな立場の者が出てくる物語があったはずだ。


「あなたは……義賊、なのですか? 物語に出てくる?」

「ははっ、アタシ自身が物語になっちゃ大変だ。だけど、物語に負けないことはしてるつもりさ」


 ルウルウの問いに、頭を上げたランダが快活に笑う。

 そのとき、茂みから猟師が転がり出てきた。ルウルウたちをここまで案内してきた猟師だ。ジェイドたちの前に頭をすりつけるように跪く。


「こ、この方を責めねぇでくだせぇ!」


 どうやらランダが形勢不利と見たようだ。猟師は必死でジェイドたちに申し立てる。


「ランダさんは、俺たちを助けてくれるだけでなく……あのグレッグの悪巧みをくじこうとしてくださってんだぁ!」


 ジェイドもルウルウもカイルも、ランダの方に視線をやる。ランダは青い瞳でニッと笑った。


「聞くかい? グレッグの悪さを、さ」

「ああ、そうだな。その上で、天秤にかけようじゃないか」

「おお、こ~わ。せいぜい罪の重さが傾かないことを祈るよ」


 ジェイドの答えに、ランダは減らず口で答えて笑った。


「結論から言おう。グレッグは軍をでかくしようとしてる」


 ランダの言葉に、ジェイドが疑問をぶつける。


「それは、どこの領主もすることでは?」

「やり方がよくない。一部の村にだけ重税を課して、私腹を肥やし……重税に耐えられなくなった村から民が逃亡すると、因縁をつけてくる。そして残った村民をどこかへ連れ去ってしまうのさ」

「なるほど、金と人とを無理やり徴収しているのか」


 ジェイドがうなずき、ルウルウとカイルも理解できたという顔になる。今度はカイルが疑問を呈す。


「でも、どこへ連れ去ってるっていうのさ?」

「ドーン家が代々継いできたという、隠し谷だ」


 隠し谷――財産や人を隠す目的で、自然の要害につくった集落のことだ。ランダが続ける。


「グレッグはそこで、魔獣を使った軍をつくっているという話だ」

「ええ……!?」


 ルウルウが思わず声を上げた。魔獣を使った軍――魔神や魔王の信奉者でもなければ、できない発想だ。そこに人々が連れ去られている。おぞましいことが行われているのは、想像にかたくなかった。

 ジェイドが尋ねる。


「隠し谷のこと、どうやって知った?」

「情報提供者がいるからね」


 ランダがニヤリと笑う。そして組んでいた脚をほどき、立ち上がる。彼女の背の高さが際立つ。


「行こう、アタシたちのアジトへ」


 ルウルウたちは、ランダの案内で彼女たちのアジトへと向かった。

 山中の開けた場所にできた、キャンプ地。布でつくったテントがいくつもあり、その屋根を木々で隠してある。そんな中で、人々が忙しく立ち働いている。


「おお、ランダさん!」

「姐さん!」


 出迎えた人々がランダを手厚く迎える。いずれも赤茶色のスカーフを頭にかぶっている。だが全員が盗賊という風でもない。明らかに非戦闘員の老人や子供もいる。彼らはランダに手を合わせるようにして、無事を喜んでいる。


「ランダ様!」


 甲高い声がした。身なりのよい女性が走ってくる。そのまま彼女はランダに抱きついた。オレンジ色のふわふわとした髪――間違いない、クリスティア姫だ。


「ああ、ご無事でようございました……」


 クリスティアは心底心配していた、という風にランダに言う。

 これにはジェイドもカイルも目を丸くしている。当然、ルウルウもだ。


「なるほど、情報提供者か」


 ジェイドがそう言うと、クリスティアが視線をこちらへと投げかけた。

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