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第2-1話 導きの賢者

 ルウルウ、ジェイド、そしてカイルは、導きの賢者アシャに出会った。

 導きの賢者アシャ――西方大陸のあらゆることを知る賢人にして、魔神の信奉者。その混沌とした評価を体現したような醜悪さを、アシャは備えていた。


「なにをポカーンとしとるんじゃ」


 賢者アシャは、たき火の前に悠然と座っている。


 アシャの容貌は、カイルが評したとおりだった。ボサボサに伸びた白髪、しわと土埃まみれの顔、ボロ布のような衣服、枯れ木のような手足――およそ眉目秀麗を種族の特徴とするエルフとは思えない老女だ。尖った長い耳だけが、エルフの特徴を備えている。その耳も、カイルの半分ほどの長さしかないが。


「ハーフエルフがそないに珍しいか? なに、とって喰いやせん。剣を収めんか、バカタレが」


 アシャは無礼な口調で、遠慮なくジェイドを杖で指した。ジェイドが剣を構えていたからだ。ジェイドは黙ってショートソードを鞘に収める。彼は納得していないような表情だった。

 アシャがニヤリと笑う。


「それでええ。まったく最近の若い連中は礼儀を知らん」

「失礼をした、賢者殿」


 ジェイドが居ずまいを正し、右手を自身の胸元に当てた。まるで騎士のような仕草だ。相手に敬意を払おうとしているが、すこしだけ怒りの感情――皮肉と殺気も混じっている。


「ご存知かもしれないが、俺はジェイド。冒険者だ。こっちは……」

「あ……ルウルウです! 聖杯の魔女タージュの弟子です」


 ジェイドに促され、ルウルウはあわてて名乗った。ぺこりとお辞儀をする。ジェイドと違って、ルウルウには殺気などない。対象的だ。

 賢者アシャが、たき火に手をかざす。たき火がパチリと音を立てた。


「知っとる。タージュがおらんようになって、二年か」

「はい……」


 ルウルウは表情を暗くした。やはりアシャは知っているのだ。ならばタージュが失踪した本当の理由も知っているのかもしれない。

 ジェイドがわずかに前に進み出る。


「俺たちは……」

「待って、ジェイド。ちゃんと、わたしがく」


 ルウルウはジェイドをさえぎった。ジェイドがルウルウを見る。彼の黒い瞳を、ルウルウはしっかりと見据えた。決意のこもったルウルウの目を見て、ジェイドもうなずく。

 今度はルウルウが居ずまいを正した。


「導きの賢者アシャ様に、お尋ねしたいことがあります」

「なんじゃ?」

「お師匠様……聖杯の魔女タージュは、いまどこにいますか?」

「タダで訊けると思うとんのか?」


 アシャがニヤニヤと笑って答える。ジェイドが表情を厳しくする。ルウルウはジェイドを視線で制して、続ける。ルウルウの心臓は緊張でドキドキしているが、頭は冷静だった。


「わたしたちは、アシャ様のお出しになった試練に勝ちました。その褒美をいただくのに、さらに代償が必要なのですか?」

「ほう」


 アシャの口から、感嘆したような声が漏れた。笑っていた表情を真顔にして、アシャはじろりとルウルウを見る。アシャの眼は、大きな瞳孔をした紫色の瞳だった。


 ルウルウは、先程サーペントに襲われた事態をアシャからの試練だと解釈した。アシャと話をしたければ、サーペントに勝たねばならない。勝てば、アシャの知恵を借りることができる。ルウルウはそう思っている。


 アシャは観念したようにつぶやいた。


「口は上手いようやな。まったくタージュめ、しつけがようできとるわ」


 アシャはボリボリと白髪の頭を掻いた。腰から、大きな革袋を取り出す。細い注ぎ口がついていて、飲料を入れるための革袋なのだとわかる。アシャは注ぎ口に口をつけると、中身をゴクリと飲み干す。ぶはぁ、と吐いた息はひどく酒臭い。


「褒美、というなら取らせようやないか。なぁ?」


 アシャの答えに、ルウルウは表情を明るくした。ホッと安堵する。意図したところが、アシャに通じたことが嬉しかった。

 アシャはまた革袋に口をつけた。中身をゴクリと飲んで、アシャはルウルウに向き直る。


「タージュは魔王のとこにおる」


 あっさりと、アシャはそう言った。


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