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第3-1話 朝日浴びて

「導きの賢者に助言をもらうのはどう?」


 カイルの提案に、ルウルウは首をかしげた。ジェイドが目を丸くしている。ジェイドが驚いているように、ルウルウには見えた。

 ジェイドがカイルに尋ねる。


「導きの賢者を知っているのか?」

「ああ、エルフの……同族のよしみでね。どしたの、そんな顔して?」


 ジェイドの驚いた表情に、今度はカイルが首をかしげた。

 眉根を寄せたジェイドが、不審そうに、そもそもの話を口にする。


「導きの賢者アシャ……実在するのか?」

「ああー! そうか。冒険者のあいだじゃホラ話なんだっけ」


 カイルはポンと手を叩いた。ジェイドが懐疑的な表情のまま、さらに眉をひそめる。

 ルウルウはおずおずといった風に、カイルに尋ねる。


「ねえ、導きの賢者アシャって……?」

「ルウルウは知らないのか。僕の知り合いでね。西方大陸のあらゆることを知ってる、世捨て人の賢者がいるのさ。名前をアシャという」

「へぇ……」


 カイルの答えに、感心するルウルウ。

 西方大陸のあらゆる事柄を知る――というのが本当なら、タージュよりすごい能力を持っているのかもしれない。それは知識なのか、千里眼なのか。ルウルウは興味を持つ。


 ジェイドが眉を寄せたまま、言う。


「しかし、アシャはとんでもない悪しき賢者だという噂もあるぞ」

「ああ、アシャは第二の神……いわゆる魔神の信奉者でね。そこんとこで誤解があるのかも」


 魔神――第一の創造神のすぐあとに生まれた、第二の神。その神は第一の神の真似をして、泥から亜人たちを造ったという。魔族を造ったのも、魔神だと言われている。第一の神が絶対的な善神とされている一方、魔神は善悪両方を持つ混沌神だとされている。


 アシャが魔神の信奉者とすると、やはり混沌とした悪人なのだろうか。


「変わってるけど、悪いヤツじゃないよ」


 カイルはあっさりと言った。まるでよく知る友人のことを語っているようだ。

 ジェイドが首を横に振る。


「助言を受けたはいいが、代償に命を取られるようなことがあれば厄介だ」

「大丈夫だって! 世間が誤解してるだけなんだって! いいヤツだよ!」


 渋るジェイドに、カイルが言い募る。

 ふたりのやり取りを見ていると、ルウルウの心が澄み渡ってくる。次にやるべきことがわかるような気がする。


「……わたし、会ってみたい」

「ルウルウ!」


 ルウルウの希望に、ジェイドが咎めるような声を上げる。


「魔神の信奉者だぞ? 魔族とどんなつながりを持っているか……」

「わたし、カイルを信じる。導きの賢者って、どこにいるの?」


 賢者アシャは悪い者ではないことを信じる。それはカイルを信じるのと同じことだ。ルウルウがそう言うと、カイルが嬉しそうに目を輝かせる。


「ありがとう、ルウルウ! やっぱルウルウはわかってくれるよな! なぁ旦那!」

「俺だけが頭固いような言い方をするな」

「旦那は真面目すぎるんだよ。冒険者とは思えねぇや」

「うるさい」


 呆れるジェイドに、カイルが遠慮なく軽口を叩く。ジェイドがカイルを小突く。


「だいたい、賢者はどこにいるんだ?」

「アシャは、この時期は……ちょうどここから東にあるハーリス山のふもとにいる」


 カイルが東の方角を指さした。

 この村の東には、山脈がそびえている。霊山と称されるハーリス山を中心とする、深山幽谷である。ふもとには、ルウルウが住んでいた森と似た、広大な森林が広がっている。


「ハーリス山のふもと、か。そんな近くに……」

「時期によって、いる場所を変えてるのさ」

「渡り鳥みたいだな」


 ジェイドが納得しかねる表情でつぶやく。

 ルウルウはジェイドを見つめた。淡青色の瞳が心配そうに、ジェイドの漆黒の瞳を見上げる。


「ジェイド……」

「……わかった、わかった! そんな表情かおで見ないでくれ」


 ジェイドが降参し、両腕を掲げる。相変わらず彼はルウルウに甘い。

 ルウルウとカイルは顔を見合わせて、にんまりと笑った。


「やった! ありがとう、ジェイド!!」

「そうでなくっちゃな、旦那ぁ!」


 ルウルウとカイルは、ジェイドの大柄な体に抱きついてはしゃいだ。ジェイドはあきらめたように、肩をすくめる。ルウルウとカイルを引っ剥がし、ジェイドは覚悟を決めたように告げる。


「そうと決まれば、準備をしてこの村を出たほうがいい」


 ジェイドが腰に下げた革袋を探る。革袋には丸い貨幣が入っている。西方大陸でよく使われる、金属貨幣だ。わりとどこの国でも通用するので、冒険者たちが重宝しているものだった。


「多くて四日分、というところか」


 手持ちの金で揃えられる装備を、ジェイドが計算する。思えば、ルウルウもカイルもろくに所持金がない。あわてて家を飛び出してきたせいもあって、一文無しである。

 カイルがもみ手をしながらジェイドに言う。


「へっへっへ、旦那、頼りにしてますよ~」

「君もな、カイル。ちゃんと賢者のところまで案内しろよ」

「合点! おまかせあれ!!」


 ジェイドは、言い出しっぺのカイルにその責任を果たせと言っている。カイルはそれを理解しているのかいないのか、わからない態度で敬礼した。

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