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#22 ごーとぅ社会科見学っ!


「は?」

「ですから――これは皇帝様からの命令なのです!」

 製紙工場。その中で、工場長の男は告げた。


    *


 時間は少し巻き戻る。

 あのカトルの新会長就任式の日。俺は製紙工場の人と掛け合った。その結果。


「やあ、白銀バイイン

「お久しぶりです、奉景さん。今日は何の用事で――」

「とりあえず出掛ける準備をしな。――社会科見学に行くぞ!」

「……なんですか? それ」


 というわけで、孤児院の子供たちを連れて製紙工場の工場見学としゃれ込んだわけだ。

 理由は主に二つ。一つは孤児院の子に貴重な体験をさせてやりたいという親心的なもの。

 実際、普段そこまで感情を表さないリュスア少年も大きな機械や手漉きの道具なんかに目をキラキラさせていた。それだけでも連れてきた甲斐がある。

 さて、もう一つの理由は――。


「で、なんで上質紙の生産が止められているんだ?」

 後宮や王宮の紙不足に歯止めをかけるためだ。


 あの日話し合った結果、カトルたち流通関係の人物が原因でないことはわかった。

 しかし、製紙工場の方々が目をそらしているのを見て、怪しいと直感した俺はとっさに工場見学の申し入れをしたというわけだった。

 で、予想通り、白い紙の生産が止められている――機械が動いていないのを見て、工場長に問い詰めたというわけである。


 その結果。

「皇帝様の命令なのです!」

 必死に訴える工場長。

「は?」

「ですから――これは皇帝様からの命令なのです!」

「わかった、わかったから! 顔を上げろ! 子供たちに見られてるから!」

 土下座しようとする工場長を必死になだめていた。

「すっげー、これがホンモノの東方の島国に伝わる伝統的謝罪術・DOGEZAか……はじめて見たぜ」

 感心するなリュスアくん。フェンちゃんもおじさんの頭をなでようとするな。


 さて、別室。子供たちは別の部屋で遊ばせている。ここにいるのは工場長のおじさんと俺の二人きりだ。

 ……本当はカトルも来れればよかったのだけど、忙しくてスケジュールが合わずにやむなく断念した。

 ともかく。

「で、皇帝からの命令ってのは本当か?」

「ええ。書状が届けられましてね。見ますかい?」

 首を縦に振ると、「今しばらく」と工場長は席を外し、数分後にまた戻ってくる。

「拝見するよ」

 そう言って巻物の中身を確認する。……やたらと綺麗な字で書かれた「上質白紙の製造・および宮廷への流通を禁ず」という文字列に、俺はかすかな違和感を抱く。

 ……皇帝とは一度会っているが、こんな丁寧な字を書く性格だったか?

 一応印鑑は押されている。なので効力は持っているはずだ。だが――。


『そうね。偽書だわ、これ』

 俺はビクッとして周りを見渡すが、誰もいない。

 ……数秒たって、シス子の声だったことに気づいた。なんだ、よかった。

『幽霊なんかと間違えないでよ、もう』

 ごめんて。ともかく。

『ホンモノの皇帝直々の書物はお察しの通りもっと達筆よ。こんなワープロで打ったような字体じゃないわ』

「はえー……」

『今度図書館に行って見てきなさいな。公文書の記録とか残されてるから』

 そんな言葉に相槌をうち。

「えーっと、一体誰と話してるんで?」

「いえ、なんでも。それより――」

 疑われそうになって冷や汗かきつつ話をそらした。


「この文書、偽物ですよ」


 これが偽造である云々は二度目の説明になるので飛ばすとして。

「これに効力がないってのは本当ですか」

 工場長さんの質問に、俺はため息をついて答える。

「それがなー、あるっぽいんだよなぁ……」

 印鑑ハンコはどうやらホンモノっぽいのが、この問題をよりややこしくしていた。

 どうやら、偽造された文書である=効力がないという図式ではないようで。

「ちくしょう、商売あがったりなのは変わんねぇか……」

 しょんぼりする工場長のおっさんに俺は「おいおい、そう落ち込むなよ。俺がなんとかしてやるからさ」となだめる。

「本当ですかい? 廃妃の嬢ちゃん!」

「ああ、こっちとしても何にも書けないのは辛いからな。まあ、少しばかり協力してもらうことにはなるが」

「あっしに協力できることならなんでも!」

 よし! 俺は満を持して、おっさんに耳打ちした。

「……紙、俺によこしてはくれないか?」


    *


 そして、社会科見学は終わった。

「みんなたのしかったか?」

「うん!」

 結構描写を飛ばしたが、子供たちも子供たちで楽しんでくれたらしい。

「てか、紙ってああいう風に作ってたんだ……」

「すごかったね! あのでっかいの、なんにつかうんだろ!」

 白銀と朱紅おとなのほうがものすごい大はしゃぎしてる気がするのは、あながち気のせいでもあるまい。こういうのって大人になるとより楽しめるよね。

 ともかく。

「さて。俺は帰る。用事が出来た」

「え、なんの?」

「……皇帝と会わなきゃ。――ともかく、送っていくよ」


 で。

「何の用だ、我が愛しき元妃よ」

 皇帝に対面して俺は開口一番に告げた。


「こいつやっぱ嫌いだわ」


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