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第24話


 透からの問いかけに、私の心臓の鼓動が速くなるのを感じる。


「君の心がわからない。君は、木暮を嫉妬させたいの? それとも木暮から離れたいの?」

「それは……」


 私の答え次第では、透との関係が大きく変わるのではないか。

 何故だかそんな気がする。

 今日こそ、透に本当の気持ちを伝えるべきなのではないか。


「私は――」


『RRRRRR……』

「あ、はい――了解。悪い、急用が出来た。家までは送るから話はまた」

「え、あ、はい」


 結局、告白の機会は得られないまま、透は去って行った。

 あんなに急いでどこへ行くのだろう。


 私が家へ帰りぼんやりしていると、しばらくして秀平さんも帰宅した。

「おかえりなさい、早かったですね」

「あぁ、少し話を聞かれただけだ」

「沙代里さんは?」

「会わせてもらえなかった。おそらく今日は帰れないんじゃないかな」

「まぁ、可哀想ね」


 そう言った瞬間、秀平さんの目が細くなって、スゥーっと息を飲む音が聞こえた。

「香澄がそんな酷い女だったなんてな」

 怒りというより軽蔑を含んだ声だった。

「どういう意味ですか?」

「だってそうだろう? おまえが沙代里にジュエリーセットを渡すのを、俺はこの目で見ているんだぞ」

「秀平さんは、私が喜んで贈ったとでも思っているの?」

「だからって、盗難届けを出すなんて! 嫌なら嫌だって言えば良かっただろう?」

「お義母さんに頼まれたら断れないでしょ?」

「それじゃ、まるで母さんが悪いような言い方じゃないか」

「そうですよ、諸悪の根源はお義母さんですよ」

「なんだと!」

 マザコンの秀平さんらしく、お義母さんを悪く言うと本気で怒りが沸くらしい。

 もうどうだって良い、秀平さんやお義母さんにどれだけ嫌われても、今の私には痛くも痒くもないわ。


 生まれ変わってからの、これまでの短い時間でも充分に理解出来たわ。

 いかに、前世の私の人生が無駄で空虚なものだったか、ということを。


 秀平さんやお義母さんの本性を知るにつけ、私の愚かさを痛感した。

 どうして、私はこんなクズを愛してしまったのだろう。


「香澄はそんな事を言う女じゃなかったよな、いったいどうしたっていうんだ?」


 そんな事って? 今の私がおかしいって?

 ふん、逆じゃないの?


 以前の私の方がおかしかったのだと、今なら理解できるもの。

 秀平さんに恋をしたことで、私はすべてを捨てたのだから。

 仮に秀平さんがいなかったら、秀平さんを好きにならなければ――私は大学を卒業後、もっと金融業を学び知識を身に着けただろう。勉学が好きだったから情熱もあった。実家の人脈もある。親の期待通り、金融業界のエリートとなった可能性は多いにあっただろう。

 地位・名誉・財産、それらを手に入れることも出来たはずだ。


 それを全て、自ら、捨ててしまったのだ。

 木暮秀平という、ただ一人の男のために。


 生まれ変わったのがもっと前であったなら、秀平さんと結婚なんて、絶対にしないのに!


 でも――

 今ならまだ間に合うわ。

 父の死も回避出来そうだし、他にも、どうしても変えたい過去――この世界では未来だが――がある。

 いや、私が変えるんだ! きっと、そのために生まれ変わったのだから。



 それには、まずは自立することだ。

 秀平さんに頼り切っていた以前の私ではないのだから、出来るはず。

 具体的には、やはりまずは、私個人の財産を作りたい。


 自分で会社を立ち上げて投資によって利益を確保する。

 それが出来ればベストだろう。

 私が大学で学んだことを活かすことが出来るだろうし。


 ただ、私一人で出来るだろうか。

 かといって、透を巻き込むわけにはいかない。

 私は親友の初音に連絡を取り、明日さっそく会う約束をした。


 翌日、出掛ける間際に秀平さんが声をかけてきた。

「どこへ行くんだ?」

「あら珍しい、私がどこへ行くかが気になるのですか?」

「当たり前だろう。また何をやらかすかわかったものじゃない」

「監視ですか?」

「一応、夫婦だからな」

「秀平さん、覚えていますか?」

「なにを?」

「以前の秀平さんは私の事を蔑んでいましたよね」

「え、そうか?」

「私には秀平さんだけしか見えていなくて、一人では何も出来ないやつだと言っていましたよね?」

「そうだっけ?」

「秀平さんに執着することをウザいとも……」

「それは、まぁ」


「ですから私は。秀平さんに依存しないよう、一人で始めてみますね」

「えっ、あぁ……」

「それでは、行ってまいりますね」

「は?」

 キツネにつままれたような、秀平さんの顔ったら!



 あぁ、なんて清々しいのだろう。

 こんな気持ちは久しぶりだった。



To be continued



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