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第10話 ご褒美はレアダンジョンと現物支給

第十話 『ご褒美はレアダンジョンと現物支給』


 『鉄は熱いうちに打て』と言わんばかりに、カルミア社の仕事は迅速でした。

 アイ達が本社で野良ダンジョンに飲み込まれた日、午前中にアイが野良ダンジョンに入って生配信していたこともあって、待合室・エレベーターホール・エレベーターの中・スピリタスのスマートホンの計4つ、全てのデーターをまとめて編集して、次の日にはI‐Tubeにアップしました。ちょっとした解説付きで。


『緊急報告! 野良ダンジョン、カルミア本社襲来!!』


 そんなタイトルで配信された動画は瞬く間に閲覧数を伸ばし、アイ達4人のアカウントにも好影響で、随分前の過去動画でも再生回数1万回越えの『バズた』が出ました。もちろん、コメントもたくさんついていて、いつもの美月ならしっかり返していたのですが、今回は時間と精神的余裕が全くなく…



 学校が終わって、ギャルに変身した17:30。苦手だけれど精一杯作ったギャル顔でスマートフォンの画面をいっぱいにして、「ライブ配信を開始」の文字をタップします。その瞬間、美月には「最強のギャル」になれる魔法自己暗示がかかって「アイ」に大変身!


「ぼーん。皆、今日も来てくれてあざまーす」


 画面に向かって手を振ると、一斉に反応が返ってきます。

今日の「ギャル」は、ピンクの編み込みツインテールに黒のリボン。カラーコンタクトはナチュラルグリーン。白いシャツに白いサマーニット、ピンクブラウンのミニプリーツスカートに、白のルーズソックスは黒のリボンでレースアップ。ちょっとそこの厚いスニーカーは渋めのワイン色。ネイルは赤! それぞれの爪にデコパーツが付いています。


『アイちゃん、おつおつ』『アイちゃん待ってたよ~』『あ。今日は髪ピンクのツインテール。カワユス』『配信待ってました、おつです』『この前の会社配信見たよ~。野良ダンジョンのやつ』『私、朝のもリアタイした』『俺も俺も』『朝の野良ダンジョン、ヤバくね?』『朝のリアタイは逃したけど、配信見たよ~』『アイちゃん、大変だったね』『ってか、初じゃない? 誰かと組むの』『しかも、人気のスピリタス!』『あのバロンとかいう奴、危なくね?』『アイちゃん可愛かったけれど、魔法も炸裂してたよね』


 うわっ! 会社が配信した動画や私の過去動画の書き込みも凄かったけれど、今日も凄いなぁ。いつもの倍以上の勢いでコメントが入って来るよぉ。

でも皆、あの日の朝も観てくれていたんだ。あんなバタバタした時間の、ほんの少しの配信だったのに。自分の姿を映さなきゃいけないのは苦手だけれど、配信を観てくれて、こうしてコメント貰えるのは嬉しいな。



「あんな時間にみてくれてた皆、マジであざま~す。あんなパな時間だったのに、見てくれててうれしみ。あと、過去動画にカキコしてくれた人達、あざま~す。返さなくって、ほんまごめんやで」


『会社行ってたんでしょ?』『研究のお手伝いだって?』『ギャルの研究員、パネェ~』


「そうそう。1週間、研究員わず。っても、お手伝い。あの人達、まじパなかった」


 この1週間、学校が終わった後は「アイ」になって、カルミア社の研究所で研究のお手伝いをしていたんだよね。日曜日にゲットした『炎の水晶』の研究の。まぁ、お手伝いと言っても、「ここに魔法で火を出して」とか「最大出力の炎でこれを焼いてみて」とかの指示通りにしていただけなんだけれど。魔法で出した炎と『炎の水晶』の関連性? みたいなものを調べていたみたい。とにかくデーター、データーって研究員の皆さんは忙しそうだったな。


『休んでなくない?』『アイちゃん、体調大丈夫?』『野良ダンジョンでも大活躍』『魔力使い切ったって凄くない?』『髪、焦げてたよね?』『あのダンジョン、また行かないの?』『朝の野良ダンジョンのリベンジは?』


「ソラさんミチルさん、あざます。ちゃんと寝てたしご飯も食べてたから、体調はもう大丈夫。ケンケンさん、それな! まじパなくない? この私が魔力切れって、マジヤバいよね。一緒に入ってくれた3人マジ神!」


 あの時は分からなかったけれど、会社の動画を見て知ったんだよね。エレベーターの中に引きずり込まれ様としたあの時、スピリタスさんとシスターさんとバロンさんの3人が私を助けようとしてくれた事。結果的に、4人で引きずり込まれちゃったんだけれど。でもあの時、私1人だったらさっさと魔法で脱出できたと思う。けれど、地底湖までは行けてなかったな。まぁ、色々と思う所はあるけれど、アイテムが手に入ったことと奥まで進めたことは良かったと思ってる。


「で、今日は初めてのダンジョンだよ。ツロアリさんのカキコみたいに本当はこの前の野良ダンジョンのリベンジ! ていきたいところなんだけれどさぁ、今日はシャチョーのお使いで、会社所有のダンジョンですわ」


『社長?! アイちゃん、怒られたん?』『罰ゲームなの?』『カルミア社の社長っていかついよね』『社長さん、ステキだよね』


「罰ゲームってナ~ニ? 私、怒られることしてないしー。シャチョーは友達だよ、ズットモ」


 アイは「お使い」と言っているけれど、正確には「仕事の依頼」です。アイ達ダンジョン探索者は個人でダンジョンに入る事はもちろん、契約会社の依頼でダンジョンに入ることもあります。今回は社長直々の依頼なのです。


『社長が友達とか、強すぎるでしょうアイちゃん』『社長のお使いって?』


「うん、強いよ。とりま、見て! これ見て!」


 いつもよりちょっと興奮気味に話しながら、アイは画面にあるモノを映しました。


『おお! ナハバーム!』『トカゲタイプ』『巨大トカゲ』『ついにアイちゃん、ナハバームデビュー!』


 画面に映し出されたモノは、ダンジョン探索者用に開発された自立型スマートフォンです。タイプも色々あって、アイが手にしていたのはトカゲタイプでした。


「へへへへ~。シャチョーからのプレゼント。日頃の活躍に対してのボーナスだって」


『現物支給』『現物支給じゃん』『現物支給』『なんだ、現物支給』


「ちょっ、現物支給現物支給ってウザ。マジウザ。これ、耐久性をアップしたニューデザインなんだって。ナハバームて、兜虫社が作ったじゃん。今回、バージョンアップした物をうちの会社と共同開発してるんだって。それが『これ』。現場でどれぐらい使えるか、使ってみて。って、渡されたんだよね。ま、これもお仕事だよ。だから、今からナハバームちゃんを起動させま〜す。今使っているスマホと連動出来るように設定してもらったけど、上手く画面切り替えできなかったらごめんやでー」


 アイがトカゲの尻尾をクルッと回すと、ナハバームが起動します。アイのスマートフォンの画面が横表示になって、二画面になりました。片方はアイ、片方はアイの周りを。


「んじゃ、まずは上空探査ぅ~」


 アイがナハバームの背中に口紅で「飛〒〒」(飛行)と書いてチュッとキスをすると、フワフワとトカゲの体が浮きました。そして、アイの頭の上をクルクルと旋回して、さらに上空に上がりました。四本の脚をウニウニと動かしながら。アイはいつものスマートフォンを見ながら、ナハバームの操作をします。右に左に、鬱蒼と生い茂る草花や木々に引っ掛けない様に、皆が見やすいように出来るだけ安定させて… と。


『林?』『廃村?』『こんな所、日本にあるの?』『お化けとか出そう~』


「これ、ちょっち大変。コメ、まともに見れん~」


 イメージしていたより、集中しなきゃ駄目だ。


『いいよいいよ』『操作に集中』『ドローンみたい』『アイちゃんの魔法、便利』


「あざます」


 皆の言葉に甘えさせてもらおう。ナハバームの操縦に集中。


「あ~、でも画面越しでみるとさらにポイね。映ってるの、ほとんど木だ。草木に飲み込まれた廃村って感じ。緑がたっくさん見えるから、隙間から見える屋根瓦? トタン? たぶん屋根だよね。ぽつりぽつりって密集してないのは、やっぱり田舎だから? 少しおろそっか」


 ナハバームの高度がグンと下がります。木々の中に入ったナハバームは、スイスイと間を通り抜けて周囲をそのカメラに映しました。どこの家も土壁作りです。その殆どがボロボロと崩れ落ちていて下地の竹や縄が見えていたり、下から伸びた木の幹に貫かれていたり、原型をとどめているものはありません。もちろん、木の幹は壁だけじゃなく、窓や屋根をもこじ開けて空に向かって伸びています。

 家屋に家畜小屋、剥き出しの井戸や屋根付きの井戸、風を受けて雑草がそよいでいる大きなスペースは畑か田んぼの跡か… その周りを流れている水路だけが、かろうじて過去の姿を残しているようです。その水路を伝って家々から少し離れると、大きな沼が現れました。


「主が居そうじゃね? 大なまずとか、鯉… も沼にいるんだっけ?」


 何だろう? 違和感がある。廃村に来たのは初めてだから、いつもと違う感覚だって分かってはいるんだけれど… 何かが変。でも、特に注意事項はなかったよね。


 首筋や背中に嫌な感じを覚えて、アイはさっさとナハバームを手元に戻しました。


「はい、終わり~。サクっとダンジョンに行ってみよう」


『もう終わり?』『生物みたい』『ナハバームの操作、けっこう疲れる?』


 ナハバームに掛けていた魔法を解除しながら、書き込みを確認しました。


「ナハバームの操作、思ったよりつらたにえん。バッテリーの減りも分からんから、サクサク行くよ~」


 生物。そうだ、これだけ自然があるのに、生き物がいないんだ。虫の鳴き声とか鳥とか。ナハバームを沼の水面すれすれまで下げたら、何か見えたかな?


『で、入り口はどこ?』『隠し扉?』『どこかの家にあるとか?』


 アイは違和感を拭えないまま、それでも書き込みを見て気を取り直して、背中に背負った小さめのリュックからロリポップキャンデーを取り出しました。


「んじゃ、紹介です。今日は登録番号S0001、カルミア社の特定社員しか来られないダンジョンで~す」


『カルミア社のお抱えダンジョン!』『カルミア社の№1て、日本で一番古い登録ダンジョンじゃん』『上がる!』『アイちゃん、凄いダンジョンに来てる』


 登録番号を言った瞬間、コメントが勢いよく動きました。


「そうなんですよ~。パなく上がるっしょ」


 アイは気を取り直してニッと口の端を上げると、ロリポップキャンデーを口元に構えて


「しかも、ここはもうダンジョン内だったり~。 さっ、探索するよ~」


 カロン! と勢いよく咥えて、大きく一歩を踏み出しました。


 アイ、カルミア社の特別ダンジョンに挑戦です! Next→


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