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第112話 俺はどっちのものでもありません!

 自分に問いかけていた俺は、それ以上考えるのをやめようと、心の中で首を横に振った。


「い、いただきます」


 気を取り直し、手を合わせて一人静かに呟くと、俺はお弁当の蓋を開けて食べ始めた。


「なんなら、このまま毎日続けるか? 俺は構わないぞ」


 嬉しそうに提案する和兄に、俺は首を横に振った。


「それはダメ。気持ちはありがたいけど、これから二人とも学校行事で忙しくなるんでしょ? いつまでも甘えてられないよ」


「オレは構わないんだけどなー。あっ、理央の卵焼きちょーだい」


「コラ、波多野。それは私のものだ。むしろ、理央は私のものだ」


 俺のお弁当に箸を伸ばす和兄の手を、瑛斗先輩がさっきの仕返しのように軽く叩いた。


「いや、何言ってんですか? 理央はオレのものですよ」


「あーっ、もう! 俺はどっちのものでもありません! ほら、二人とも。俺の力作なんだから、ちゃんと味わて食べてよね」


 瑛斗先輩と和兄、それぞれ食べかけのお弁当の隅に、俺のお弁当に入っていた卵焼きを一切れずつ入れてあげた。


「おー。絶妙な焼き加減。さすが理央だなー」


 移してあげた卵焼きを箸で摘み、まるで愛でるように目線の高さまで持ち上げてしみじみと言う和兄に、俺は深い溜め息をついた。


「よく言うよ。和兄、俺より料理できるくせに。双子も那央も、和兄のごはんに夢中だよ。舌も肥えちゃってさー。今日から俺が作るのに、ちゃんと食べてくれるか不安だよ……」


 和兄の料理は双子が一緒に食べられるを基準に作られていたが、和食に洋食、さらに中華と幅広いレパートリーで、どれもお店で出せるクオリティーだった。


 しかも、食後のデザートまで出てきて、それさえも手作りだと知ったときは本当に驚いた。


「大丈夫だ。理央のごはんは世界一うまい。私が保証する」


 そう言って目を瞑り、一口を大事そうに噛みしめながら卵焼きを食べ進める瑛斗先輩に、和兄はいじけたように唇を尖らせた。


「ずるいよなー。月宮先輩は理央の手作りごはん食べたことあるなんて。俺は卵焼きしかないのに……」


「もう、和兄も子どもみたいなこと言わないの。それなら二人とも、このあと午後の授業もないし、今日うちにくる? 俺が作るから、和兄みたいに手の込んだものはできないけど」


「あー……。理央からのお誘いはすごーく魅力的なんだけど……。今日は……というより、これから当分帰るの遅くなるんだよなー……」


 和兄はあからさまに肩を落とすと、空を見上げて深い溜め息をついた。


「やっぱり、これから忙しくなるんだね。三王子選に、体育祭って行事が続くもんね」


「そうなんだよ……。まあ、来週の三王子選はとっとと終わるけど、問題は体育祭だな。今年も三王子になったら、当日まで死ぬほど準備に追われるからなー……」


「たしかに。去年は相当大変だった……」


 瑛斗先輩と和兄は顔を見合わせると、同時に深い溜め息をついた。


(やっぱり、三王子って大変なんだ。この二人でさえ、こんな気が進まなそうにするなんて……)


 三王子選は、生徒会と現職の三王子が中心に執り行うらしく、来週には各学年の新三王子が決定する。


 自薦、他薦で立候補者が決まり、最終的には各学年の投票数で決まるようになっているらしい。


 俺はまだ入学したばかりなので、三王子選も月宮学園の体育祭も、どれくらいの規模と盛り上がりを見せるのか、全く予想もつかなかった。


「そういえば三王子って、三年は瑛斗先輩で二年は和兄。これは否応もなく決定だとして、一年はどうなるんだろうねー。一体、誰が選ばれるんだろう?」


 お弁当の中身を口に運びながら、俺は呑気にそんなことを口にすると、和兄はなにかを発見したように目を輝かせた。


「そうだ……。三王子選、理央が出たらいいんじゃないのか?」

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