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第111話  俺は景品でも囚われの姫でも

「終わったー!」


 俺は屋上の塔屋の上で、テスト期間が終わった解放感を噛みしめるように、大の字で寝っ転がった。


「お疲れ、理央」


「お疲れさん」


 いつのまにか、瑛斗先輩も加わることが日常となった屋上での昼休み。


 見上げた空の日差しが、入学したころの春に比べて夏のように眩くて、テスト明けでお疲れの俺の目にはちょっと刺激が強く、俺は寝っ転がった身体をすぐに起こした。


「それで、どうだったんだ? 手ごたえはあったのか?」


「もう、二人のおかげでバッチリ! 順位はわからないけど、ケアレスミスさえしてなければ、ほぼ満点だと思うよ」


 俺は満面の笑みで、瑛斗先輩と和兄にVサインをしてみせた。


「へー、すごいなー。ほぼ満点かー。理央って本当に頭がいいんだな」


「さすがは理央だ」


「ううん。勉強時間を俺のために作ってくれた、二人のおかげだよ。本当にありがとう」


 俺は座りながら深々と、お弁当を膝の上で広げ始めた瑛斗先輩と和兄に頭を下げた。


 貧血で俺が倒れた翌日から昨日までの平日二週間、瑛斗先輩は双子のお迎えと面倒を、和兄は毎晩我が家の晩御飯を作ってくれた。


 弟の那央もいつも以上に家事を手伝ってくれて、俺の勉強は大いに捗り、悔いのないテスト結果を残すことができた。


 それに、精神、体力的にも余裕ができたおかげか、ライブの振付練習や発声練習も順調にこなすことができた。


「理央。私たちは頭を下げられるようなことはしてないぞ。私と波多野が、勝手に好きでやったことだ。理央が気にすることはない」


「そうだぞ。オレは料理が自由にできて、月宮先輩は双子にチヤホヤされる。理央は特待生を維持なんて、まさにウィンウィンだろ?」


「瑛斗先輩……。和兄……」


 気を使ってもらっているとはいえ、こんなにも温かい言葉をくれる二人に、俺は胸が締め付けられた。


「本当にありがとう」


 もう一度満面の笑みを浮かべて心からの感謝を伝えると、和兄と瑛斗先輩は優しく微笑み返してくれた。


「理央……」


 すると、瑛斗先輩は愛おしそうに俺の名前を呼んで、俺の頭に向かって手を伸ばそうとしてきたが、にっこりと笑う和兄に手首を掴まれてしまった。


「月宮先輩。抜け駆けはダメですよ」


「抜け駆けなどしていない。私は理央に愛を伝えようと」


「一方的な愛は押し付けですよ、月宮先輩」


(はぁー……。またやってる……)


 最初はこんな二人のやりとりに慌てふためいたりしていたが、まるで恒例行事のように、この二週間毎日繰り返されたため、俺は早々に気にするのをやめた。


(きっと、和兄はゲームかなにかと勘違いしてるか、瑛斗先輩の反応を楽しんでるに決まってるんだ。ったく、俺は景品でも囚われの姫でもないっつーの)


 俺は二人を無視して、持参した弁当袋からお弁当を取り出し、胡坐をかいた膝の上に広げた。


(でも、瑛斗先輩は? 俺のこと愛してるって……)


 ふと、瑛斗先輩がさらりと言ったことを思い出すと、頬が火照るのを感じた。


(いや、瑛斗先輩は俺とリオンの区別がつかなくなったって言ってたんだから、リオンみたいに好きってことだろ? それってファンみたいなもんだろ? だから……)

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