組んでいた肩から和兄の腕が離れていくと、まるで和兄は俺のことを慰めるように背中を数回叩いた。
「まあ、勉強熱心なのはいいことだと思うけどさ。月宮先輩のクラスメイトと熱狂的なファンの間で、衝撃が走ったらしいぞ」
瑛斗先輩が周りの目も気にせず、平然とそんな本を教室で熟読している姿。
そして、それを見たクラスメイトや瑛斗先輩のファンが、様々な憶測をしたであろうことは容易に想像でき、俺は額に冷や汗が出た。
「保育士でも目指すんですかーって……。オレ、声かけとくべきだったかな……」
「いや、もう瑛斗先輩のことは、やっぱり異次元すぎて何が起こるかわからないから……。和兄の気持ちだけもらっとくよ」
前に俺と瑛斗先輩の噂を上書きをしてくれた和兄だったが、さすがに今回のことは対処できなかったようで、頭を掻いていた。
「しっかし、ほんとおもしろいよなー。月宮先輩って。でもまあ、オレもやられっぱなしっていうのは、性に合わないし……」
「えっ……?」
急に和兄がしゃがんだと思ったら、俺を横抱きのかたちで軽々と持ち上げた。
「理央。オレも理央のこと、好きだぞ」
「えっ……?」
「ずっと、昔からな。そうだなー。オレは隣国の幼馴染の王子様ってことで。無理やり結婚されそうな姫を奪って、連れていってしまおうか」
まるで演劇舞台のセリフのようなことを言い出した和兄は、俺をお姫様抱っこしたままリビングから出ようとする。
「か、和兄何言って! お、下ろしてって!」
「あー! りおくん、おひめさまだっこされてるー」
「あれー? りおくん、かずやくんのおひめさまなの?」
俺が和兄にお姫様抱っこをされている姿を見て、まるで楽しいことを発見したときのように声高らかに叫んだ双子が、俺と和兄の元に駆け寄ってきた。
「ま、待て! 波多野! それは一体、どういうことだ! 理央は私のものだぞ!」
瑛斗先輩は慌てて立ち上がり、俺たちに向かって双子と同じように駆け寄ろうとする。
「だー! 俺はお姫様でも、誰のものでもありません!」
俺が必死に叫ぶと同時に、玄関から鍵を開ける音がした。
「あっ! きっと、なおくんだ」
「なおくん、おかえりー。あのねー」
「わー! ま、待て! 真央! 玲央! 一体何を言うつもりだ!」
こうして俺の日常はまた少し、いや、大きく変わっていったのだ。