「え、瑛斗先輩!」
ソファー前の机に向かって、双子にぴったりと挟まれるように座っている瑛斗先輩へ、俺はソファーの後ろから慌てて声をかけた。
後ろから俺に勢いよく声をかけられた瑛斗先輩は、絨毯の上で座ったまま、身体を捩じって後ろを向くと、俺を見上げた。
「ん? どうしたんだ?」
「あ、あの……! えっと……」
何を伝えたいのか、自分でも分からないまま瑛斗先輩へ声をかけてしまった俺は、言葉が続かずに口籠ってしまう。
(俺は一体何してんだ……? で、でも、とりあえず……)
「瑛斗先輩……。その……ありがとうございます!」
「だから、なにがだ?」
「い、色々……いや、全部です!」
(双子のこと、那央のこと、家のこと。前に瑛斗先輩は俺のことをスーパーマンだって言ってくれたけど、瑛斗先輩こそ、俺にとってスーパーマンみたいな人だよ)
感謝を全力で伝えたい興奮する気持ちを抑えつつ、心の中でそう思いながら俺が笑って言うと、瑛斗先輩は首を傾げて不思議そうな顔をしていた。
「……? 私が勝手にやっていることだ。理央は何も気にする必要はない。それより、お母様への挨拶を先に済ませたほうがいいんじゃないか? きっと、あちらで待っていらっしゃるぞ」
「そ、そうですね。ありがとうございます」
俺は瑛斗先輩に会釈をして、気持ちを落ち着かせながら、リビング奥にある仏壇へ向かった。
どうやら瑛斗先輩が先にお線香をあげてくれていたようで、微かに白檀の優しい香りが仏壇の周りに残っていた。
(ただいま、母さん。昨日に続いて今日もうちの中が騒がしくて、びっくりしただろ?)
仏壇の前に座って線香をあげ、目を瞑って手を合わせると、俺は心の中で母さんに話しかけた。
(双子と遊んでくれているのが、この前うちにきた月宮瑛斗先輩で、キッチンにいるのが、昔遊んでくれていた和兄だよ。二人とも、うちの学校の三王子だからイケメンだろ?)
母さんが生きていたときに友人として二人を連れてきたら、興奮して全力でおもてなしをしていたのは間違いないと目に浮かび、俺は口元が少し緩んだ。
(でも、今更ながら不思議な光景だよな。先輩二人がうちにきて、料理して育児してくれているなんて……。でも、二人とも楽しそうでちょっと救われたよ。二人には申し訳ないけど、すごく安心できて勉強が捗ったんだ)
父さんが倒れ、その負い目から一人でこなすのが当たり前になっていた分、誰かの手を借りるのは、やっぱり悪いことをしているように気が引けてしまう。
それは身内である那央にも、未だに罪悪感を感じずにはいられないのだから当たり前だ。
だが、双子の面倒と家に疲れ切った状態で勉強するより、何倍も捗ったのは確かだった。
昨日、和兄が言い出した提案の通り、テストが終了するまでの間、和兄は我が家で晩御飯をつくり、瑛斗先輩は双子のお迎えと面倒を見てくれることになった。
俺はというと、家に帰ってきたら気になって集中できないだろうと言われ、学校の自習室で、最終下校時刻まで勉強することを命じられた。
時間になるまで帰ってきては駄目だと言われた俺は、自習室にいても、最初は双子のことが気になって集中できなかった。
そんなとき、和兄から俺の気持ちを見透かすように、うちで双子が瑛斗先輩と遊んでいる楽しそうな写真が送られてきた。
それを見て安堵した俺は、いつのまにか最終下校時刻を迎えるほど、集中して勉強することができた。
(本当に二人には感謝しかないよ。それに……こんな風にうちの中が賑わっているのって、やっぱりちょっと嬉しいよね……)
双子が騒がしいのはいつものことだが、誰かに帰りを出迎えてもらえたり、キッチンに自分以外が立っているのは、嬉しいような淋しいような不思議な気持ちに俺をさせた。
それはきっと、母さんが生きていたときのことを、無意識に思い出したからかもしれない。