(まあ、瑛斗先輩は悪くない……か)
思い返してみれば、俺と双子とのやりとりを見て、瑛斗先輩は真似しただけなんだと気付くと、俺は瑛斗先輩の元へ足早に戻って腕を掴んだ。
「ほら、俺の帰りを待っていてくれたんでしょ。早くリビングに行きましょ」
俺が声をかけると、瑛斗先輩は嬉しそうに顔を上げて目を輝かせた。
何度も頷いて、俺に引っ張られる状態で後ろを付いてくる瑛斗先輩を、俺は心のどこかで可愛いと思ってしまっていた。
(もしかして、犬とか猫を飼うと、こういう気持ちになるのかな……)
瑛斗先輩をペットに例えるなんて、自分でも失礼なことを考えているなと思いながら、俺は瑛斗先輩と一緒にリビングへ入ると、お肉を焼く香ばしい匂いに食欲がそそられた。
「おー。帰ってきたかー。おかえりー」
「……。ほ、本当に和兄が料理してる……」
ただいまを言う前に俺が目をパチクリさせてしまったのは、制服の上に自前のエプロンをつけた和兄が、我が家のキッチンで鼻歌を歌いながら料理をしていたからだ。
(あれ……? もしかして、俺より手際がいいんじゃ……)
和兄がキッチンで料理する姿は、離れた場所から見てもわかるほど手際が良かった。
(じゃあやっぱり、昨日のごはんも本当に和兄が……)
和兄と瑛斗先輩が帰った後、和兄が作ったと双子が言っていた料理を、那央と一緒に温め直して食べたのだが、どれも予想を遥かに超えるほどおいしかった。
あまりのおいしさに驚いて、俺と那央は顔を見合わせるほどで、和兄と料理のイメージが結びつかなかった俺は、本当に和兄が作ったのかと信じられずにいたくらいだ。
(だって、和兄の家にはお手伝いさんがいて……。お昼のお弁当も、お手伝いさんが作ってくれているって言ってたし。じゃあ、なんで料理ができるんだ? 実は趣味とか?)
そんなことを考えていると、キッチンにいる和兄の元に双子は走っていき、俺がキッチンに立つときのように、和兄の足にくっついた。
「ねー、ねー? まだー?」
「はやく、りおくんにたべさせたいよー」
「もうすぐだから。ほら、あっちで待ってろー」
昨日はあまり見られなかったが、どうやら双子は瑛斗先輩だけでなく、和兄にもかなり懐いているようだった。
和兄と双子のやりとりを見ていると、昔、俺と那央を本当の弟のように可愛がってくれていたことを思い出し、俺は懐かしい気持ちを覚えた。
だが同時に、ふと、今まで忘れていたことも思い出した。
(あれ……? そういえば和兄って、急に俺たちの前からいなくなったんだっけ……?)
家が近所で、毎日のように俺と那央を遊びに連れ出してくれた和兄。
秘密基地をつくったり、行ったことのない公園へ連れて行ってくれたり、楽しい記憶は次々と思い出せるが、なぜかお別れの日だけは記憶に残っていなかった。