「ただいまー」
「おかえりー、りおくん」
「おかえりー!」
俺が玄関のドアを開けた音を聞きつけて、双子がリビングから玄関へと続く廊下に、勢いよく飛び出してきた。
「あのね! あのね! ごはん、まお、こねこね、おてつだいしたの!」
「れおも! れおも!」
靴を脱ぎ終えた俺の足に、玲央と真央が走って抱きついてきたので、俺は二人の頭を同時に撫でた。
「へー。コネコネって、何を作ったんだ?」
「はんばーぐ!」
鼻の上に皺を寄せて全力で嬉しそうに笑う双子に、俺も心からの笑顔が零れた。
(ああ、なんて可愛いんだ!)
我が弟と妹ながら、天使のように愛くるしい双子に、俺は思わず愛おしさが溢れて膝を床につくと、双子を思いっきり抱き締めた。
「おかえり」
すると、開けっぱなしになっていたリビングのドアから、遠慮がちにひょっこりと顔を出した瑛斗先輩と目が合い、俺はちょっと気恥ずかしくなってしまった。
(……。俺今きっと、すっごいだらしない顔してたと思う……)
双子の頭へ幸せそうに顔を埋めていた俺は、誤魔化すように慌てて立ち上がると、恥ずかしさから瑛斗先輩と目を合わせることができず、少し俯いてしまう。
「た、ただいま……です」
「ああ、おかえり」
「……」
おかえりと優しく返してくれた瑛斗先輩と俺を、なぜか無言で見比べた双子は、何か思いついたように目を輝かせ、瑛斗先輩のところへ走っていった。
「ねー、ねー。えいとおうじは、りおくんにしないのー?」
「しないのー?」
「あ、ああ……。じゃあ……」
双子にまるで促されるように、瑛斗先輩は後ろから押されると、恥ずかしそうに口元を片手で覆い隠しながら俺に近づいてきた。
「ん……? 一体なにを……って、えっ!」
腰に腕を回されて、まるで引き寄せられるように瑛斗先輩が俺を抱き締めてきたため、俺は驚いて、肩に掛けていたスクールバックを床に落としてしまった。
「なっ……なっ……」
突然のことに、口をパクパクさせながら声を出せずにいると、瑛斗先輩が俺の頭に顔を埋めるようにしながら囁いてきた。
「おかえり……」
「……!」
少し低くて穏やかなトーンの瑛斗先輩の声が脳に直接響いたように感じ、俺は腰に甘い疼きと、心臓が途端に跳ね上がったのを感じた。
「ちょ、ちょっと瑛斗先輩! 離してください! ここをどこだと……!」
「ここじゃなければいいのか?」
「そ、そういう問題じゃありません!」
瑛斗先輩の胸を押しながら身体を捩じると、瑛斗先輩はようやく諦めたように、俺を腕の中から解放してくれた。
「帰ってきたら、出迎えて抱き締めるのが海棠家の習わしかと……」
「我が家には、そんな習わしも風習もございません!」
俺は足元に落としたスクールバックを肩にかけ直すと、羞恥心を隠すように、リビングへ大股で歩きながら向かった。
「わー! りおくんがおこってるー!」
「にげろー!」
リビングのドアの影へ隠れるようにしながら覗いていた双子は、近づいてくる俺の顔を見ると、揶揄うように笑いながら、リビングの中に引っ込んでいった。
(怒ってる……? べつに、怒ってはないんだけどな……。恥ずかしかっただけで)
少し冷静になった俺はリビングへと向かう足を止めると、玄関にいる瑛斗先輩へと振り返った。
瑛斗先輩はしょんぼりと俯いていて、俺の目には、悪戯をして怒られた大型犬がしっぽを下げているように見えてしまった。