(昔は、那央も和兄のこと大好きで、後ろを必死について歩いていたのに……。一体、二人になにがあったんだ? 那央はなんで和兄にあんな突っかかるんだ?)
那央にどんな心境の変化があったのか分からないが、あんなに感情をむき出しにしているに那央の姿を見たのは子どものとき以来で、俺はちょっとだけ和兄が羨ましくなってしまった。
「だー! もう、那央は黙れ! このままじゃ埒が明かない!」
頭を抱えだした和兄は、近づいてきた俺を睨みつけるように真っ直ぐ見つめると、指を差してきた。
「おい、理央!」
「は、はい!」
急に粗々しく和兄に名前を呼ばれ、俺は思わず背筋を伸ばして返事をしてしまった。
「テストが終わるまでの二週間。オレはこの家に来て晩飯を作るからな。ちなみに倒れて心配かけた人間に拒否権はないから、有無は言わせないぞ」
「えっ……?」
和兄が急に言い出したことを俺はすぐには理解できず、思わず助けを求めるように那央の方を見てしまう。
だが、俺と目が合った那央は呆れたように肩を竦めると、大袈裟に溜め息をついた。
「はー……。オレが一人でやるって言ってんのに、和也が聞かねーんだよ。ったく、理央からも言ってくれよ……」
「中学生が何言ってんだ。ついでに、月宮先輩にもお手伝いいただく予定だ。テスト前は三王子の仕事もないし。いいですよね、月宮先輩?」
「ああ」
戸惑いや迷いもせず、即座に返事をした瑛斗先輩に向かって、俺は慌てて振り向く。
「ちょ、ちょっと瑛斗先輩。こういうときは、ちゃんと何をするのか確認してからですね……」
「理央を助けるためなら、私はなんでもするぞ。だって……」
「わー! 待った、待った! ストップ、ストップ!」
瑛斗先輩の口からとんでもない言葉が飛び出しそうに思えて、俺は慌てて瑛斗先輩の口元を押さえに向かった。
「なんだ、もう月宮先輩と仲直りしたのか?」
「えっ? 喧嘩してたのか……? 高校生のくせに? もしかして、それも倒れた原因とか言わないよな……? どうせ理央のことだから、言いたいこと腹に溜め過ぎたんだろ?」
「うっ……」
眉間に皺を寄せて、見透かされたように溜め息をついた那央に言われ、俺は何も言い返せなくなってしまう。
「よし。まあ、そういうことだから、理央はしっかりとテスト勉強に集中するんだぞ? ね? 瑛斗先輩」
満面の笑みを浮かべた和兄と瑛斗先輩は目が合うと、瑛斗先輩は頷いてみせた。
「それじゃあ、さっそく作戦会議を……。月宮先輩にはお迎えをお願いして、オレは……」
「理央の性格上、人に何かをやってもらいながら家にいるなんて、絶対に勉強なんか集中できないぞ」
「たしかにそうだな。それなら、理央には学校の自習室で残ってもらって……」
「ちょ、ちょっと……!」
和兄に那央、そして瑛斗先輩で始めた作戦会議という名の話し合いは、当の本人は置いてきぼりの状態で、どんどん進んでいってしまった。