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第103話 私はもっと、理央に近づきたいのだが

 難問が解けた時のようにスッキリと、嬉しそうに笑みを浮かべながら俺に向かって宣言をしてくる瑛斗先輩に、俺は頭が真っ白になって何も答えらえなかった。


「だから、あのときも……。そうか、そうか……」


 どんどん頭の中で何かを解決していく瑛斗先輩は、まるで悩みが晴れたように目を輝かせていた。


 そんな瑛斗先輩を黙って見つめてしまっていた俺だったが、さすがにこのままではまずいと思い立ち、首を横に小刻みに振った。


「ま、待ってください、瑛斗先輩。ストップ、ストップ! いいですか? 瑛斗先輩が好きなのは、リオンですよね?」


「好きなんて言葉じゃ足りないぞ。何度も言うが、私はリオンを愛しているんだ。そして、理央もだ」


「えっ……?」


(俺……も? ええっ!)


 また突拍子もないことを言い出したと、せめて俺だけは冷静さを取り戻さなければと、俺は慌てて息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。


 だが、胸の奥で感じる心臓の鼓動だけは、なぜか速いままで治まることはなかった。


「と、とりあえず……。下に座ったままもあれなんで、ソファーに座って話しましょ? ね?」


 俺は先に元々座っていたソファーの端っこに座り直すと、瑛斗先輩のワイシャツの袖を軽く摘まんで、急かすように引っ張った。


「わ、わかった!」


 まだ興奮冷めやらぬ様子で大きく頷いた瑛斗先輩は、さっきと同じように俺と反対側のソファーの端っこに座ると思ったら、今度は俺にぴったりくっつくよう隣へ座ってきた。


「あ、あの……瑛斗先輩……。ちょっと、近すぎる気が……」


「なんだ、いけないのか……?」


 不思議そうに首を傾げる瑛斗先輩に、俺は心を乱されてはいけないと自分に言い聞かせて、瑛斗先輩の腕を両手でそっと押した。


「あの……。近すぎると、話がしにくいので……」


「私はもっと、理央に近づきたいのだが」


「えっ……」


「いいか……?」


 なにがいいかと聞かれたのかわからなかったが、俺はゆっくりと近づいてくる瑛斗先輩の瞳があまりにも綺麗で、そのまま見つめ続けてしまう。


 すると、階段を下りる足音とともに、言い争う声が遠くから聞こえてきた。


 俺は慌てて瑛斗先輩を押し退けると、急いでソファーから立ち上がった。


「うるせーな。和也は黙って、オレの言うこと聞いてればいいんだよ。オレは一人でできるって言ってんだろ!」


「だから、年上を呼び捨てにするな! あと、そんなことしたら、お前も無茶することになるだろ!」


 リビングのドアが開かれると、那央を注意するように指差す和兄と、腕を組んで不貞腐れた顔の那央が、言い争いながらリビングに入ってきた。


「コラ。二人とも静かに。玲央と真央が起きてきちゃうだろ」


「だってコイツが、オレの言うことシカトするんだぜ?」


「こういうときは、年上の言っていることを黙って聞いておけばいいんだよ」


「フンッ! そういうの、今なんていうか知ってるか? エイジハラスメントって言うんだぞ」


「なっ!」


 俺の注意も聞かず、矢継ぎ早にどんどん言い争いを続ける二人に、俺は止めに入るのもバカらしくなりつつ、二人の元に向かいながら深い溜め息をついた。

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