「理央……」
瑛斗先輩の碧い瞳に映る俺は、おそらく今までの人生で一番必死な顔をしていたはずだ。
悔しいことに、そうさせているのは瑛斗先輩で、俺の心は激しく搔き乱されていた。
「俺は謝って欲しいわけじゃない! たしかに、避けられて……傷ついてないと言ったら嘘になるけど……。でも、それは……! 俺のことが嫌いになったんじゃないかって、不安だったからなんですよ!」
「私が……理央のことを……?」
俺は瑛斗先輩の肩を掴む手にさらに力を込めると、瑛斗先輩は頭の上にクエッションマークを浮かべて首を傾げた。
「そうです。だから……!」
「私が理央のことを嫌いになる……? 前にも伝えたはずだが、そんなことあるはずがないだろ」
「……。えっ……?」
迷うことなく言い切る瑛斗先輩に、俺は思わず勢い余って口を開けたまま、拍子抜けしてしまった。
「一体、なぜ理央はそう思ったんだ? あのときか……。いや、あのときか……」
瑛斗先輩は正座姿で顎に手を当てて、勝手に一人で自問自答を始めたため、俺は全身から力が抜けて、身体をソファーに寄り掛からせてしまった。
(そんなこと、あるはずがない。あるはずない……か)
はっきりと言い切った瑛斗先輩の言葉を頭の中で繰り返すと、以前同じことを言われたのを思い出し、俺は胸に温かいものが広がっていくのを感じて、嬉しいはずなのに涙が込み上げてきた。
(あーあ、俺バカみたいだ……。こんなことで、嬉しくなっちゃってさ。ほんと……)
「なんていうか……。ほんと、俺のことが大好きなんですね。瑛斗先輩って」
この場合、大好きではなく、もっと的確な言葉があったはずなのに、俺は照れ隠しのような軽い気持ちで、そんなことを言ってしまった。
すると、瑛斗先輩は、まるで雷に打たれたように驚いた表情を浮かべ、目を見開いた。
(えっ……?)
予想もしていなかった瑛斗先輩の反応に、俺は思わず戸惑って首を傾げてしまう。
「そうか……。わかったぞ……」
一人で何かを納得したように何度も頷き始めた瑛斗先輩は、急に立ち上がって、政治家が力強く演説するときのように、胸元で拳をつくった。
「私はリオンだけでなく、理央も愛したんだ! だから理央を見て、ドキドキしてしまうんだ!」