目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第102話 ほんと、俺のことが大好きなんですね

「理央……」


 瑛斗先輩の碧い瞳に映る俺は、おそらく今までの人生で一番必死な顔をしていたはずだ。


 悔しいことに、そうさせているのは瑛斗先輩で、俺の心は激しく搔き乱されていた。


「俺は謝って欲しいわけじゃない! たしかに、避けられて……傷ついてないと言ったら嘘になるけど……。でも、それは……! 俺のことが嫌いになったんじゃないかって、不安だったからなんですよ!」


「私が……理央のことを……?」


 俺は瑛斗先輩の肩を掴む手にさらに力を込めると、瑛斗先輩は頭の上にクエッションマークを浮かべて首を傾げた。


「そうです。だから……!」


「私が理央のことを嫌いになる……? 前にも伝えたはずだが、そんなことあるはずがないだろ」


「……。えっ……?」


 迷うことなく言い切る瑛斗先輩に、俺は思わず勢い余って口を開けたまま、拍子抜けしてしまった。


「一体、なぜ理央はそう思ったんだ? あのときか……。いや、あのときか……」


 瑛斗先輩は正座姿で顎に手を当てて、勝手に一人で自問自答を始めたため、俺は全身から力が抜けて、身体をソファーに寄り掛からせてしまった。


(そんなこと、あるはずがない。あるはずない……か)


 はっきりと言い切った瑛斗先輩の言葉を頭の中で繰り返すと、以前同じことを言われたのを思い出し、俺は胸に温かいものが広がっていくのを感じて、嬉しいはずなのに涙が込み上げてきた。


(あーあ、俺バカみたいだ……。こんなことで、嬉しくなっちゃってさ。ほんと……)


「なんていうか……。ほんと、俺のことが大好きなんですね。瑛斗先輩って」


 この場合、大好きではなく、もっと的確な言葉があったはずなのに、俺は照れ隠しのような軽い気持ちで、そんなことを言ってしまった。


 すると、瑛斗先輩は、まるで雷に打たれたように驚いた表情を浮かべ、目を見開いた。


(えっ……?)


 予想もしていなかった瑛斗先輩の反応に、俺は思わず戸惑って首を傾げてしまう。


「そうか……。わかったぞ……」


 一人で何かを納得したように何度も頷き始めた瑛斗先輩は、急に立ち上がって、政治家が力強く演説するときのように、胸元で拳をつくった。


「私はリオンだけでなく、理央も愛したんだ! だから理央を見て、ドキドキしてしまうんだ!」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?