ふと辺りを見渡すと、ルカさんの荷物の他に、レンさんとサクヤさんのものと思われる荷物が、スタジオの隅に置かれていることに気が付いた。
「あれ……? レンさんとサクヤさん、それにルカさんって……一体何時にスタジオ入りしてたんですか? てっきり、俺が一番かと思ってました」
「ん? 今日は朝からだぞ。オレもサクヤも、午前の講義がなくなったから。ルカはオレたちよりもさらに早かったけど、ボイトレ行くってさっきまで抜けてたな」
「あ、朝から……!」
俺は思わず、ダンススタジオの壁にかけられている時計へ目を向け、現在の時刻を確認して練習時間を逆算した。
「そうそう。ちょうどサクヤと飲み物買いに行っている間に、リオンが来たんだよ」
「そ、そんなに早くから……。ということは、今日に限らず普段も……やっぱり自主練って……」
「まあ、大学以外の時間でこのスタジオ使える時は、ほぼここにいるなー。一応、部屋には防音室あるから、歌なら家に帰ってからでもできるんだけど。さすがにダンスはなー」
「そ、そんなに……。しかも家に帰ってからも……。すごい……」
三人の練習量を知って、俺はセンターを狙うなんて軽々しく宣言したことが、恥ずかしくなってしまう。
「俺、さっきバカなこと言いました。それだけ努力されているものを、俺は軽々しく狙っていくだなんて……」
俺は恥ずかしくて思わず俯いてしまうと、立っていたレンさんは少し屈んで、俺の背中を思いっきり叩いた。
「何言ってんだよ! いいじゃねーか、狙えよ! ただし、オレたちのことは、そう簡単に追い越せねーから覚悟しろよ」
「レンさん……」
俯いていた顔を上げると、レンさんは俺に向かって手を差し出してくれていた。
「まあ、リオンじゃレンの足元にも及びませんが……。リユニオンとしてグループの士気を高めるのは大事ですからね」
サクヤさんも立ち上がると、レンさんの横に立って、レンさんと同じように俺へ向かって手を差し出してくれた。
「どうすんだ? この手をとるか? それとも、ずっと端っこでやっていくことに、リオンはこのまま満足するのか?」
「俺は……」
(目指すって決めたんだ……。少しでも……センターに、お客さんの視線に近づけるように。そして……もっと俺を、瑛斗先輩に見てもらうために!)
沸き立つ思いを胸に、俺は二人から差し出された手を取った。
「目指します! 俺、頑張ります!」
二人の手を取ると、レンさんとサクヤさんは、俺を立たせるに力強く引っ張り上げてくれた。
「そうそう。その意気だ。待ってたぞ、リオン」
レンさんは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、掴んでいた俺の手に力を込めた。
「あ、あの……。ご迷惑じゃなければ……。レンさん、サクヤさん! 新曲の振付、教えてもらってもいいですか?」
「迷惑なはずないだろ。ほら、音楽流すぞ! まずは一回通しでやるから、さっさと準備しろ」
「はいっ!」
「おい、ルカー! 音流すけど、一緒にやるかー?」
「んー。モチー」
「ほら、いくぞー」
鏡の前で俺たちは並んで立つ。
イントロが流れ始め、俺は目を逸らさずに、真っ直ぐ顔を上げて鏡に映る自分を見つめた。
(さあ、始まるぞ……)
胸がざわめき、鳥肌が立つようなワクワクする気持ち。
俺は今日、リユニオンの本当の一員になれた気がした。