「……。だーかーらー。何度言えばーわかるんですかー? レンさん」
ルカさんの口元は笑っていながらも、目は据わったままレンさんにゆっくりと詰め寄っていった。
レンさんに向けるルカさんの目は、次第に眉間に皺が寄せられていき、その変化に俺は怖くて背筋が寒くなった。
(こ、怖い……。これはガチで怒ってるぞ……)
「お、おい……。ルカ、落ち着けって。冗談だって……」
ルカさんに詰め寄られるレンさんは、ルカさんから逃げるようにゆっくり後退るが、すぐに壁備え付きの鏡にぶつかってしまい、それ以上後ろに下がれなくなってしまった。
「オレ、さっきちゃんと、殴りますよって予告しましたよねー?」
ルカさんはレンさんのTシャツの胸ぐらを掴むと、鼻先まで顔を近づけた。
(あ、あれ……? 気心知れた仲のはずじゃ……)
予想外の展開に俺は慌てて二人の仲裁に入るため、立ち上がろうとする。
「あっ、そうそう! そういえば、リオンのヤツ、これからはセンター狙っていくらしいぞ。なっ? リオン」
「えっ……!」
ルカさんを本気で怒らせてしまって、さすがにこのままではまずいと思ったのか、レンさんは急に俺の名前を出して話を逸らした。
「ちょ、ちょっと! レンさん!」
俺は慌てて立ち上がると、ルカさんはレンさんの胸ぐらを掴んでいた手を離し、振り向くように俺を睨みつけてきた。
「は? リオンがセンター?」
「ひっ……!」
聞いたこともないルカさんの低い声に、俺は緊張と恐怖から背筋を真っ直ぐに伸ばすが、ルカさんの顔を見ることができず、顔を思いっきり逸らしてしまった。
「えっ、あ……その……」
(ど、どうしよう……)
その場から逃げ出すわけにもいかず、俺はそのまま俯いてしまうが、ルカさんは俺に向かってゆっくりと近づいてくると、俺の目の前に立った。
「リオン。顔、上げろよ」
「は、はい!」
ルカさんに言われ、俺はまるで軍隊のようにピシッと背筋と腕を真っ直ぐ伸ばして慌てて顔を上げるが、視線はルカさんに向けられなかった。
「ルカー。あんまりリオンを苛めるなよ。リオンはおっかないルカに対して、免疫ないんだからさー」
「レンさん。人を病原菌みたいな言い方しないでもらえますか? 腹立つなー。おい、リオン!」
「はっ、はい!」
いきなり名前を呼ばれ、俺は反射的に大きな声で返事をしてしまう。
「やっと、覚悟決めたのか?」
「えっ……?」
「この世界でやっていくって覚悟だよ」
思ってもみなかった質問に俺はルカさんを見つめると、怒っていると思っていたルカさんの顔は真剣な表情だった。
「どうなんだ?」
「お、俺は……」
質問の答えを追い立てられ、俺は大きく息を飲みこむと、ルカさんの目をしっかりと見つめた。
「……。正直、わかりません。でも……俺を応援してくれている人のためにも、俺が目指そうとする人に近づくためにも、恥ずかしくない自分でいたいって思ったんです」
「へぇー……」
俺の正直な気持ちを言葉にすると、ルカさんは少しだけ目を見開き、鼻で笑った。