気合を入れるために片手でガッツポーズをしながら、俺はレンさんとサクヤさんへ向かって宣言をすると、二人は一瞬驚いた顔をしたが、レンさんはすぐ嬉しそうに顔を緩めた。
「へー! コイツー! 生意気なこと言いやがって!」
レンさんに首へ腕を回された俺は、身体ごと勢いよく引き寄せられると、髪を手で搔き乱されてしまう。
「ワーッ! レンさん、やめてください! せっかく綺麗にセットできてるのにー」
「どうせダンス練習で崩れるって。ほれほれー」
俺の髪を、レンさんはまるで犬を可愛がるときのように、さらに激しく搔き乱した。
「レン……」
すると、サクヤさんはレンさんの名前を静かに呼んでレンさんの腕を掴むと、俺の髪を搔き乱す動きを止めさせた。
「なに? 妬いたの?」
「……。レンが構わないのなら、ここではっきりと答えますが。それでもいいんですか?」
「……。チッ……」
揶揄うような口ぶりできいたレンさんに対し、サクヤさんは真剣に答えると、レンさんは顔を逸らして舌打ちをした。
そんなレンさんに向かって、サクヤさんは真剣な顔で見つめ続けていた。
「あっ……」
そんなサクヤさんの顔を見て、俺は数日前に屋上で起こった出来事を、ふと思い出した。
「あ、あの……サクヤさん。今、どんな気持ちでレンさんのこと止めました?」
「は?」
俺が急に言い出した質問に、サクヤさんではなく、レンさんが驚いた顔で俺に振り向く中、サクヤさんは不思議そうに首を傾げていた。
「っと、いうと……? ちょっと、リオンの言っている意味が理解できないんですが?」
「あっ……いや……。俺、ちょっと前に今と同じようなことを、仲のいい先輩にされたんですけど……。そしたら、最近できた友達に止められたんです。でも、なんでわざわざ止めたのかわからなくて……。別に苛められたわけでもないのに、どうしてかわからなくて」
俺の話を聞いたレンさんとサクヤさんは、お互いに顔を見合わせると、今度は同時に頷きあった。
「まー……。まだ、お子様のリオンは、知らないほうがいいんじゃねーの?」
「そうですね。私もリオンにはまだ早いと思います」
「そうだよなー。あ、サクヤ。これ」
床に置いたままにしていたミネラルウォーターのペットボトルを、レンさんはサクヤさんに差し出した。
すると、サクヤさんはペットボトルを受け取り、蓋を開けて何も言わずにレンさんへ戻した。
「んっ。サンキュ」
レンさんはサクヤさんに開けてもらったペットボトルに口をつけて、ミネラルウォーターを飲み始めると、レンさんが俺のことを横目で見つめていることに気が付いた。
「……?」
「はぁー……。まあ、こんなオレたちに違和感を覚えてないんだから……。リオンにはまだ、早いんだろうな」
「そうですね。私もそう思います」
「えっ? えっ? どういうことですか?」
レンさんとサクヤさんが、なぜまだ早いと話しているのか意味がわからず、俺は二人を交互に見比べてしまう。
そんな俺の姿を見て、レンさんは笑って肩を竦めた。