「ま、待ってください!」
普段は仲が良いはずの二人が言い争いを始めそうで、俺は慌てて二人の間に割って入った。
「え、えっと……! その人はアイドルじゃなくて……。でも、怖気づくというより……。その、負けたくない、追いつき……いえ追い越したいと思ったんです」
俺の気持ちを正直に伝えると、俺の言葉に驚いたのか、レンさんとサクヤさんは二人で顔を見合わせた。
「ほー……」
「まさか、リオンが……」
顔を見合わせたまま、さっきまで言い争いしそうだったのが嘘のように二人は頷きあうと、立っていたレンさんは俺とサクヤさんの間に座り直した。
「へー……。リオンにそこまで言わせる奴がいるなんてなー。このレン様が、いーくら、なーんども、どーんなに言っても、やる気を出さなかったリオンをねー……」
「まったくです。レンがここまで言っても聞く耳持たずなんて、何様かと」
「サクヤは黙ってろ」
レンさんは膝の上で頬杖をつくと、深くて長い溜め息をついた。
「だってさー。こーんなに元キャラが違うのに、リオンってキャラになりきれるなんて面白いじゃん。だからリオンなら、絶対センター狙えるって俺が何度言っても、全く興味も示さなかったのにさー。それをこんな、いとも簡単にだもんなー……。一体、どんなヤツだよ……」
「うっ……。そ、それは……。だ、だいたい、俺がセンター狙うなんて、そんなおこがましいこと……あっ……」
自然と出てきてしまった卑下する言葉に、俺はハッとして息をのんだ。
(俺はまた、卑下するようなことを……。このままじゃダメだ。変わらないと。瑛斗先輩が、リオンをきっかけに自分を取り戻してくれたように、俺も変わらなきゃ……!)
鼻から息を大きく吸い込むと、俺は背筋を伸ばして、レンさんとサクヤさんを真っ直ぐ見つめた。
「こ、これ……これからは! センター狙っていくので! レンさんもサクヤさんも覚悟していてください!」
(瑛斗先輩があんなに応援してくれているんだから、頑張らないと。それに、俺も瑛斗先輩みたいになりたい。そして、瑛斗先輩に推してもらって、恥ずかしくない俺になりたい!)
もう、俺には無理だとか、考えてもしょうがないだとか、そういう卑下する考え方は終わりにしようと思った。
瑛斗先輩が俺をきっかけ前を向くれたように、俺も同じ方向を向いていこうと心に決めたから。