「ピアスの準備、オッケーでーす」
「次、カメラチェックしまーす。瑛斗くーん。いくつかポーズとってみてー」
ドアの向こう側で撮影前の最終チェックの始まった音が、俺の耳へ微かに届いた。
すると、途端に胸の鼓動は緊張で高まり、耳の奥に心臓があるんじゃないかと思うほど、脈拍がはっきりと聞こえた。
「オーケー。じゃあ、相手役の子呼んできてー」
「はーい。すみませーん。準備は大丈夫ですかー?」
メイクルームの扉がノックされ、俺は背後に立つ美玲さんへ振り向く。
「いってらっしゃい。瑛斗がどんな顔をするか、楽しみにしているわ」
胸元で小さく手を振る美玲さんに、俺は頷くように軽く会釈をして、メイクルームの扉を自ら開けた。
足に力を入れ、メイクルームから大きく足を一歩踏み出す。
そのまま足を止めずに、たくさんのスタッフさんの間を抜けて歩いた。
そして、カメラのレンズが向けられた、眩しいと感じるほど照らされたライトの中にいる瑛斗先輩の目の前に、俺は立った。
「リ……オン……」
瑛斗先輩は驚きから唇を振るわせて、碧い目が零れ落ちてしまいそうなほど目を丸くしていた。
(そう。俺は今、海棠理央じゃない。リユニオンのリオンだ)
メイクと髪型は道具を借りて、アイドルとしてステージに立つときと同じようにした。
ライブ衣装はさすがにないため、美玲さんが準備してくれた、瑛斗先輩とサイズ違いのシャツ姿に着替えも済ませた。
誰がどう見ても、瑛斗先輩の友人として見学にきた、陰キャな海棠理央と同一人物と思えないほどの仕上がりだ。
「ほ、ほんもの……」
急なリオンの登場に、瑛斗先輩は足から力が抜けたように、その場で膝をついてしまった。
驚きを隠せないまま、頬を紅潮させて口をパクパクさせる瑛斗先輩。
その顔に、俺はなんだか沸き立つような嬉しさを覚えた。
(さっきまで、あんなにカッコイイ姿の瑛斗先輩だったのに。あーあ、こんな顔させて……。けど、それも俺だけなんだ……。そう、俺だけに……。俺がさせているんだ……)
優越感や独占欲とも違う感情が、俺の心をまるで支配するようだった。
碧い目を輝かせ、瑛斗先輩は膝をついたまま俺を見上げる。
だが、俺と目が合うと、直視できずに顔を逸らす。
そしてまた見上げると、顔を逸らすという行動を幾度となく繰り返していた。
俺を見つめていたいけれど、恥ずかしくてずっとは見ていられないってことだろうと想像すると、俺の口元は思わず緩みそうになる。
「ねえ。そのピアスに触れてもいい?」