「ありがとう」
美玲さんは指輪を指先でそっと受け取ると、顔の近くに持っていき、デザインを確認するようにじっと見つめ始めた。
「あ、あの……。俺がリオンであることは……。その……秘密にしてもらえると……」
「もちろん。そのつもりだから安心して。たしか、理央くんは月宮学園の特待生なんでしょ? その辺りが関係しているのかしら?」
「あ、はい……。でも……。どうして俺がリオンだって気付いたんですか? 瑛斗先輩が話すとも思えないし……。容姿はだいぶ変えているつもりなんですが……」
「あら? 秘密を知っている一番疑うべきところを疑わないなんて、瑛斗のことを本当に信頼しきっているのね」
美玲さんに言われ、たしかに瑛斗先輩が話してしまったことを一番に疑うのが自然な流れかと思ったが、俺はそんなことを微塵も考えなかった自分に、少しだけ驚いた。
(たしかに。俺、どんだけ瑛斗先輩のこと信頼してるんだろ。このままだと、瑛斗先輩信者の仲間入りをしちゃうんじゃないか……?)
そんなことを考えていると、美玲さんが俺に指輪を返してきた。
「ねえ? せっかくだから、理央くんの指にしているところも見たいわ」
美玲さんにお願いされ、俺は戻された指輪を右手の中指につけると、指先を伸ばした状態で美玲さんに手を差し出した。
すると、美玲さんが俺の右手を下から支えるようにそっと手を添えると、角度を変えながら指輪を見つめた。
「すごく良く似合ってるわ。本当にあなたのためだけに作られたものなのね。この指輪、リオンくんの誕生日に捧げるんだーって、瑛斗が何日も何日も部屋に籠ってデザインしたものなの」
「俺の……いえ、リオンをイメージしたものだとは聞きました」
「そうそう。このなめらかな曲線は、リオンくんの躍動感のあるダンスを表現していて……って、これは瑛斗から聞いたほうがいいわね」
そう言って、美玲さんは俺の手からそっと手を離した。
「この指輪は、姉としてではなくデザイナーとして、惚れ惚れするデザインなのよね。だから、瑛斗にもっとデザインを描いてみないかって誘ってみたんだけど……。リオンのためにやったことだから興味がないって、あっさり振られちゃったわ」
「瑛斗先輩なら言いそうです」
瑛斗先輩が真剣な顔で言っている姿が容易に想像できて、俺の口元は自然と綻んだ。