『リオンは私の生きがえなんだ』
『リオンとして私を救ってくれた。まるでスーパーマンだ』
(……! じゃあ、本当にリオンが瑛斗先輩を……)
理由は分からないが、瑛斗先輩が自分を取り戻せて、そのきっかけがリオンだというなら俺は嬉しい。
だが、嬉しいという気持ちと同時に、瑛斗先輩の中で、どれだけリオンという存在が大きいのか再認識させられた気がした。
(俺でなく、リオン……か)
そう思うと、何かが胸をつかえた気がした。
「瑛斗ってね。私の友人がいっくらお願いしても、雑誌のモデルを引き受けてくれなかったの。けど、リオンくんには自分が稼いだお金で応援したいって、急にモデルを始めたの。そして今日の仕事も、あることと引き換えに引き受けてくれたの」
「えっ……」
(リオンの応援のために……)
「真面目よね。あの子は正直、色々恵まれているわ。けど、リオンくんにもらったものは、自分の力で手にしたもので返したいって、そう言ってたわ」
「そう……だったんですね……」
グッズは常にフルコンプリートな上、ライブ配信のときには高額投げ銭。
週末のライブには遅れてでも必ず見に来てくれて、観客席でたった一人、俺のイメージカラーのオレンジに身を包み、ペンライトとうちわを必死に振って応援してくれる。
(モデルを始めたのも、リオンのためだったなんて……。でも、リオンがあげられたものって……瑛斗先輩が立ち直れたきっかけって一体……)
「瑛斗に……生きる希望を与えてくれた。リオンくんのおかげで、あの子は立ち直れたの。だから、とても感謝しているわ。ありがとう」
「えっ……!」
美玲さんが、俺に向かって満面の笑みを浮かべたため、俺の心臓は一瞬跳ね上がった。
(あ、あれ……? 俺に向かって、今お礼を言った……? もしかして……)
嫌な予感がするが、俺は気付かないフリをして、美玲さんと同じように笑って返した。
「み、美玲さん……。そ、その……リオンが偉大なのはわかりました。でも、俺が瑛斗先輩を最高に輝かせる話と関係ないかと……。だって、ほら。俺はリオンじゃないんですし。今の話なら、俺じゃなくてリオンを呼ばないと」
誤魔化すための緊張で、声が震えそうになりながら俺は必死に答えると、美玲さんは俺に向かって、さらににっこりと笑った。
「あら? そういえば、今日はあの指輪してないのね?」
「あの指輪……。あっ、ああ。瑛斗先輩にいただいた指輪ですか? それなら……」
俺は慌ててスウェットフルパーカーの首元に手を入れて、チェーンネックレスに通して身に着けている指輪を美玲さんに見せようとして、すぐに手を止めた。
「あっ……」
(俺は……なんて軽率な行動を……)
悔やんでも手遅れで、俺は自分がリオンであることを、美玲さんに自ら進んで証明してしまった。
「やっぱり、あなたがリオンくんなのね。まあ、最初から分かっていたけど」
また美玲さんがにっこりと笑うと、メイクルームの扉を控えめにノックする音が聞こえた。