「本当よね……。理央くんには、返す言葉も見つからないわ……」
俯き気味に見つめていたローテーブルから美玲さんが顔を上げると、今度はメイクルームのドアに遠い目を向けた。
その姿はまるで、ドアの向こう側にいる瑛斗先輩を見つめているようだった。
「瑛斗がこっちにきたのが去年。私は幼いころに弟の存在を知って、会えるのをずっと楽しみに待っていた。だから、瑛斗と会えた時はとても嬉しかったわ。あんな事故があってショックを受けているはずなのに、瑛斗はちゃんと前を向いて生きていた。いえ……。今思えば、本当はそう見せていただけだったのよね……」
目が潤み、言葉を発せられないまま唇だけが微かに震える美玲さんの姿に、俺の目には美玲さんが自責の念に苛まれているように見えた。
そんな美玲さんは、長いまつげの目を閉じて息をそっと吸い込むと、ゆっくりと目を開けた。
「海外赴任から戻ってきた兄と、春休み中の瑛斗がばったり出くわしてしまって……。あんな酷いことを言われてしまった瑛斗は……。急に心を閉ざしてしまったの……」
「心を閉ざすって……」
「……。話しても、目も合わせずに自分のことを卑下する言葉ばかりで……。そのまま笑わなくなってしまったの。兄に言われたことで、あの事故の出来事が全部自分のせいだって、思い込んでしまったようだったわ……」
(そんな……。瑛斗先輩が……)
月宮学園に入学して、遠くに瑛斗先輩を見かけていたときは、氷の王子という別名から、勝手に冷淡な人なんだと思っていた。
でも本当は、笑って、怒って、熱くなる。
俺の知っている誰よりも、感情を露わにする人だった。
そんな瑛斗先輩が自分のことを卑下して笑わなくなったなんて、お兄さんの言葉でどれだけ傷ついてしまったんだろうと想像すると、俺の胸は締め付けられて目の奥が熱くなった。
「正直、新学期にはもう学校にいけないと思っていたわ。でも……瑛斗を暗いところから救ってくれた子がいるの。それが……リユニオンのリオンくんよ」
「えっ、リオンが……!」
急に出てきたリオンの名前に、俺の心臓は跳ね上がり、俯き気味だった顔を思わず上げた。
(リオンが……瑛斗先輩を救った……?)
「あの子はリオンくんに出会って、自分を取り戻したわ。推しの力って本当にすごいのね」
目尻に涙を溜めながらも満面の笑みを浮かべる美玲さんに、俺はどう反応していいかわからずにまた俯いて、膝に置いていた自分の手をじっと見つめてしまう。
(そんな……。リオンが瑛斗先輩を……)
正直信じられなかったが、今までの瑛斗先輩の言葉が咄嗟に思い出される。