「今日、理央くんを呼んだのは……。理央くんなら、瑛斗を最高に輝かせてくれるって思ったからなの」
(瑛斗先輩を最高に輝かせる……? 俺が……?)
瑛斗先輩のお姉さんが、俺になぜそんな期待をしているのか理解ができず、俺は思わず首を傾げてしまう。
「え、えっと……。瑛斗先輩のお姉さん?」
「美玲って呼んで」
瑛斗先輩のお姉さんは、俺の真似をするように首を少し傾げてから俺に近づいて来ると、目の前に立ってにっこりと笑った。
「……。美玲さん。俺に期待しすぎですよ。あんなに輝いている瑛斗先輩を、あれ以上になんて……。俺なんかに、そんなことできるはずないですよ」
「また、俺なんかなんて言うのね……」
「あっ……」
口癖のようになってしまっている言葉を指摘され、俺は慌てて口元を手で押さえると、そのまま俯いてしまった。
「ごめんなさいね。別に責めているわけじゃないの。ただ、つい最近まで瑛斗も同じようなことを言っていたから……。それで……ね……」
あんなに笑顔だった美玲さんの表情が、何かを思い出したように陰りを見せた。
「瑛斗先輩が……ですか……?」
(あの瑛斗先輩が……? じゃあ、さっき美玲さんが言っていた『理央君も』っていうのは……)
自信に溢れていて、三王子までを務める人気者の瑛斗先輩。
そんな瑛斗先輩がと、俄かには信じがたい話だったが、俺はもう、瑛斗先輩がそんなことを言い出す原因の可能性を知っていた。
「瑛斗先輩が……。自分のことを卑下するようなことを言っていたんですか?」
「ええ……。今の瑛斗からは想像できないでしょ?」
また笑顔を浮かべる美玲さんだったが、俺の目には無理して笑っているように見え、喉の奥が詰まるのを感じた。
「正直、俺が入学して見かけていた瑛斗先輩からは……。でも……」
(もし、原因があるとすれば……)
「それは……。お兄さんに、お前が死ねばよかったのにって言われたからですか?」
「……!」
美玲さんは驚いた様子で目を見開くと、自身の胸元に右手の手のひらを当てた。
「驚いた……。瑛斗が自分からそのことを話したの?」
「ええ……。聞いたのは、つい先日ですけど……」
「……。そう、なのね……」
胸元に手を当てていた美玲さんの手に、今度はギュッと拳が作られた。
「やっぱり、理央くんには心を開いているようね。安心したわ」
安堵の溜め息をつく美玲さんだったが、その表情はどこか暗かった。
(きっと美玲さんも、そんな瑛斗先輩の姿を見るのが辛かったんだろうな……。それもこれも全部……!)
俺は瑛斗先輩のお兄さんに対する怒りを思い出して、眉を顰め奥歯を噛みしめながら俯いて、自分の足先を睨みつけた。
「なんで……。なんで瑛斗先輩のお兄さんは、そんな酷いことを瑛斗先輩に言ったんですか? 家族を亡くした瑛斗先輩に……どうして!」
沸き立つような怒りに感情が抑えきれず、俺は声を荒げてしまうと、美玲さんは俺を落ち着かせるように俺の肩へ手を置いた。