「あら、可愛い反応。ねえ、中村。私と理央くんに駅前のコーヒーを買ってきてくれる?」
「……。社長……。先程のように、あまり海棠くんを困らせるのは……。私も瑛斗くんに海棠くんを託されている身なので、勝手をされては……」
「私は二人っきりで話したいだけよ。ねぇ、理央くん。それくらい、構わないわよね?」
「あっ……えっ……。はい……」
瑛斗先輩のお姉さんの勢いに押し切られるように、俺が戸惑いながらも頷くと、中村さんはそんな俺を見て不憫そうに深い溜め息をついた。
「瑛斗くんに怒られないよう、ほどほどにしてくださいよ」
「怒られるようなことなんてしないわよ。ほら、さっさと行ってきなさい」
「では……」
中村さんは後ろ髪を引かれるように、何度も俺たちのことを振り返りつつも、俺を置いてスタジオを出て行ってしまった。
「さあ、邪魔者は消えたわ。改めて……。どう? 瑛斗のモデル姿は」
「あ、あの……。ボキャブラリーが乏しくて恥ずかしいんですが、すごいというか、圧倒させられたというか……。あんなに人の目を惹きつけることができるなんて……」
「そうね。瑛斗は自分の見せ方を分かってる。それなりに頭も切れるから、何を求められているのか、何をしたらいいのか、ちゃんと自分で考えて行動しているわ。でも……」
瑛斗先輩のお姉さんは俺の前に立つと、指先でそっと俺の長い前髪に触れてきた。
そして、前髪を少し除けさせて、前髪に隠れていた俺の目を露わにした。
「どう? あなたのその目に、瑛斗は最高に輝いて見える?」
「あっ……。えっ……? ええ。それはもちろん……」
覗き込むように瑛斗先輩のお姉さんに見つめられて、俺は目が離せなくなる。
「じゃあ……。瑛斗をもっと輝ける方法があったら、試してみたいと思わない?」
にっこりと笑う瑛斗先輩のお姉さんに、俺はなんだか嫌な予感がして、思わず一歩後退ってしまった。
だが、まるで逃がさないというように、すぐに瑛斗先輩のお姉さんに手首を掴まれてしまった。
「えっ……?」
「さあ、ついてきて」
笑顔を崩さない瑛斗先輩のお姉さんは俺の手を掴んだまま、引っ張るようにして歩き出した。
「あ、あの……! 一体どこへ?」
「すぐそこよ。ほら、早く早く」
抵抗もできないまま手を引かれて連れてこられたのは、先程まで瑛斗先輩が使っていたメイクルームだった。
「ほろほら。入って、入って」
強引に背中を押されて中に入ると、中には美容室のような照明付きの大きな鏡と、応接セットがあったが、部屋には誰もいなかった。
「あ、あの……」
「怖がらなくて大丈夫よ。悪いようにはしないわ」
後ろ手に、瑛斗先輩のお姉さんがメイクルームの部屋の鍵をかけた音が聞こえた。
(な、なんかこの状況……デジャブを感じるぞ……)
「なんで、鍵なんてかけるんですか?」
「そんなの……。私のお願いを聞いて欲しいからに、決まってるじゃない」
そう言って、瑛斗先輩のお姉さんは俺に向かって満面の笑みを浮かべた。