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第44話 瑛斗先輩のモデル姿は……

「瑛斗くん、入りまーす」


 スタッフさんの掛け声で、メイクルームから出てきた瑛斗先輩へ一斉に視線が向けられると、その場にいた全員が思わず息をのんだ。


 胸元を大きく開けたシャツに身を包み、金髪の前髪をオールバックにして歩く瑛斗先輩。


 上品でありながらも艶めかしいその姿は、まさに妖艶という言葉がぴったりだった。


 壁際で中村さんと椅子に並んで座って見学しようとしていた俺はもちろん、瑛斗先輩のモデル姿を見慣れているはずのスタッフさんでさえ、瑛斗先輩から目が離せなくなっていた。


 大きな窓から差し込んでいた自然光は、暗幕でつくられたカーテンによって遮断され、壁から床まで一面真っ白でライトに照らされた背景の前に瑛斗先輩は立つと、陰影が際立って存在感がグッと増した。


 カメラを前にして立った瑛斗先輩は、もう俺の知っている瑛斗先輩ではなかった。


 俺は正直、瑛斗先輩が有名雑誌の専属モデルであることを噂で耳にしていたくらいで、実際に掲載されている雑誌などは、一度も見たことがなかった。


 だから、瑛斗先輩がこんなにも卓越したモデルとしての才能を持っていることを、俺は知りもしなかった。


 指輪をした指先を頬へ絡めさせるようにして、カメラのレンズに向かって横顔を向ける瑛斗先輩。


 ストロボとカメラのシャッター音が静かに響く中、カメラマンさんの声に従ってポーズを次々と変えていく瑛斗先輩は、一瞬も目を離したくないほど綺麗だと思った。


 そんな瑛斗先輩の姿を見て、俺はもっと見たいと無意識に椅子から立ち上がると、興奮と緊張からか、俺の手の指先が小さく小刻みに震えているのに気が付いた。


(これがプロ……)


 片時も視線を外したくないと思うほど魅力的で、どの表情も目を惹かれ、自然と目で追ってしまう。


(俺も、こんな風にできたら……)


 心を奪われるとは、まさにこのことだと思いながら、俺は瑛斗先輩に尊敬の念と憧れを抱き、自分の手をギュッと握りしめた。


「どう、理央くん? 瑛斗のモデル姿はカッコイイかしら?」


「……!」


 瑛斗先輩を見つめることに夢中で、いつのまにか隣に立っていた瑛斗先輩のお姉さんの存在に気付かなかった俺は、急に声をかけられたことで、思わず肩をビクっと振るわせてしまった。

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