エレベーターで三階に到着し、そのまま中村さんを先頭に廊下を少し歩いていくと、頑丈で重たそうな扉に辿り着いた。
中村さんが細身の身体で、体重をかけながら重たそうな扉を開けてくれて中に入ると、そこはまさに撮影スタジオだった。
広く柱のない空間に、汚れ一つない真っ白な壁。
見上げるほど高い天井には無数のライトと、交互に張り巡らされた金属製のレール。
外から見えた大きな窓からは自然光が中に差し込み、室内でも眩しいと感じるほどだった。
そんな中で、目まぐるしく殺伐と動き回る多数のスタッフさんがいた。
(これが撮影現場かー……)
俺は珍しい光景に目を奪われ、我を忘れて辺りをぐるりと見回してしまう。
すると、隣に立っていた瑛斗先輩が大きく息を吸い込んだのを感じた。
「おはようございます! 今日はよろしくお願いします」
瑛斗先輩の普段の姿からは想像できないような、スタジオ中に響くほどの大きな声で挨拶をすると、スタジオ内にいたスタッフさんが一斉に手を止め、こちらを振り向いた。
「おはようございます」
「おはよう。瑛斗くん!」
先程までの少々殺伐とした雰囲気が一変して、スタジオ中が明るい雰囲気に変わったのを肌で感じた。
スタジオ内は瑛斗先輩の顔見知りが多いのか、スタッフさんはこぞって瑛斗先輩に笑顔を向け、中にはライブ中の俺たちへ向けるような、高速で手を振るスタッフさんもいた。
(すごい……。瑛斗先輩が現場の空気を変えたんだ……)
一瞬で変わった雰囲気は、瑛斗先輩がこれまでスタッフさんとの関係をしっかりと築き上げてきた結果なのだと、俺は思わず感服してしまう。
ただ茫然と隣に立ち尽くす俺とは、やっぱり違うなと思いながらも、人として学ばないといけないものが多いと素直に感じた。
そんなとき、カジュアルな服装が多いスタッフさんとは違い、中村さんのようにスーツ姿の人が何人か集まる人の輪から、女性が一人こちらに手を振った。
「おはよう、瑛斗。その子が例の?」
ネイビー色のパンツスーツ姿の美人女性は、歩きにくそうな高いピンヒールなんて物ともせず、颯爽と俺たちに手を振りながら歩いて向かってきた。
手入れが行き届いたストレートの長い黒髪に、ピンヒールを脱いでも俺以上にあるであろう高身長。
黒髪に負けないはっきりとした目鼻立ちに、強くキリッとしながら知的なイメージを感じさせる姿は、まさに瑛斗先輩のお姉さんといった存在感のある姿だった。