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第41話  撮影現場にお邪魔しました。

(ここが撮影現場……)


 俺は瑛斗先輩の送迎車へ乗せてもらい、先日の約束通り、瑛斗先輩の撮影現場へお邪魔することになった。


 俺たちの乗った車が辿り着いたのは、都内の一等地にある、コンクリート打ちっぱなしの建物だった。


 外観はオフィスビルのような佇まいで、三階以上の高さから大きなガラス窓が壁のように連なっているのが特徴的だ。


 車はそのまま地下駐車場へと入っていき、車寄せで止まると、そこには小柄なスーツ姿の男性が、俺たちを出迎えるように一人で立って待っていた。


 瑛斗先輩の運転手さんがドアを開けてくれて、スウェットフルパーカーにチェック柄のパンツ姿の俺と、ドルマンシャツに細身のパンツ姿が良く似合う瑛斗先輩は、一緒に車から降りた。


「おはよう、瑛斗くん。今日もカッコイイね。えっと、そちらの方が例の……?」


「おはようございます、中村さん。はい、彼が海棠理央です。理央、こちらが今日お世話になる中村さんだ」


 瑛斗先輩に紹介してもらい、俺は慌てて中村さんに会釈をした。


「あ、あの。初めまして。海棠理央といいます」


「こちらこそ、初めまして。中村と申します。瑛斗くんのお姉さまの秘書をしております」


 中村さんは俺に会釈をすると、名刺入れの上で浮かせて持った名刺を俺に差し出してくれた。


「あ、ご丁寧にありがとうございます。って、えっ、あっ? 社長?」


 名刺交換のマナーも知らない俺は、とりあえず中村さんから差し出された名刺を両手で受け取ると、そこには中村さんの名前と社長室長という肩書が書かれていた。


(瑛斗先輩のお姉さんの秘書ってことは、お姉さんが社長……ってことだよな。俺はてっきり、ジュエリーデザイナーかなんかかと……)


 瑛斗先輩が俺にくれた指輪は、お姉さんの工房で作ってもらったと聞いていたので、俺は勝手に、お姉さんはジュエリーデザイナーだと思いこんでいた。


(まあ、社長さんでも、たしかに自分の工房か……。どちらにしても、すごい人だということは確かだな)


 俺は中村さんから受け取った名刺を、その場でまじまじと観察していいのかわからず、とりあえず後で会社名などじっくり見ようと、パーカーのポケットにしまった。


(そういえば、今更だけど今日がどんな撮影か聞いてなかったな……。雑誌の……なのかな? モデルってことは、服の……だよな。じゃあ、お姉さんのジュエリーが使われるってことかな?)


 アイドル活動をしているといっても、事務所スタッフによるグッズのプロマイド用撮影の経験があるくらいで、俺はプロの撮影現場にお邪魔するのも初めてだった。


 なので、貴重な体験ができると同時に、瑛斗先輩のモデル姿が見られると、実は今日が来るのを楽しみにしていた。


「しかし、驚きましたよ。瑛斗くんが友達を連れてくるから、社長に歓迎しろと急に言われたときは……。まあ、社長のことですから、きっと何かお考えがおありなんでしょうけど……」


「やめてくださいよ、中村さん。縁起でもない……。理央はただの後輩です。一般人ですよ」


「まあ社長が、瑛斗くんの初めての友達を紹介してくれるってことだけに浮かれていると、願いましょう。さあ、そろそろいきましょうか」


 中村さんに誘導されて、俺たちは車寄せからほど近い位置にあったエレベーターへ乗り込んだ。



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