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第37話 上書き……?

「理央……。顔が赤いみたいだが大丈夫か?」


 和兄に呼ばれて瑛斗先輩も塔屋に上ってくると、慌てて立ち上がった俺の顔を見た瑛斗先輩は、すぐに俺の異変に気が付いた。


「え……? いや、別に……。ちょっと上るのに苦労しただけですよ。あはは……」


 俺は誤魔化すように、首の後ろを掻きながら笑ってみせた。


「そうか。それならいいが……。もし体調が悪くなったら、すぐに言うんだぞ」


「あ、ありがとうございます……」


 何があったのか正直に瑛斗先輩に話せるはずもなく、俺は後ろめたい気持ちからか、はたまた恥ずかしいだけなのか、そのまま瑛斗先輩から視線を逸らすように俯いてしまう。


「理央……?」


「まあまあ、瑛斗先輩。それで? 今日はどうしたんですか? 残念ながら、理央はお弁当食べ終わっちゃってますよ」


「……。別に、理央のおかずを盗みにきたわけじゃない。波多野、お前を呼びに来たんだ。なぜ今日、生徒会室に来なかったんだ?」


「えっ……。和兄、生徒会に呼ばれてたの?」


 和兄は肩を竦めると、胸のあたりで両方の手のひらをとぼけた様子で上に向けた。


「さっきも言っただろ。呼ばれても、どうせオレは必要ないって。理央とのお昼の方が大事……って、痛ッ……」


 和兄の頭に向かって、瑛斗先輩は指を真っ直ぐ綺麗に揃えた状態で軽くチョップをした。


「バカを言え。これから運動部の新人戦が始まって、応援回りで忙しくなるっていうときに、波多野がいなくてどうするんだ? お前の予定を確認したいと、生徒会が待ってるぞ」


 三王子というこの学園の謎風習は、元々応援部が起源だったらしく、生徒の士気を高めるために発足されたらしい。


 創立百年を超えるこの月宮学園で、いつ誰が始めたかなど、詳しい歴史は俺も知らない。


 だが今は、学年のまとめ役であり、あらゆる行事や委員会活動を誰よりも率先して行うのが役目だ。


 そのため、学校行事以外にも、部活の大会応援などにも参加しているらしい。


「和兄……。やっぱり、行かなきゃいけなかったんじゃん。生徒会の人が待ってるなら、今からでも行ってきなよ」


「えー……。でもなー……」


 和兄は頭を掻きながら、めんどくさそうに溜め息をついた。


「和兄」


 窘めるように俺は和兄の名前を呼ぶと、和兄は空に向かって腕を上げて体を伸ばした。


「あーあ、仕方ない……。理央のために行ってくるとするか……」


 和兄は俺の頭をポンポンと軽く叩くと、俺と瑛斗先輩に背を向けて入口に向かって歩き出した。


 だが、すぐに足を止めると、満面の笑みを浮かべながら振り向いた。


「月宮先輩?」


「んっ? なんだ?」


「あんまり、理央を困らせないでくださいね。ご自身で蒔いた種はしっかり取り除かないとダメですよ。あと、オレがちゃんと上書きをしたこと、ご承知おきくださいね」


「上書き……? それはもう済んだはずじゃ……?」


 瑛斗先輩は不思議そうに眉間に皺を寄せ、首を傾げた。


(和兄が言う上書きって、まさか……)


 さっき突然されたおでこにキスのことを指していると気付いた俺は、反射的におでこを隠すよう手でおさえると、また頬が熱くなるのを感じた。


「あー、もう! 早く行きなよ。和兄!」


「はいはい。じゃあな、理央ー」


 慌てる俺を面白がるように笑いながら和兄は俺たちに背を向けると、今度は振り返ることなく塔屋から降りた。


 和兄の姿は目視で確認できなかったが、屋上入口の扉が開閉する音で和兄が立ち去ったことを判断すると、俺は安堵で肩を落とし、その場に座り込んだ。

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