「……」
予想もしていなかった話に、俺は相槌の言葉さえ発することができず、息を飲み込むことしかできなかった。
そんな俺に対して、瑛斗先輩は顔を逸らしたまま淡々と話を続けた。
「私を迎えにきたのは、父の秘書だった。父が直接迎えに来てくれなかったことを、少しだけ残念に思ったことを覚えている……。父は……私と今更どうやって接していいか分からないらしく、こちらに来てからも、ほとんど顔を合わせていない。兄と姉がいることも、私はこちらに来て初めて知ったが……。兄は……私のことを憎んでいる」
「憎んでる……? どうして? 兄弟なのに……?」
俺はよく考えもせずに、車の窓に反射して映っている瑛斗先輩と目が合い、疑問をぶつけてしまった。
「……。初めて会ったときに、お前が死ねばよかったのにと、はっきり言われてしまったんだ。私が……母を奪ったと思っているらしい。まあ、私を迎えに来るために事故にあったのだから、そうとも言えるなと思ってしまったが……」
笑って答える瑛斗先輩に、俺は動揺が隠せなかった。
「……! な、なんだよそれ……!」
敬語も忘れて声を荒げ、俺は会ったこともない瑛斗先輩のお兄さんに対して怒りで肩が震え、抑えきれずに自分の太ももを拳で思いっきり叩いた。
「理央……!」
顔を逸らしていた瑛斗先輩が、驚いて俺に顔を向けたことに気付いていたが、俺は自分の叩いた太ももを見つめたまま、顔を上げることが出来なかった。
「瑛斗先輩も何、笑ってるんですか? だって……瑛斗先輩は何も悪くないのに……。一番傷ついているのは瑛斗先輩なのに……どうしてそんな……。だいたい、瑛斗先輩のお兄さんってことは、もう大人ですよね? どんだけ大人げないんですか?!」
手が震え、また声を荒げても抑えきれない感情に、俺はまた太ももを拳で叩いた。
「ま、待った!」
これ以上俺が叩かないよう、瑛斗先輩は慌てた様子で手を伸ばして、俺が太ももの上で強く握りしめている拳を両手で押さえつけてきた。
「理央が自分を傷つける意味が、私には分からない!」
「俺だって分からないですよ! どうしてこんなに苛立ってるのか!」