「りおくんは、えいとおうじと、なかよしさんじゃないの?」
「ないの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「えいとおうじも、りおくん、なまえでよばないの?」
「そ、それは……」
先程の双子のように、俺と月宮先輩はお互い顔を見合わせてしまう。
(子供のこういう質問には、本当にドキッとさせられるよな……)
「え、えーっと……」
俺はなんて答えるのが正解かと、親指と人差し指で顎を挟んで上を向いて考える。
すると、月宮先輩は俯いたまま、何かを決意したように膝の上に置いていた自分の手を握りしめた。
「り……りお……」
「えっ……」
名前を呼ばれ、俺は月宮先輩を見つめると、月宮先輩は顔を赤らめさせて、照れた様子で俯いたままだった。
(それは、反則ですって……)
いつものように、何も気にしていませんといった様子で言ってくれなければ、こっちまで恥ずかしくなってしまう。
(あー、もう!)
俯いたまま顔を上げない月宮先輩に向かって、俺も覚悟を決める。
「え、瑛斗先輩……」
名前を呼んだ途端、一瞬驚いたように瑛斗先輩は目を見開いたが、すぐ嬉しそうに目を輝かせながら顔を上げた。
その姿はまるで、飼い犬がご主人様に名前を呼ばれた時のようだった。
「わーい! りおくんと、えいとおうじ、なかよしー」
「なかよしー!」
嬉しそうに双子は足をバタつかせ、手を叩いてキャッキャと言う。
俺はむず痒い気持ちになり、膝に肘をついて口元を隠すように手を当てながら、目線は外の景色を見るフリをして逸らした。
「ねー、ねー、えいとおうじー」
「な、なんだ?」
双子はすぐに飽きて別の話を始めると、今の出来事は、まるでなかったかのように思えた。
だが、ふと横目で瑛斗先輩を確認すると、その顔はまだ、耳まで赤くなっていた。
(瑛斗先輩……か)
心の中で俺はもう一度名前を呼ぶと、胸の奥に温かいものが広がって、鼓動が少しだけ速くなった気がした。
(なんだろう、この気持ち……)
俺はこの気持ちの意味が分からないまま、やっぱりむず痒い気持ちになり、落ち着かせるように外を見つめて、静かに溜め息をついた。